第三話 少年〜出会い〜
出会いなんて題名ですが殺伐としてます
「で、なんだ?お前は道に迷ってるところをワームに出くわしたと?」
男の質問にリルはこくんと頷く。
今、真っ白な部屋の中ではリルと背は190はあるだれうかという良く鍛えられた体格の良い軍服を着た男が机を挟み、向かい合って座っている。
「それで、武器も何も持っていないお前が倒したと?」
再びリルは頷く。男はゆっくりと息を吐きながら組んでいた腕をとく。やっと終わりかとリルの表情が弛む。
「そんな訳があるか!!」
男はといた右手で思い切り机を殴った。音とともにリルの体がびくりとする。
「武器も持ってないガキに倒せるレベルのものじゃあないだろう」
「だから、魔法でです」
「魔法だぁ?計測器によるとお前の魔力はE+、魔法使いとしては最低レベルだ。そんなのであいつが倒せるものか。誰があれを倒したんだ?」
男が身を乗り出してくる。
「あたしです」
埒のあかない会話に苛立った男はがしがしと頭を掻く。その時、軍服を着た細身の青年が部屋に入ってきた。青年は金髪を三つ編みにしている。端正な顔には目のすぐ横から口にかけて大きな傷があるが、彼の美貌は損なわれるどころか逆に男らしさを増すこととなっている。青年は椅子に座る男に問いかける。
「タラスクスさん、どんな様子ですか?」
「スピンドルか、駄目だな。全然、吐きやしない。私が倒したの一点張りだ」
スピンドルと呼ばれた青年は少し考えた素振りをすると、イタズラを思いついた悪ガキのような顔をする。
「では実際に力を見せてもらいましょうか」
スピンドルは、本当のこと言ってるのにと頬を膨らますリルを眺め提案した。
リルが連れて来られたのは広いホールだった。行きがけでの話によるとスピンドルという青年は軍の中でも部隊長、総隊長のすぐ下の身分らしい。総隊長が一番上だから二番に偉いということになる。
ホールでは様々な人が剣で打ち合ったり、魔法の訓練をしたりしている。
「ライ。ちょっといいかい?」
スピンドルは、その中で長剣を使っている赤色の髪の女性と槍で打ち合っている少年に呼びかける。
「隊長、何かご用ですか」
茶色の髪を短く刈ったライとよばれた少年、といっても17歳ほどだから青年といった方が的確か。は赤色の髪の女性に礼をすると素早く駆け寄って来ると幼さを残す顔に満開の笑みを浮かべる。
「実はね、この子と模擬戦をして欲しいんだ」
スピンドルはライにそう言うと次はリルに顔を向ける。
「この子はライオネル、ウチの部隊じゃ最年少だけど実力はあるよ。魔力はAだし。この間、単独でワームも倒している。ライオネルとの模擬戦の様子から君が言ってることが本当か判断しよう」
「こんなガキと模擬戦ですか?」
ライオネルは露骨に嫌そうな顔をする。
「そんなこと言わないで、この子もワームを倒したことあるし」
その一言にライオネルは素早く反応する。
「それ、本当ですか?」
「本当かもしれない。自分では倒したと言ってるけど」
「分かりました。やらせてください」
ライオネルはスピンドルに頭を下げるとリルを睨みつける。リルは明らかな敵意を含んだ視線に特に反応せずに見返した。
「こっちに来い」
ライオネルは顎で誰もいない箇所を示すと先に移動して行く。リルもそれに黙って付いていく。
「あの子、ワームを倒したって?」
先程、ライオネルと訓練をしていた赤色の髪に眼帯をした女性がゆっくり歩いて来てスピンドルに問いかける。
「さて、本人はそう言ってますが」
「ちょっと平気なの?ライオネル、本気の顔してるわよ。それが嘘だったら」
赤色の髪の女性は少し心配そうに尋ねる。
「まぁ、大丈夫でしょう。嘘だったら助けには入りますし、懲りて本当の事を教えてくれるっしょう。
それに、もし本当だったら……」
スピンドルは意味あり気に言葉を切る。
「まさか、あんた。まだ、子供じゃない。それに本当なんて確率、無いに等しいわよ。あの子、魔力もほとんど感じないし」
