第二話 都〜戦闘〜
「凄い」
黒い髪に黒いニット帽、右手だけ肘まである黒い手袋をした奇妙な格好の少女、リルは感嘆の声を漏らした。村を出てたまたまサンタクリアに行くという商隊に混ぜてもらい5日目、リルはサンタクリアに着いた。どこを見ても人が視線いっぱいに入ってくるなんてことは辺境の小さな村で暮らしていたリルにとっては初めての経験だった。
「これがサンタクリアだよ」
恰幅の良い商人の男、ヤクが後ろから声をかけてくる。
「ここは東西南北の貿易の中心地だから物が集まる。物が集まるから人も集まるのさ」
ヤクは自慢気に言う。 ところで、とヤクは続ける。
「お嬢ちゃんはこれからどうするんだい?」
「そうですね、人を捜すならどうしたらいいでしょうか?」
リルが尋ねるとヤクは顎に手をやり考えるような仕草をとる。
「そうさな、酒場なら情報は多少あるだろうし、金があるなら情報屋に行ってみるといいだろうよ」
そう言われてリルは自分の凹凸の無い体を見下ろす。
「あたしでも酒場って入れるのでしょうか」
リル自身は真面目だったのだがそれを聞いたヤクは大笑いした。
「そりぁそうだ。入れてもまず相手にはされないな」
気を悪くしたリルはむっとした表情で礼をすると 反対側を向き歩き始める。
「嬢ちゃん、待ちな」
ヤクの呼びかけにリルが振り向くと胸元に丸められたが飛んでくる。慌てて受け止めヤクを見るとヤクは笑みを浮かべ
「それに書いてある名前の店に行ってみな。話しは通しておくよ」
そう言うとヤクは手を振りながら去っていく。その後ろ姿に向かい、リルはもう一度頭を下げた。
そして、数分後リルは
「ここはどこなんでしょうか?」
迷っていた。 小さい村で育った影響で迷子になったことも無く、解決策も分からず、もう暗くなるにも関わらずただぼんやりと歩くことしかできなかった。
「もうちょっときちんと話しを聞いてれば良かったですね。それにしても夕方とはいえ、普通、ここまで人がいないものでしょうか」
辺りを見回してもリル以外に出歩いている人影は見当たらない。その、背後に大きな昆虫のような影が忍び寄り、その脚を振り下ろした。
「なるほど、こういう事ですか」
その一撃を横に飛び避けたリルは呟く。
「ワーム、魔法使いの生み出した人工的な生き物ですか。大した大きさですね」
リルは3メートル以上、上にあるワームの頭を見上げる。
「キシャー」
奇声を上げて襲いかかってくるワームにリルは左手を上げて炎を放つ。しかし、ワームの体は炎を弾くきながら突っ込んでくる。
「なんて、硬さですか」
リルはバックステップでかわす。ワームの頭はリルの避けたところの地面を粉々に砕く。
「当たったらひとたまりもないですね」
ワームは自分で突っ込みダメージ受けたのか頭を左右に振っている。リルは左拳を握ると一瞬でワームの頭付近に近づき、頭に向かい拳を振り下ろした。グシャリという嫌な音と共にワームの堅い外殻を貫き柔らかい中身に届く。
数度、痙攣するとワームは動かなくなる。
「ふぅ」
リルがため息をつくと、松明を持った男達に囲まれる。
「動くな!!逮捕する」
「勘弁してくださいよ……」
うんざりとした表情でリルは言った。