第五話 友達〜握手〜
(私は何をしているんでしょうか?)
色々な人が食事をしている店の中、普段着の上に白いエプロンをつけたリルは誰にも気づかれないようにそっと溜め息をついた。奥の厨房ではハニェルが調理をしているのだろう何かを炒める音が聞こえてくる。
ハニェルの切り盛りをしている“ヴーチュズ”は所謂、民間食堂のようなところで。ハニェルが素材を厳選し作るオムレツが人気で、いつも、客で賑わっている。
「泊まるからは働く」
というハニェルの言葉でリルは食堂に引っ張り出され接客をさせられているのであった。
溜め息をつきながらも次第に板についてきた仕草で接客をしていると
「ここです。ここが旨いんです」
「ふーん。感じのいい店ね」
という声と共に二人の客が店に入ってくる。
「いらっしゃいませ」
リルが振り替えり頭を下げると
「げっ」
という声が頭の上から聞こえてくる。訝しんで顔を上げると先日、戦った少年、ライオネルだった。
「ああ、ライオネルさん……でしたっけ?」
目のあったライオネルは気まずそうに視線を逸らす。
「へぇ、お嬢ちゃん。ここで働いてんだ」
もう一人もリルは見覚えがあった。自分達の戦いを見てた赤色の髪の女性。
「えっと」
「あぁ、私はストラス=クルイロ。ストラでいいわよ」
赤色の髪の女性、ストラは快活な口調で言う。
リルは頷くと空いてる席に二人を案内する。
「とりあえず、ここに」
適当な席に案内するとライオネルはためらいながら、ストラはゆっくりと席につく。
「ご注文は?」
リルが尋ねるとライオネルは目を逸らしたまま返事をする。
「……特製オムレツ。2つ。ストラさんもいいですね?」
ストラスが頷くのを確認するとリルは奥の厨房に行きハニェルに注文を伝える。
「特製オムレツ2つです」
「はいはい。それにしてもリルちゃん、大分慣れてきたみたいだね」
ハニェルは奥の棚から卵を取り出しながら言う。
「そうですか?」
「ああ、何かうちの看板娘って感じだしね。お客さんからの評判もいいし。ずっと、ここで働くかい?」
ハニェルがオムレツを作るのは見つめながらリルはしばらく考え言った。
「用事さえ終われば、それもいいかもしれません」
リルはそう答えた自分自身に驚く。しかし、そう思うのは無理ないのかもしれないとも思った。
(ここは本当に居心地がいいのだから)
この店にはいつも、笑顔が沢山あって、一人でいる事が多かったリルにとって、とても暖かい場所だった。
「本当かい?じゃあ情報、とっとと集めちゃうね」
軽く言うハニェルにリルは疑問を尋ねる。
「いったい、ハニェルさんはどうやって情報を集めるんですか?」
「まぁ、いろいろと昔のツテでね」
ハニェルは振り向きリルに笑みを浮かべる。
リルが納得のいかない顔で再び、オムレツを作りにもどったハニェルを見つめているとハニェルは手に2つのオムレツを持ち振り返った。
「そんなことより出来たから持って行きな」
リルがオムレツを持って行くとストラはいずライオネルだけしかいなかった。
「オムレツ、持ってきました」
しかし、ライオネルは違う方を見たままで反応しない。
(やっぱり昨日の事をひきずってるんですかね)
リルはそう考えながらオムレツを机の上に並べると一礼し去ろうとした。しかし、後ろから声が聞こえた気がして振り返る。
「何か言いましたか?」
「悪かったって言ってんだよ」
相変わらずの態度だったが今度はライオネルははっきりと答えた。
「何のことですか?」
「だから昨日、お前を馬鹿にするような事を言って悪かったって言ってんだよ」
ライオネルは苛立ったかのように言った。
「別にきにしてませんよ」
「そういう訳にはいかない。俺にもけじめってもんがある。何か俺に出来ることはないのか」
「……じゃあ一つだけ頼み事を聞いてください」
食い下がってくるライオネルにリルは左手を差し出した。
「友達になってください」
ライオネルは一瞬、呆気にとられた表情を浮かべるが、直ぐに笑みを浮かべてリルの手を取った。
「そんなことでいいならお安い御用だ」