第十六章 決断の時
1
理奈は悠の言葉を思い出していた。
『オレだったら“予定外の者”かな。決められた道を歩くなんて面白くないじゃん。それより自分で道を切り開く方がカッコイイと思わない? だからオレはその人と一緒になって未来を創る事を選ぶよ』
理奈が赤い糸の事を最初に相談した日に、悠が笑顔で言った言葉だった。楽観的な悠らしい言葉が、今の理奈には共感できた。
もし自分に未来を変える程の権利があるとすれば、その誘発に乗ってみようではないか。道を外して来た予定外の者と一緒になって、未来を切り開くのも良いかもしれない。それが真実の愛になるならば、どんな困難にも打ち勝つ事が出来るだろう。きっと幸せな人生に辿り着けると信じたい。
そして頑なに心を閉ざすa2に、自分が選択した相手が間違っていなかったと、教示したいと思った。
理奈はその決意した答えを言って聞かせた。
「予定外の者を選ぶ」
「………」
理奈の答えにa2は一瞬躊躇した。理奈はその事に気づかない。
「…本当にそれで後悔しないか?」
「しない」
相手が誰か判らないので、後悔するかどうかの判断も出来ない。もう自分の心に決めてしまった。理奈の意思は揺るぎなかった。その眼には迷いの光は無い。
「判った」
a2は直ぐに気持ちを切り替える。既に頭の中は相手を斬る事に意識が行っていた。
a2は椅子から立ち上がると、理奈に渡した指輪を外す様に言い、それを受け取る。 そして踵を返してドアへと向かった。
着ている上着の裾が金魚の尾の様にひらひらと揺れるのに、理奈は目を奪われていた。
2
彼は彼女の許へ向かっていた。
今迄気づかなかった自分の気持ちが見えた時、直ぐにその想いを彼女に伝えたくて、走り出していた。
塵の様に積漸したその想いは遂に充溢し、自分でも制御できない程、彼の心を支配していた。
彼は走りながら、どうしてもっと早くこの気持ちに気づけなかったのかと、後悔と焦りの念に襲われる。だが、まだ間に合う。この想いを伝える事によって、二人の新たな関係が築けると信じていた。
高鳴る鼓動と共に緊張と喜びが増して行く。彼女にどんな言葉で伝えれば良いだろうか。口元に笑みを浮かべ、頭の中でその言葉を探していた。
彼女の家に着くと、構わず玄関の扉を開けて入って行く。逸る気持ちを抑えながら彼は言った。
「判ったんだ!」
彼は階段を一気に駆け上り、彼女の部屋のドアを勢い良く開けた。




