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第七話  殲滅〜対面〜

話があるとハニェルがリルを部屋に呼び出したのは二日後の夜だった。


「ハニェルさん、リルです」


リルはハニェルの部屋のドアを軽く叩く。


「開いてるから入って」


声に導かれリルが部屋に入るとハニェルが部屋の真ん中に座っている。周りには書類が周りに散らばっている。


「汚くてごめんね。適当にその辺に座って」


言われた通りに書類をどかしスペースを作るとそこに座った。


「アルセムって名前なんだけど該当したのは一人だけ。でも、ちょっと問題があるのよね」


手に取った書類からハニェルはリルに探るような視線を送る。


「構いません」


リルが言うとハニェルは頷き、一枚の写真をさしだした。写真には薄い緑色の短い髪をした少年が写っている。


「アルセム・クルシクル。面の名前はヨハン・クルシクル。14歳。この国の王子様よ。ヨハンっていうのは公表されてる名前に対してアルセムっていうのは家族とか親しい仲で使われる隠された名前なのよ」


 「どうすれば彼に会えますか」


「仮にも王子だから会うのはかなり難しいかもしれないわね。一番、簡単なのは……」


言葉を切ってハニェルは表情を引き締める。


「ハニェルさん?」


リルが不思議そうに尋ねると下の階でバタンとドアの閉まる音がした。


「やれやれ、こんな夜更けに。もうとっくに店じまいは住んでるっていうのにね」


ハニェルは首を左右に振ると立ち上がった。


「ハニェルさん、私も行きます」


リルも続いて立ち上がるとハニェルは頷く。


「うん、リルちゃんにも来てもらった方がいいかな」


一階に行くとライオネルが立っていた。


「ライオネルさん?」


リルが声をかけるとライオネルは笑みを浮かべた。


「よう、リル」


「どうしたんですか?こんな時間に」


「この間の助けてくれるって約束。もう使っちゃってもいいか?」


「別にいいですけど何かあったんですか?」


「ちょっとな」


ライオネルは苦笑いを浮かべる。


「ライオネル君だっけ?あんまり喋らない方がいいよ。その傷、浅くはないでしょ」


ハニェルはライオネルの脇腹の辺りを見る。


「傷?」


リルもつられてライオネルの脇腹を見るとおびだたしい量の血で濡れている。


「ライオネルさん!」


リルの悲鳴にライオネルは再び苦笑いを浮かべた。


「騒ぐなよ傷に響く」


ライオネルはそう言うとゆっくりと膝をついた。


「早く手当てを」


 リルは焦って奥に行こうとするのをハニェルが引き止める。


「まぁ、私に任せて」


ハニェルはライオネルの傷口に手を触れた。ハニェルが触れると血はすぐに止まっていく。


「治癒魔法?」



「そんな大層な物じゃないよ。血液を操作して循環させているだけ。でも、血が流れることは無いし。血が流れなければ死ぬことはない」


「ありがとうございます」


ライオネルはハニェルに言うとリルに再び目を向ける。


「助けてほしいんだ。今、うちの部署が受け持ってる任務で少しまずいことになってんだ」


リルは黙って頷く。


「場所は何処ですか?」


「サンタクリアの右の端。東門の脇に小さな小屋がある。騒ぎになってるからすぐにわかる」


リルは頷くと立ち上がった。


「行くのね」


ハニェルが尋ねるとリルはハニェルに向かい合う。


「はい、約束しましたから」


「行ってらっしゃい。明日の開店には戻って来るんだよ」


リルは頷くと飛び出して行った。


「さて、私も片付けておきますか」


リルを見送るとハニェルは店の奥に視線を向ける。


「出てきなさい。この子を追ってきたんでしょ?」


視線の先からは人間より一回り大きい異形の人の形をしたものが出てくる。そいつは姿勢を低くすると刃のような両腕を構え、威嚇するかの様に声をあげる。


「いいよ。来るなら来なさい」


挑戦的な口調でハニェルが告げるとそいつは襲いかかり腕を振り下ろした。しかし、その刃は水球が受け止めハニェルには届かなかった。


リルが小屋に着くと小屋は大勢の様々な異形の怪物に取り囲まれていた。小屋の周りには薄白い壁のような物で包まれ、群れの中心ではストラが大剣をスピンドルがレイピアを振るっている。しかし、立っているのは二人だけで周りには赤い血が散らばっている。


(数は200くらいかな?)


