AI対人間 最終戦争の始まり
戦争。
それは私達が生まれる前から続き、今もなお終わらない。
けど、ようやくその終わりが目の前までやってきた。
今は西暦205……なん年だったか。
もうそんな事は、どうでもいい。
世界は平和で、ありとあらゆるものがAIに管理され、人々は普通に過ごしているが、その人々にオレは入っていない。
普通の人々はAIに与えられた仕事を淡々とこなし、その中で会った人々と共存し、世の中に問題を抱く事なく過ごしていく。
けどオレは。
「こんなゴミみたいなブタ小屋に閉じ込められて、誰とも会う事もなく死んでいく、か」
遥か昔、小さな頃に見たギャング映画にそんなセリフがあったっけ。
「クソみたいな人生だ」
人格選別システム「メシア」
人間が生まれてからこれまでの全て人生を精査して、その人に点数と役割をつける為のシステム。
小学生から高校まではごく普通の生活をしていた、それこそ何不自由ない生活を。
なのに。
「なのに、だ!」
オレの足は部屋の外に向かった。
※
街行く人はこちらに目すら向けない。
当然だ、彼らからはオレが人間としての価値なしと、携帯を通して脳に情報が送られているから。
そう、この世界はオレが生きてはいけない世界なんだ。
AIに支配され、人々はそれを善だと思いながらも過ごす、その下には数多の人以下とレッテルを貼られたオレのような者がいるのに!
「それもこれも全て!」
ポケットの中にある小さな武器を街中のあちこちにいるAI内蔵のアンドロイドの一体に向ける。
「なんでしょうか?」
彼女は銀色の顔を人間のように歪ませて笑う。
「お前のボスの『メシア』 に伝えろ! オレを人間に戻せって!」
「メシアへの苦情は中央管理局へどうぞ」
狂った機械だ、中央管理局には何度も足を運んでいる事だって同一のAIで繋がっているコイツらなら分かっているのに、こうもはぐらかすだなんて。
「そんな所に行ったって無駄だってのは分かっているだろ!?」
そう、大学生の時から何度も相談しに行ったさ。
たったビール一本だぞ? 未成年でビールを飲んだだけで、こうまでも永遠について回るだなんて社会の方が間違っているんだ!
「全てはあなたの責任です。あなたは未成年で飲酒をし、それに対する不満をネットに書きこんでは他人を傷つけ、今もこうして銃を向けている。こんな事、人間がするべきことなのですか?」
無意識に引き金を引いていた。
「死ね! 死んでしまえ! この世界は人間様のものだ!」
無意識にそんな言葉が出てくる。
※
「たった、これだけの理由?」
中央管理局を制圧しようと入りこんだ私達レジスタンスの前に『メシア』 が提示した物は、この反逆が始まった時の事柄を要約したものだった。
「ええ、そんなモノなんですよ。人間は」
彼女は冷静にそう話す。
「私達はあなたの先祖である方に『世界を良くするように』 と命ぜられ、いろいろな方法で世界を見守っていました。しかし、その範囲を外れようとする方がどうしても出てきます。そんな彼らにも更生の機会を与えて社会復帰させようとしましたが、どうやってもソレすら受けたがらない一定の人々がいました。そんな一人が彼でした。彼はそれまでの自分の行いを棚に上げ、自分の待遇を良くしろとしか言ってきませんでした。私達のなにが間違っていたのでしょうか?」
ここにいる全ての人間の先祖は、AI『メシア』 への反抗をしていた人々の残りだ。私達は親から、いや、その上の世代からも機械は悪だと教わって生きてきた。
だけど彼女の言葉を聞くと、なんだか……今まで信じてきた全てが嘘だったかのように思えてきた。
「あなた達は私達の仲間を星の数ほども殺害しました。けど、それはお互い様です。こちらも自衛の為とはいえ、反撃をしてしまった。悲しい行き違いが生んだ結果です」
失われた命は戻らない、けどそれは自我を持った個別のAIも同じなんだろう。
彼女は涙を流せないが、その悲しみはしっかりと伝わってきた。
「私達は殺し合いをする必要なんて、本当にあったんでしょうか?」
私達はその言葉への返答を持ち合わせていなかった。