第八話 会合〜暗雲〜
「いいですかリル様。淑女たるもの、自分を美しく飾り付けなければなりません。それが、あんな野暮ったい服などを着てはいけません。本当なら、その手袋だって外していただきたいのですよ」
大柄のメイドに髪やら服やらを色々と整えられながらリルはバレないよいにそっとため息をついた。
あの後、スピンドル等に連れられ城に入ったリルは壮絶な叫び声に迎えられた。叫び声を上げたのはメイド長のミナスという女性ですぐさま近くの部下に湯を沸かすよう指示をするとリルの手を引っ張り浴場まで連れて行き服を脱がし始める。リルの必死の抵抗により手袋だけは勘弁してもらったが他の服脱がされた服は持って行かれ裸にされたリルは湯船に叩き落とされる。そして、全身を洗われ今に至るのである。
「メイド長、こんな服はどうでしょう?」
1人のメイドの持ってきた服を見て、リルは倒れそうになった。ピンクがベースで裾にはレースがふんだんに使われ、首もとには血のように赤いルビーが飾り付けてある。
「ダメです。それより白いドレスにしましょう」
ミナスが首を振り、自分でドレスを取り出して来る。リルはもう一度ため息をついた。
「へぇ、化けたもんだね」
椅子に座ったストラが少し驚いた表情で部屋に入って来たリルに声をかける。青いラインの入った白いドレスで身を包み、同じく髪にも白い花の髪飾りをつけたリルは恨みがましい視線をストラに向ける。
「何でストラさんは何も言われないんですか」
「昔は散々言われたさ。見つかる度に逃げてたら向こうも諦めたみたいでね」
ストラは笑い声を上げる。
「いや、でも本当にに綺麗ですよ。まるで天使みたいです」
スピンドルの言葉に一瞬、リルは目を伏せる。スピンドルはそれを目敏く見つけるが何も言わなかった。
「そういえば殿下はどこに?」
細長い長方形の部屋で同じく長方形の机に着いているのはスピンドルとストラだけだ。
「もうすぐお出でになりますよ」
辺りを見回すリルにスピンドルが言うと、奥の扉が開いた。
「皆さん、お待たせしました」
ヨハネが一人ね頭にフードをかぶった女性を連れ扉から入ってきて席に着く。
「では、会議を始めましょうか。リルさん、あなたはどれくらい状況を把握してますか?」
「私が知ってるのはワームが毎日、現れて魔法使いが襲われてることくらいです」
リルの答えにスピンドルは頷く。
「それが、一般の人にしている説明です。本当はそれだけじゃないんです。ワームに襲われた人の姿はもちろん遺体すら見つかってないのです。つまりは襲われた後、連れさらわれている可能性が高い。そして、今度は殿下が襲われると、そこに座っているラミアさんが予言したわけです。そして、今夜も同様に私の部下もさらわれたことを見ると同一犯でしょう」
リルが見るとラミアと呼ばれた女性は僅かに頭を下げる。
「予言者ですか」
リルが尋ねるとラミアは再び頭を下げ頷く。
「ラミアさんは大変、優秀な予言者で、過去にも大火事を予言するなどで信頼性も高いんですよ。まぁ、その話はおいておいてリルさん何か気付いた事は?」
「……今夜現れた怪物はワームとは比べものにならないほど精巧で強力でした。あれほどの物を作り操るには1人の魔力では到底、足らないと思います」
「それは、私達も分かっている。だから、これからは複数犯だと考えて動く」
ストラの言葉にリルは首を振る。
「普通ならそう考えるでしょう。けれど、それなら、ワームを単体で使ってた理由がありません。それに今夜の怪物には魔術師の個性というか癖がありませんでした。ここからは推測ですが、犯人は捕らえた魔術師の魔力を取り入れて使用しているんです」
その場にいた全員が驚いた表情を浮かべる。
「そんな事が可能なんですか?」
驚いた表情のままスピンドルが尋ねるとリルは頷いて答える。
「昔、読んだ本によると可能です。ただし、普通なら不可能です」
「どういうことですか?」
スピンドルが聞き返すとリルは再び頷く。
「その方法は本来、魔力を無くした魔術師に魔力を送り再び魔力を使えるようにするものです。しかし、その方法で自分の許容量を超える魔力を入れれば空気を入れすぎた風船のように」
「破裂してしまうんですね」
「はい、ですが、他に何か器があれば、そう、例えば強力な霊獣がいれば出来るかもしれません」
リルは言い切るとふぅと息をついた。
「もし、本当にそうなら。私達の相手は魔術師、30人以上の魔力を持ってることになりますね」
スピンドルが暗い表情で言う。