リルは拳を握ると手や足に魔力を溜める。リルの四肢が僅かに発光する。それを確認するとリルは怪物の群れの真ん中に突っ込んだ。手当たり次第に怪物を殴り倒しながらリルは進んだ。


「ストラ、まだ生きてますか?」


スピンドルは少し離れたストラに大声で尋ねた。


「なんとかね」


ストラは肩で大きく息をしながら怒鳴り返した。


「何とかライオネルは逃がせたみたいですね。結界もまだ持ってるようですし」


スピンドルは一度、小屋に目をやると声をたよりにストラのもとにたどり着くと背中合わせになった。


「あぁ、しかし今度は私達が危ないぞ」


「ええ、まぁ、あなたと一緒に死ぬなら本望ですが」


「なっ、何を言ってるんだ!!」


ストラは顔を赤らめ振り向いたそこに怪物が襲いかかるが怪物の顔にリルに拳がめり込んだ。


「何をしてるですか?」


リルが呆れた顔を向けるとストラは慌てて首を振る。


「違うんだ。これは」


「やぁ、リル君。よく来てくれましたね。珍しいからよく見ておいた方がいいですよ。こんなストラ、めったに見れませんよ」


スピンドルが飛びかかってきた一体を切り伏せる。


「まだ、余裕はありますか?」


リルはそれを無視して質問する。


「正直、もう限界ですね」


スピンドルが言うとリルは頷く。


「分かりました。では下がっていてください。あとは私がやります」


「一人でなんて!!」


ストラがリルを止めようとするのをスピンドルはストラの肩において首を振り止めた。


「大丈夫ですよ。ねっ」


リルは頷くとストラも渋々、小屋に張ってある結界の中までさがる。リルはそれを確認すると怪物の群れに突っ込んで行く。凄まじい速度で近づくと怪物の顔を殴り飛ばし、関節を砕き、胴体を蹴り飛ばす。目に止まらない速さで次々に怪物を倒していく。


「こんなことって……」


小さな少女が目にも止まらない速さで自分の倍もあるような大きさの敵を倒していく。そんな光景を目にしストラは圧倒されていた。


「ええ、私達は何をしてたんだって思わせる光景ですね」


スピンドルは腰を落とす。


「私達に出来ることはもう無さそうですね」


リルが全ての敵を倒すのに、そう長い時間はかからなかった。最後の一体に拳を叩き込むとリルは大きく息をつく。それと同時に四肢の光も収まっていく。


「お疲れさまです」


小屋から出てきたスピンドルがリルに声をかける。


「いえ、間に合って良かったです」


「本当に助かりましたよ。守りきることもできましたし」


スピンドルは視線を小屋に向ける。


「あの小屋、何を、いえ、誰を守っていたんですか?」


スピンドルは驚いた表情を浮かべる。


「分かるんですか?」


「はい。気配を感じますから」


「やれやれ、君って子は。

 ストラ、お連れになってください」


スピンドルは呆れた顔を浮かべ振り向くと小屋の扉の前で待機していたストラに声をかける。


「いいのかい?」


ストラはスピンドルが頷くのを確認すると一度、小屋に戻り、一人の少年を連れてくる。その姿がはっきり見えた時、リルは目を見開いた。

 少年はリルの前まで来ると一礼し言った。


「助けてくださいありがとうございます。私はヨハネ・クルシクルと言います」



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