お買い物
「死ねぇぇぇぇ!!」
「その掛け声はおかしいだろ!?」
俺はエリシアが振るった模擬剣を避けながら叫ぶ
「ちっ...避けたか」
「避けるに決まってるだろ馬鹿野郎!!例えば模擬剣でもそんなの頭にくらったら死ぬわ!!」
エリシアが親の敵を見るような目で俺を睨んでくる
どうしてこんな状況になったかというと、今日は授業の一環としてコンビ内での互いの実力をするための模擬戦が行われていた
ちなみに俺がエリシアとまともに会話したのは入学式の日以来の三日ぶり
これがまともな会話と言えるかどうかは謎なんだけど
「はっ!」
「ほっ!」
「よっ!」
俺はヒラヒラと動きながら模擬剣をよける
「ねぇあんたが避けるとお互い疲れるから避けるのやめてもらえるかしら?」
「嫌に決まってるわ!それに当てられないのはお前の実力の問題じゃないか?」
俺は模擬剣をプラプラと振って挑発する
エリシアにかなり嫌味言われてるんだ、俺だってエリシアをおちょくる権利はあるだろう
「どうやら本気で斬られたいみたいね...」
エリシアはそう言って構えを変える
どうやらほんとに本気で来るみたいだ
俺としては最初から本気で避けていたんだけどな
それくらいエリシアの太刀筋はよかった、そういえばこいつ試験の合格確定枠だったな
「風よ───」
まじか、風魔法による身体強化をしやがった
身体強化(風)の効果は主に速度上昇
「はぁ────!!」
エリシアが踏み込み一瞬にして間合いを詰めてくる
この歳でこんなことが出来るやつなんて中々いないだろう
だけど...
「相手が悪かったな」
「えっ...?」
俺は模擬剣を振るいエリシアの手から模擬剣を弾き飛ばす
「中々だったけど見切れないスピードじゃなかったぜ?それにお前魔力少ないから今の身体強化だけで精一杯だろ?」
「くっ...」
俺に返されて驚いたのだろうか、悔しさが顔に出ていた
これを機に俺に対する態度が軟化してくれると助かるんだけどな
そしてちょうどいいタイミングで先生の集合の声がかかる
「そんなこと...だっ...かってるわよ...」
エリシアは項垂れたまま集合場所へと向かう
その前になんかボソッと言ってたが...
「なんか俺が悪者みたいだな...」
流石にやりすぎてしまっただろうか
まぁちょっと露骨に挑発したりおちょっくりしてしまったのはよくなかったかもな
◇
「知ってはいると思うが、来週には新入生合宿がある。合宿で必要なものの一覧を書いたプリントを配る。各自合宿までに用意しておくように」
新入生合宿、その名を聞いただけで正直頭が痛くなる
一泊二日で行われるこの合宿、なんとずっと一緒にコンビで活動しなければならないのだ
お分かりいただけただろうか?つまりこの合宿俺はエイシアと2日間一緒にいないといけないわけだ
今日の模擬戦闘訓練から想像するに険悪なムードになるのは不可避だろう
先生からの話はそのプリントのことだったようでホームルームが終了し、放課後を迎える
そして帰る準備をしているとマルカスとロイドが俺に話しかけてくる
「ルーク、よかったら明日の放課後合宿用の道具の買い物一緒に行かないか?」
「まじで?いいのか?」
「あぁルークはまだ王都のことよく知らないって言ってたからな、店もよく知らないんじゃないか?」
「そうなんだよ、ほんとに助かる」
流石ロイド、気が利くイケメンだぜ
合宿のために用意すべきものをどこで買えばいいか知らなかったからマルカスとロイドに聞こうと思っていたんだんどけど、2人から誘ってくれるとはほんとにありがたい
そして次の日、約束通り3人で放課後街で買い物をする
「合宿とかで必要なものを買うのにおすすめなのはこの店だ。学園指定とかじゃないんだけど、騎士科の生徒だったらだいたいこの店を利用するらしい」
ロイドの説明を聞きながら俺たちは店の中に入る
「よし!じゃあこっからは自由行動だな!お互い適当に見て回ろうぜ!」
と言い残してマルカスは店のどっかへ行ってしまう
「あいつはまったく...悪いルーク、俺はあいつが無駄遣いしてないか見張らないといけないみたいだから、1人で大丈夫か?」
「あぁゆっくり見て回ろうと思うから気にしないでくれ」
そう言ってロイドがマルカスを追う
ロイドとマルカスは幼馴染みたいだが、ロイドは前から苦労してそうだ
とりあえず1人になったのでロイドに言った通りゆっくりと見て回ろうか
俺はプリントを片手に色々と見て回る
プリントに書いてあるのは大体がサバイバル用品だ
合宿でどんなことさせられか想像がつく
しかし店の中を見て回るのは面白いな、流石王都と言うべきか
