行方
「───っ......!!」
ズキンと頭に痛みが走り、私は目を覚ます
「ここはどこなの...?」
私は森の中を走っていたはず、だけど周りは真っ暗で手から感じる感触はひんやりとした岩の感触
「一体どうなって......っ──!!」
立ち上がろうとしけど右の足に激痛が走る
手で触れてみると足首の当たりが大きく腫れて膨らんでいる、いつの間にか足を挫いていたみたいだ
手探りでカバンを探り、中からランプを見つけ出し灯りを灯す
「ここは...洞窟?」
辺り一面岩に囲まていて左右に通路が広がり、空気はひんやりとしている
自分がなぜここにいるのかを思い出すしかない...
「私、森の中を走っていてそれで...」
そうだ、いきなり足元が不安定になって落下したんだ
その落下先がこの洞窟、そしてたぶんその時に頭を打って気を失っていたのだろう
「そうだ、マラソン──っ!!」
自分が今何をしている途中なのかを思い出し、踏み込むが右足に激痛がはしり走り出すことができない
そしてその痛みが自分を冷静にさせ、どちらに向かうべきかも分かっていないということに気づく
「それでも私は...」
それでも私はなんとしてもゴールしなければならない、誰よりも早く...
誰よりも認めて貰えるために──
『グゲ、グギギ...』
唐突に響く唸り声
私は声がする方向にランプを向ける
「うそ...どうして...?」
そいつらは影と共に現れる
『グギ、グゲ...グギギ...』
緑の肌を持つ小鬼...そう、ゴブリンだ
見える数は三体、だがそれ以上の鳴き声が置くから聞こえてくる
口元から鋭利な牙をみせながら、私に近づいてくる。ゴブリン程度の魔物だったら故郷で何度も倒したことがある...でもこの状況はかなり危険...
私は何とか立ち上がり、腰からナイフを取り出し構える
『グガッ!!』
三体のゴブリンが飛びかかってくる
「──っ!!」
私はナイフを振るい、襲いかかってくるゴブリンたちを倒し、魔物特有の青い血が地面に流れる
そして私はゆっくり後ろに後退する
ゴブリンは群れをなして集団で生活する魔物だ。先生達は魔物を駆除されているといったがこのゴブリンたちはこの洞窟を住処としていて、何らかの理由で駆除を逃れたのだろう
だったらここにいるゴブリンはこの三体だけじゃない。まだゴブリンたちの鳴き声や足音が三体のゴブリンが出てきた先から聞こてえくる
体力の消耗を激しいし、右足が使い物にならない
だから今は逃げるしかない
私は右足を引きずりながらゴブリン立ちが来た方向とは逆の方向へ歩き出す──
◇
「ったく、なんなんだよこの雨はよ...」
ただひたすらにエリシアの魔力であろう感知した魔力を目指して森の中をかけていく
激しい雨が身体をうち、暴風が吹き荒れる
ちんたら走ってるわけにはいかねぇか
俺はもう一度「龍よ──」と唱え龍魔法を発動させる
体内の魔力が高まり脚に熱が走る
使用した能力は龍人化、今回は脚の部分だけを龍化させている
変化した足で地面を踏み込む
そして一気に森を駆け出す
「くそ、どうなってんだ...?」
魔力を目指してほぼ直線上に走ってきたが、あと少しというという所でエリシアにたどり着けない
ここは樹海と言ってもかなり地面の隆起が激しい、正直山って言われても疑問には思わないくらいだ
そしてエリシアらしき魔力の反応は、俺が頂上にいる隆起の真下、この深さはたぶん地下だ
地下洞窟でもあんのか?どうする...入口を探すか?...いや...
「作った方が早いな...」
そして俺は拳を振りかざす──
◇
『グゲゲッギャギッ─!?』
「はぁ...はぁ...これで終わりね...」
追ってきたゴブリンたちを何とか逃げながら全て撃退する
剣を杖がわりにしてなんとか息を整える
なんとか危機を乗り越え今一度自分の状況を確かめる
私はマラソン中どこかの穴に落ちてここに来てしまった
まわりの壁の感触や気温の低さを考えてみると洞窟であることが考えられる
「足は...あんまよくなってないわね」
落ち着いてきたせいか右の足首の痛みを再び感じ始める
手で触れてみるとパンパンに足首が腫れていた、穴に落ちた拍子に足首を挫いたんだろう
「追っ手の気配はないわね」
耳をすませるがさっきまで聞こえていたゴブリンたちの鳴き声は聞こえてこない
追っ手が来ないうちに先に進むべきだろう。逃げた方と逆の方からゴブリン達がやってきたということは逃げている方向は正しい可能性が高い
そして私はそのまま足の痛みを我慢して先へ進む
「...光?──出口っ!!」
闇の向こうに光が見える、私は光へ向かって早足で向かう
だけどその光の正体は私が期待していたものとは違った
「はぁ...はぁ...なに...これ...??」
光の正体は壁一面に埋まっていた綺麗な鉱石から発せられているものだった
その空間は先程の洞窟とは違いドーム状に広い空間となっている
「......何やつだ?」
「えっ──」
声が聞こえた、その声の元に目を向ける
「う、そ.........」
誰かが救助に来てくれたと思った、だけどまたしても私の希望は綺麗に折られることになる
「ふむ、人間か...」
その人語を操るものは人ではなかった。肌は薄緑色をしており、額には小さな角が2本、そして口元には牙をのぞかせている
あそこにいるのはモンスターだ、モンスターとしか考えられない
「あんたはいったい何者よっ!!」
「何者...?ふむ、さしずめゴブリンの王といったところか」
「ゴブリンの王...まさかゴブリンロード!?」
「ほうゴブリンロードとな...人間達の間では私はそう呼ばれているのか、実に良い」
ゴブリンの王...ゴブリンロードは楽しげに笑っている
「私がゴブリンロードとして誕生したのはつい先程でな。腹が減ったから人間を集めに子分たちに行かせたのだが...貴様から子分たちの血の臭いがする。貴様私の子分をころしたな?」
「子分?ゴブリンたちのことかしら?」
「左様、本当はよくも殺してくれたなと言いたいところだが人間が私の目の前に来たから許すとしよう」
「誰があなたのエサですって?」
「貴様だ、貴様。肉はさほどのってないようだがなかなか美味そうだ。目覚めの食事としてはちょうどよい」
やつは今誕生したのはつい先程と言っていた。運悪くこの森でゴブリンロードが生まれたっていうの!?
運が悪いという話ではない、ゴブリンロードが生まれるのは10年に1度の災害並みの可能性だ
ありえない、そう言いたいけどありえてしまっている
絶望につぐ絶望、私は確信してしまった
私はここで死ぬのだと───
「さて、腹を満たすとするか」
「えっ───」
20メートル以上離れていたはずのゴブリンロードが一瞬にして私の目の前に現れた
これがゴブリンロード、災害とも称されるモンスターの王の一つ
私は全てを諦めて膝をつく
「抵抗しないのはいい心がけだぞ。一瞬で殺してやる」
ゴブリンロードは拳を握り腕を振りかざす
私は覚悟を決めて瞳を閉じる
「死ね、人間──」
「───っ!!............え?」
明らかに拳が何かに届いたような強烈な音がなった。だけどその拳は私には届いてこなかった
「......ったく、人が必死に探したのに諦めようとするんじぇねぇよ」
瞳をあけるとそこには私が想像もしなかった男の姿があった