EP4--椎名優ー2――優しい時間とその終焉
2011年 8月2日 16時41分
普段は仕事で忙しいお父さん。そのお父さんが久しぶりに遊びに連れて行ってくれた帰り道。
「お父さん……おうちに帰ったら一緒にお風呂入ってね」
「だいぶ色男になったみたいだね、優くん」
濡れ鼠になった僕をルームミラーで確認しながら苦笑している父と――僕の横で気持ちよさそうに眠っている諸悪の根源、望。
「望の奴、危ないって言ったのに崖のほうに行くんだもん……」
崖といっても正確には50cmほど、子供の背丈でも落ちても大怪我をするような高さではなかった。
「望はしっかりした子だけどおっちょこちょいな所があるからね」
「うん……だから注意したのに……」
心配した通り崖の近くではしゃいでいた望は足を滑らせ落ちそうになった。
僕は咄嗟に望の腕を掴み、引っ張った反動で落ちた――僕だけ。
「でも優くんは偉いね」
片手でハンドルを握りもう片方の空いた手で僕の頭を撫でてくれるお父さん。
「……家での様子を見てて思ってたんだ、望のほうが年上みたいだって」
「僕のほうがお兄ちゃんだよ! 」
今朝のやり取りを思い出し否定しづらいと内心思ってしまったせいか少しむきになってしまう。
そんな僕を撫で続けるお父さんの力が少しだけ強くなった。
「そうだね、優くんはしっかりお兄ちゃんをしてくれてるんだなってすごくうれしくなったんだ」
僕の手とよりもずっとずっと大きな手。その暖かさを感じているとなんだか照れくさくなってお父さんの手を避けようとする。
「毎日二人に付き合ってあげられなくてごめんな……お父さん、優くんに助けられてるんだよ」
避けようとする僕を離さないぞとばかりに強く、撫で続ける。
「これからも妹をしっかり守ってあげてね、お兄ちゃん」
そう言ってようやく僕の頭を解放してくれた。
「わかったよ! 望は僕の大切な妹なんだもん! 」
普段は仕事ばかりでなかなか構ってくれないお父さんが褒めてくれた。頼りにしてくれている。その事を知り嬉しくなる。
「あと20分もすれば家につくから、そしたら今日はお父さんと優くんと望の三人で一緒にお風呂に入ろう」
「うん! 」
お風呂の約束を交わしたあとお父さんは運転に集中し始めた。僕を撫でてくれていた手はハンドルをしっかりと握っている。
集中しているお父さんの邪魔をするわけにもいかず話し相手を失った僕は手持無沙汰になり眠っている妹を見やる。
僕とお父さん、二人の愛情を注がれている妹はまるでこの世のすべてから寵愛を受けた天使のような寝顔だった。
「――ん?」
お父さんが声とも呼べない、ため息のような声を発した。
そのことに疑問を抱いた僕は前方を見つめる。
――小さい黒いなにかが僕たちが乗っている車に近づいてきた。
「まずい! ぶつかる?! 」
慌ててハンドルを切るお父さん。なんとか黒い何かを避けきったその直後――巨大な獣のような、大きな脅威が僕たちの目の前に現れた。
それをみた僕は――