「とりあえずまず見るべきは服か」
俺は適当に店内をまわりながら服が置いてある場所を探す
途中でマルカスが「これすげー!」ってアホなことしてるとのを見たけど見なかったことにしよう
「正直どれがいいとかよくわからねぇな...」
とりあえず耐久性と着心地が優れたやつがベストだな
あとはあまり目立たない色をしてるのを購入したい
なんか新モデルとか、こだわりのデザインとかいううたわれ文句ばっかで結局どれがいいか分からない
「そこの君、ちょっといいか?」
「ん?......なっ......」
誰かに声をかけられたと思い、振り返ってみるとそこには予想にもしていなかった人物が目の前にいた
「君は...新入生か。悪いがこれとこれ、どっちが似合ってると思う?」
「え、う、あ...リーズハルト先輩......!!」
「ん?もしや君私のことを知っているのか?腕章の色、君は新入生だろう?」
やはりこの金髪を見間違うわけない
目の前いる女子生徒はリーズハルト、この前カイ先輩と風呂覗きをした時に俺たちに問答無用に雷魔法をぶち込んできたカイ先輩曰く騎士科最強──
それが今俺の目の前にいる
この前の風呂覗き、もしかしたらあの時顔を見られていたかもしれない...かなりまずい状況だ
「まぁ私のことを知ってることはどうでもいい。とりあえず君にはこれとこれ、どちらがいいか教えて欲しい」
そういってリーズハルト先輩は手に持っていた二着の訓練服を自分に重ねて俺に見せてくる
これはもしかしてバレてないのか...?
「リズちゃん、いきなりどっか行かないでって......あれこの子は?」
俺とリーズハルト先輩の謎の沈黙の間に1人の女性の声がリーズハルト先輩の後から聞こえてくる
「ん、あぁアリエルか。この2着どちらにしようか迷っていてな、ちょうどいいとこにこの新入生がいたから意見を聞こうと思ってたところだ」
「あらあら、もうそんなことしたら新入生君が困っちゃうでしょ......ってあれ、君はこの前カイ君と一緒にいた...?」
突如現れた青い髪の女性、制服の腕章の色はリーズハルト先輩と同じ色の赤い色、つまり2年生でありリーズハルト先輩と同級生だ
......え、カイ君?.........カイ、なんか聞き覚えることのあるような.........
ってそれってカイラッドことカイ先輩のことじゃないか?そのカイ先輩がカイ君だったら一緒にいたって......
や、やばい...これはまずいぞ
リーズハルト先輩にバレてないと思ったが、もしこの青い髪のお姉様が話してしまったら...
「どうしたアリエル、この新入生のことを知ってるのか?それにカイという不穏な名前が聞こえたが?」
「うふふ、勘違いだったわ。ごめんなさいね、いきなり話しかけて私は2年生のアリエル、君の名前はなんて言うのかしら?」
「あ...えと、俺は1年生のルークと言います...よろしくお願いしますアリエル先輩」
「うふふ、よろしくね。リズちゃんも自己紹介したら?」
「む、そうだったな。すまない...ルークと言ったか、私は2年のリーズハルトだ。よろしく頼む」
「あぁえっと...はい、よろしくお願いします」
俺はリーズハルト先輩から差し出さられた手を握り、握手を交わす
そしてその流れでアリエル先輩とも握手と交わす
「ちょうどいい、アリエル。お前も意見をくれ、これとこれどっちがいいと思う?」
「もうリズちゃんまた買うの?この前買ったばっかじゃないの?」
「あぁ買ったぞ。だがこれを見てくれ、私が気に入っているブランドの新作だ。これは買わずにはいられないじゃないか」
「もうリズちゃんはそういって買うんだから。寮のクローゼットリズちゃんの訓練服ばっかにするわけにはいけないんだから買うのは許しません」
「むっ...そ、そうか...確かにそれもそうだな」
アリエル先輩にメッと怒られ、シュンとなって商品棚に持っていた訓練服を戻しに行ってしまう
「ふふ、ごめんなさいねリズちゃんがいきなり話しかけて、びっくりしちゃったね」
「あー...いえ、大丈夫ですよ。驚きましたけど困りはしませんでした」
あの時のことがバレなかったら俺はなんでもいいんですよ
嫌な汗かきまくったけど、命が無事なら俺はいいんですよ
「さて、じゃあ私も行くねルーク君......今度からはカイ君に誘われても悪さしちゃダメよ?」
そういってアリエル先輩は綺麗な青い髪を流して去っていった
悪いことしちゃダメよ......つまり俺が風呂覗きをしてたことはバレてたのか
それをわかっていたながらあの場で黙っていてくれたあの人は女神かなんかなのだろうか......
