第九話 笑顔〜忠告〜
「あとリルさん。これからも協力してもらえますか?」
「いいですよ」
リルの早い返事にストラは毒気を抜かれたような表情をする。
「お前ライオネルの誘いを断ってたじゃないか」
「ええ、けど、私のやらなくてはいけないこととあなた達の方向性が重なってきたみたいなので」
「君のやらなくてはいけないこととはなんですか?」
厳しい顔でスピンドルが問い詰めるとリルは静かに答えた。
「師匠の遺言です。弟、アルセムが厄介事に巻き込まれている手を貸してやってくれ、だそうです」
神妙になった雰囲気の中ストラだけが訳の分からない表情で辺りを見回す。
「では、あなたはシルフィさんの。なら、あの実力も納得がいきます」
スピンドルが納得したように頷く。
「シルフィっていうと緑の魔法使いだな。それが今回のことと何の関係があるんだ?」
スピンドルはちらりとヨハネを見て、頷くのを確認すると口を開いた。
「最高位の魔法使いと認められると与えられる色。緑を与えられたシルフィの本名はシルフィーネ・クルシクル。風を自在に操ることから風の使いとも呼ばれた彼女はそこにいるヨハネ様の姉君です」
ストラがヨハネを見るとヨハネは頷く。
「我が王家には女子が産まれても公表しない、という掟があるのはご存知ですね。我が姉は掟に従い秘匿され育てられました。しかし、ある時、城に訪れた魔法使いに素質を見込まれ弟子入りし、魔法使いとして名を響かせることになったのです」
「そして、そのシルフィさんの弟子がリルさんというわけですね」
「リルさん」
ふとヨハネがリルの名前を呼んだ。
「遺言ということは姉は死んだんですね」
リルが頷くとヨハネは目に手を当て、数秒間、身じろぎをしなかったが一呼吸すると先程のことは無かったかのように発言した。
「姉が倒されるほどの敵です。皆さん、くれぐれも注意し捜査にあたってください」
これといった案も無いまま会議は終わり、リルは帰路を歩いていた。
「リルちゃん」
名前を呼ばれリルが振り向くとハニェルが手を振っていた。
「ハニェルさん?どうしてこんな所に?」
「ライオネル君を病院までね」
リルの心配そうな顔を見てハニェルは命に別状は無いことを告げるとリルの先に立ち歩き始める。
「あの、ハニェルさん」
リルは躊躇いながらハニェルに声をかけた。
「何?」
「私、少し軍の手伝いをしようと思います」
「それで?」
「しばらく、お店には出られないかもしれません。それと、明日からは軍の宿泊施設に泊まります」
「自分で決めたことなんだね」
「はい」
ハニェルはため息をつきながら振り返る。
「リルちゃんが自分でちゃんと自分で決めたなら私は何も言わないよ。でもね、軍に関わるってことは暗くて汚い物を見ることもあるってことだけは覚えておいて」
ハニェルの真剣な視線にリルも真剣な表情で頷いた。それを見るとハニェルは笑顔を浮かべる。
「いつ戻ってきても歓迎するよ」
「はい」
ハニェルの笑顔にリルも笑顔で返した。