「さて、それはどうでしょう?」
スピンドルは不敵な笑みを浮かべると、今にも戦いを始めようとしている二人に視線を移した。
「最初に聞いておきたい。お前、本当にワームを倒したのか?」
空いているスペースに着くとライオネルはリルに問いかけた。リルが頷くと舌打ちをした。
「気に入らないな。ワームは俺達でも何年も修行して倒せるようになる上級の人工生物だ。お前みたいなガキに倒せる代物じゃあないんだよ」
「じゃあ、止めますか?」
「まさか、化けの皮を剥がしてやるぜ」
ライオネルは体勢を低くし木製の練習用の槍を構える。 それに対しリルは何も構えず直立のままだ。
「武器がないなら。貸すぞ」
何も持ってないリルにライオネルが構えたまま短く尋ねる。
「いえ、お構いなく。いつでも来て良いですよ」
リルは何時も通りのんびりと答える。
「ち、嘗めやがって」
ライオネルは呟くと黙った。しばらく、二人は動かなかった。片やいたって自然体で、片や緊張感の漂う構えのままで。
先に動いたのはライオネルだった。ライオネルは溜に溜めた力を一気に解放すると獣のような速さでリルに一直線に突っ込んだ。一番、自信を持っている突進からの突き。
(手加減は無しだ)
狙うは奇妙な手袋を付けている右手の肩。リルはまだ動いていない。 もう、避けられない。そう確信し槍を突き出した。しかし、瞬間、リルの姿は消え槍は空を切っただけであった。
「なっ!!」
ライオネルは必殺の一撃をかわされた上に相手の姿を見失った事に焦り辺りを見回す。
「速度は凄いですけど、視界が狭まってしまってますし、あまり実戦向けじゃ無いですね」
そんなリルの声が背後から聞こえ、ライオネルは慌てて、その場から飛び退く。
「じゃあ、次はこっちからいってもいいですか」
リルはいつもどおりの表情でライオネルに尋ねた。
少し離れたところでは二人の大人が驚きを隠せずにいた。
「スピンドル。今の見えた?」
赤色の髪の女性が愕然として聞く。
「かろうじてですが」
こちらも驚きの色を残した声で返す。
「あの子、何者?これはもしかしたらもしかするわよ」
ライオネルは怒っていた。今の好機に攻撃してこなかったこと、自分が目の前の年下の少女に劣っているという現実に。そして、それは行動で示された。
ライオネルは腰だめに槍を構えると魔力を集中する。
「食らえ!!」
叫ぶような怒声とともに槍の先から金色の光が放たれる。それは一瞬で奥の壁まで到達すると壁を僅かに融解させて止まった。 荒い息を吐きながらライオネルは後悔の念に襲われた。今の一撃を喰らったら骨も残らなかっただろう。そして、避けられたとは思えない。
(確かに腹立たしいところは多かったが殺すつもりは無かったのに)
ライオネルは呆然と立ち尽くした。
しかし
「避けてくださいね」
背後からあり得ない声が聞こえ自分を取り戻す。振り向くとリルが左手を振りかぶり、ライオネルの顔を殴ろうとしているところだった。慌てて後ろに下がるとリルの左手はそのまま手首まで地面に突き刺さった。
(もし、あれが、当たってたら。いや、警告されてなかったら)
リルが腕を引き抜くのを呆然と見ながらライオネルは青くなった。
(今のはちょっと焦りました)
リルは手のひらに汗をかいていることを自覚しながら思った。指向性を持たせた魔力を相手にぶつける。あんなに早く、強いと思わなかった。
(魔力による身体強化が後、一秒でも遅かったら消し炭でしたね)
口には出さずに独白するとライオネルに戦意を無くしていることを確認してからスピンドルに目を向ける。
「実力を見せるだけなら充分だと思いますけど?」
そうリルが尋ねるとスピンドルは頷く。それを確認するとリルは呆然と自分に目を向けているライオネルに礼をし外に足を向け歩き始める。出口で足を止めて振り向くとライオネルが 赤色の髪の女性に怒鳴られている。何か悪い事をしたような気になったリルは足早に外に出ていった。