そんなことをいきなり考えているといきなり背中に衝撃が走る
「おい、ルーク!!どういうことだよお前!!あのリーズハルト先輩とアリエル先輩と話してるなんて??」
「いってぇ.........誰かと思えばマルカスかよ、いたのか」
「いたのかじゃねーよ!!なんでお前はあの二人と楽しそうにお話してたんだよ!!」
「いや、全然楽しくなかったつーの」
しっかり見てたか俺のこと?嫌な汗かきまくりだったぞ馬鹿野郎が
しかしこのマルカスの反応ぶり、こいつが過剰なだけじゃないか?
と、考えていマルカスの後ろにいたロイドに視線を向ける
「マルカスほどじゃないけど、俺もかなり驚いてるよ。どうしてあの有名な先輩二人と話してたんだ?」
「え、あの人たちそんなに有名なのか?」
「当たり前だろ!!リーズハルト先輩は学園最強の騎士、そしてアリエル先輩は去年の学園祭のミスコン優勝者、学園の女神、そしてアイドルと呼ばれている人だぞ!!」
「お、おぉ...」
マルカスが熱く語る
なるほどそういった理由で2人はそれなりに有名な人なのか
「俺はアリエル先輩のことはマルカスに嫌という程聞いてたから知ってる程度だけど、リーズハルト先輩なら騎士科の生徒だったら誰でも知ってるくらい有名な先輩だよ」
「やっぱあのリーズハルト先輩はかなりすごい人なのか。そして青い髪のアリエル先輩は学園のアイドル、確かに今思い返してみれば美人な人だったな」
あまりにパニックになってたからそんなことまで気が回らなかったな
しかしマルカスが言ってた学園の女神ってのは納得だ、あの人女神のように懐が深い先輩だった
「学園の美人コンビ、この名前は多分この先必ず聞くと思うぜ。その美人コンビってのが何を隠そうあのリーズハルト先輩とアリエル先輩だからな!!」
こいつはこいつでなんでそんなことまで知ってんだよ
俺が知らなすぎなだけか?いや、でもロイドもマルカスから聞いてて知ってるだけって言ってたしマルカスが詳しすぎるだけか
「しかしあの二人がコンビねぇ...そらゃ目立つわな」
「当たり前だ、あんな美人で剣の腕もすごいと来たら有名に決まっている。それに二人とも彼氏はいないらしいぜ?」
「まったくお前はいつもいらない情報ばっか知ってるな」
「ロイドの言う通りだぞ。それに2人に彼氏がいないからってお前とは付き合わないと思うぞ?」
「俺もルークに同意だ」
「お、おいっ!!二人ともそれはひどすぎやしねぇか!?」
俺とロイドの弄りにマルカスが涙目になって反論する
学園の最強と学園のアイドルだぞ?どう考えても俺達には高嶺の花だ
だけど、それでもマルカスがあの二人どちらかをモノにしたらそれはそれで奇跡だと思うから見てみたいという気持ちもあるけどな
「ところでルーク、買い物は終わったのか?」
「あ、やべぇ全然してなかったわ」
訓練服買おうとしててリーズハルト先輩に話しかけられてからそのままだったな
ふむ、俺が買おうと決めたものは.....ゼロだ
「おいおいルーク、お前1人で買い物もできないのか?」
マルカスにバカにされる始末だ
くそ、お前だってロイドがいなきゃ色んなものみて遊んでるだけだろうが
まぁこの際色々迷ってたわけだし、2人におすすめを聞いて買うのがいいか
そしてそのまま2人におすすめなものを聞き、自分なりに見定めながら合宿に必要なものを購入していく
さて、これで合宿の準備はバッチリだ──