プロローグ
歳の頃は大体20代後半といったところだろうか。緑の長い髪を腰の辺りまで伸ばした美女がじめじめとした暗い石造りの通路を歩いていた。時折、何か大きな獣のもののような唸り声が聞こえてくるが美女は気にした様子も無く歩いている。しばらく歩く明るい、光のついた部屋が見えた。美女はためらいもせずにその部屋に踏み込む。すると右側から大きな獣が美女に向かって飛び掛る。が、何か壁のような物に阻まれそのまま崩れ落ちる。
「キメラか」
一瞬だけ獣に視線を向け様々な特徴を持っている事を確認すると。美女はそう呟く。
「ようこそ。我が研究室へ」
部屋の奥から声が響く。
「それにしても素晴らしい。自然に放出されているだけの魔力だけであの重量をよせつけないとは」
一人の男が拍手をしながら奥から出てくる。
「たいした事はしてないですよ。ぶつかる瞬間にその方向だけに魔力を絞っただけですから」
美女わ大したことはしてないかのように軽い口調で返す。
「いやいや、謙遜なさる必要はないでしょう。普通の魔法使いならいくらその方法を取っても完全に防ぐことはできなかったでしょう。流石は風の使いといわれるだけはある」
美女の表情が僅かにひきしまる。
「私のことをご存知でしたか。では、何故、私がここに来たのか想像はつくでしょう。ここ数年の魔法使い誘拐の容疑であなたを検挙します」
美女がそう言いきると男は横を向いて自分の手の平を見つめた。
「魔力の量は生まれた時に決まっているという事をしっていますか?」
急な質問に美女は警戒を強める。
「私は魔力の量は少ない方でしてね。それこそ、普通の魔法使いでない人より若干多い程度でね。苦労しましたよ。僅かな魔力で効率よく魔法を使う方法を考えたり、戦術でカバーしたりね。結果、どんな相手でも同等以上に戦える自信をてにいれましたよ」
自慢するような内容に関わらず男の口調は重い。
「しかし、その認識は甘かった。生まれ持った才能に努力では勝てないということを、とある戦場である男が私にそれを教えてくれました。しかし、私は諦めなかった。そして、考えたのだ。手に入らないのなら奪えばいいのだと」
興奮した様子で熱弁をふるう男を美女は冷たい目で見つめていた。
「そんなに都合よくいく訳ないでしょうに。実際、あなたの魔力から判断するに失敗に終わったようですし」
美女が馬鹿にしたように言う。男は美女のほうを向くとにやりと笑った。その瞬間、圧倒的な魔法量を持った存在が美女のすぐ左側に現れる。
「なっ」
美女は驚きの声をあげるのと同時に身体を袈裟懸けに切り裂かれていた。
「まさか、あの傷で逃げるとは」
床に落ちた血痕を見つめながら男が言った。
「まあ、長くは持たないだろう。次はもっとうまくやるんだ。いいな」
男が背後の暗闇に言うと暗闇の中、何かが動いた。