第四話 店〜優しさ〜
「この馬鹿、こんなところであんな技、使って」
赤色の髪の女性はライオネルの頭をゴツンと殴る。
「すみません。頭に血がのぼっちゃって」
頭を抑え目に涙を溜めながらライオネルは謝罪を口にする。
「まぁ、面白いものが見れましたし、いいじゃないですか」
スピンドルが肩を怒らせている赤色の髪の女性を宥める。
「それより、隊長、あれは何なんですか?あのスピード、普通じゃ無いですよ」
「それは、私も聞きたいわね」
二人の視線がスピンドルに集中する。
「多分、あれは魔力による身体の強化。もう、大昔に滅びた技の一つですよ」
「そんな技をなんであんなガキが?」
ライオネルが納得のいかない顔で尋ねる。
「さぁ、それは分かりませんが、あの年でなかなかな人生を送ってきたんでしょうね」
スピンドルはリルの出て行った出口を見た。
朝の道、リルはふらふらと歩いていた。ワームと戦った上に結局、昨日は保留させられたり模擬戦をしたりして徹夜したため、14歳のリルの眠気はいい加減は限界だった。
(これは、まずいかもです)
今にも倒れそうなリルに救いの手は差し伸べられた。
「ちょっとアンタ大丈夫?ひどい顔色だよ」
今から店を開くのか店のドアの鍵を開けようとした白い髪の女性が心配そうな顔で近づいてくる。それを目の端で確認したのを最後にリルは意識を手放した。
目を開くと知らない天井だった。リルは身を起こして辺りを見回す。ベッドの横には机があり色々な写真が置いてある。どれも共通しているのは写っている人達が笑顔だということだ。
リルが写真を見ていると後ろのドアが開く音がする。
「おっ、起きたみたいだね。全く、いきなり倒れるんだから」
ドアを開けた白い髪の女性は陽気に言う。
「すみません。ありがとうございました」
女性の一言で自分の現状を理解したリルは頭を下げる。
「いえいえ、どういたしまして。あなた、リルちゃんでしょ」
リルがびっくりして目を開くと女性は愉快そうに笑う。
「やっぱりね。ヤクから話は聞いてたよ。珍しい黒髪で変な黒い手袋した女の子が来たら力になってやってくれってね」
「えっ、では」
リルはヤクにもらった紙を取り出し読む。
「ここが“ヴーチュズ”ですか」
「ああ、そうだよ。でも、ちょっと待っててくれよ。様子見てくるって店、抜け出してんだ。話しは後で聞くからさ」
そう言ってきびすを返し下に帰ろうとする女性をリルは呼び止める。
「あのっ、あなたの名前は」
「私はハニェル=ゾフィ。よろしくね。リル」
最後にウインクをするとハニェルは階下に消えて行く。
窓の外を見るともう夕焼けが街を染めていた。
それから30分ほどしてハニェルは戻って来た。手には湯気のたっている皿を持っている。それを見た途端、リルの胃袋が抗議の声を挙げた。表情を変えずに顔を真っ赤にするリルを見てハニェルは豪快に大笑いをする。
「さぁ、お腹すいたろ。お食べ」
慌ててかき込み、熱さにむせてしまう。その背をハニェルはゆっくり撫でてくれる。
「ゆっくりお食べ、逃げやしないよ」
リルは今度は慎重に食べていく。全部、食べた頃を見計らってハニェルは話しを始める。
「で、どうしたんだい?」
リルが理由を話すとハニェルは少し怒った顔をした。
「その師匠って人も酷い人だね」
不満を隠しもせずにハニェルは言う。
「どうしてですか?」
「だって、そうだろ。一年もこんな子供をほったらかしにした上、厄介事を押し付けて死んじまったんだろ」
ハニェルの言葉にリルは頷く。
「それで、アンタは何で言いなりに動いてるのさ」
「それは師匠が頼んだから」
「そうじゃ無くって」
ハニェルは苛立ったように声を荒げる。
「なんで、そんな頼み事を聴くのかって事だゆ。聞いた感じじゃあ母親らしいこと何にもしてもらってないんでしょ」
「まぁ、そう言うことに疎い人でしたし。必死に母親の代わりになろうとはしたりしてくれましたし。何より、あたしを救ってくれましたから。それだけで充分感謝してます」
(そう、あの地獄から救ってくれた)
リルの穏やかな顔を見てハニェルは笑顔にもどる。
「まぁ、いいや。あたしに任せな。絶対にそのアルセムっての見つけてあげるよ」
ハニェルはその豊満な胸を自信あり気に拳で叩いた。