Lvが全てじゃない
(なに?あのオッサン。むっちゃこっち見てる。もしかして俺に気があるとか?)
彼を見つめる男が近付いて来る。
「テメェさっきは随分楽しそうだったな」
?何を言っているのか分からず戸惑う彼に男が詰め寄る。
「女王様に気軽に喋ってんじゃねぇよ!俺とか全然喋った事ないのに!」
男は彼に嫉妬していた。
多分菊島の事が好きなのだろう。
それか……ドMか。
「すみませんけど俺は早く帰りたいとずっと思っていたんだけど」
「嘘つけ!てかテメェ歳上には敬語使えや!女王様にも敬語使わずによぉ!」
彼は早く帰りたいと思っているので男に自分がどうすればいいかを尋ねた。
「俺と……俺と決闘しろ!」
彼は訳が分からず天使に意味を聞いた。
"決闘"とは一対一の言葉通りの決闘をする事。
決闘で存在が消滅する事は無いらしい。
そして決闘では同者同意すれば賭けをする事も出来るらしい。
「いやいや、俺ここに来たばっかなんだけど。いきなり戦えって言われても無理だよ」
「だから敬語使って言ってんだろ!テメェに拒否権はねぇ!」
なんとも横暴な男だ。
だが彼は早く帰りたかったのでしぶしぶ承諾した。
「どうせなら賭けをしようぜ。お前が負けたら一生俺の奴隷だ!」
ふざけんなと思ったが彼はある事を思いつく。
この世界に来たばっかでお金が無い。
それに先程からお腹が空いている。
「なあ天使?俺お腹空いてるんだけど飯食べるとことかあるの?」
「ありますよ!」
彼は決心した。
「んじゃ俺が勝ったらあんたの手持ちの金は全て貰う。これが無理なら戦わない」
人間にとってお金が無くなるのは死活問題だが男はすぐに承諾した。
男の表情は余裕すら感じれる。
「さすがに屋敷の中はあれだから外に行くぞ」
彼と男は外に向かった。
「んでどうすんの?」
「自分のステータスの見方は分かるだろ?メニューのところに決闘ってあるからそこを押せ」
彼は男の言う通りに決闘と書かれた所を押した。
すると相手のタイプとLvが写った。
そして彼は男の余裕の表情の意味を理解する。
男のタイプは防御型でLvは27。
彼よりもだいぶ上のLvだった。
だがさすがに相手のステータスまでは見る事が出来なかった。
「お前バカだな!Lv1のお前が俺に勝てると思ってんのか?準備が出来たら開始って所を押せよ」
完全にはめられたが彼に動揺は無い。
何故か負ける気がしなかった。
何故なら彼は……選ばれし者だから。
(準備って言っても、もう武器防具は装備してるし……スキルも8個も無いから開始押そ)
彼は開始を押した。
「俺も準備完了だ。んじゃぁ始めるか!」
男も開始を押そうとした時、男は止まり話しかけてきた。
「そう言えば名前言ってなかったな。俺は明石悟だ!今日からお前のご主人様だ!」
明石が開始を押すと周りに"決闘開始"とアナウンスが響き、近くにいた他の冒険者達が集まってきた。
「んじゃ行くぜぇ!」
決闘開始と同時に明石は彼に襲いかかる。
「"シールドアタック"!」
明石はスキルを使って来た。
装備の盾を前に構え、突進して来たが彼は速度が高い為難なく躱す。
(Lv1のくせに躱しやがった!)
明石は表情は明らかに戸惑っていた。
彼の装備武器はナイフのみで他には素手による攻撃のみ。
速度は上回っている彼は地道だが攻撃を仕掛けていく。
(こいつなんでこんなにはえーんだ!盾で防げねぇ!)
彼は地道に攻撃を加え続ける。
すると明石は盾を投げ捨てた。
(攻撃一撃一撃は大したダメージじゃねぇ!このまま耐えて攻撃に集中している間にこっちの攻撃を食らわしてやる!)
攻撃に集中する彼はたまに来る攻撃をギリギリで躱していた。
そして彼はナイフを手に取り明石に一撃を与えた。
その一撃は強力で明石の鎧を砕いた。
(なっ!いきなりなんでこんなに威力が!)
「テメェまさか!さっきまで本気でやってなかったな!」
そう、これは彼の作戦で地道に軽い一撃を重ねる事で明石に防御の意識が薄くなるようにわざと手を抜いていた。
そして彼は更に畳み掛ける。
「"多連拳"!」
彼はスキルを使い、順調にダメージを与えていく。
(このままじゃ負ける。相手はLv1……普通の攻撃を2.3発当てれば勝てる!)
しかしその普通の攻撃が彼には当たらない。
そして明石は異変を感じた。
(あいつの攻撃力上がってないか?あと速度も)
そして彼は攻撃を止め、距離をとった。
「なぜ距離をとる!」
「もうあんたの負けだよ。天使から聞いた。バッドステータスが付着しても何の表示も現れないってな。だから戦闘中にダメージを受けたらこまめにステータスを見ろって」
明石は急いでステータスを確認する。
明石には毒が付着していた。
実は鎧を砕いた一撃はスキルを使っていたのだった。
「スキルの名前を言わなくても使える事も聞いた。」
毒が付着すると5秒に1回ダメージを受ける。
そして速度も落ちる。
明石が攻撃力が上がり速度も上がっていると感じたのは毒が付着していたからだった。
そして彼も毒が付着している事に気付かれないように毒のダメージが出るタイミングに攻撃をしていた。
「あんたの残りの体力はちょっと。あと3回くらいの毒のダメージでHPは0になる」
明石は必死に彼にダメージを与えようとするが全て躱される。
「無駄だよ。俺は今躱す事だけに集中している。あんたが俺に攻撃を当てるなんて不可能だ」
「ふざけんな!たかがLv1のくせに……調子に乗んな!」
「Lvが全てじゃない。自分よりLvが高い相手でもきっちり戦略を考えれば勝てる。まさに今がそうだろ?」
「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁ!」
「3回目の毒が来るよ。あんたの負けだ」
「ふざけん……な?」
明石は倒れた。
HPが0になったのだ。
彼はこの世界での初めて戦闘で、しかも格上相手に勝利した。
少しの時間が過ぎて明石が目を覚ます。
「お前化け物かよ」
「俺は平凡な人間だよ。って事で金は頂くよ」
勝利した彼は明石の持ち金約67000円を手に入れた。
「んじゃ飯でも食べよ。天使さんにもお世話になったから一緒にどう?」
「よろしいのですか?ではご一緒させていただきます!」
彼はご飯を食べたあと、天使と別れ宿舎で一晩を過ごした。
彼は眠りにつくまえにこう思った。
この世界は楽しい……と。