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六人のトラワレビト  作者: よるねこ。
√A 6人のトラワレビト
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EP27--悠野静香5――わんこ綺堂院とおさる涼香

2022年 11月25日 8時44分


父と二人で声がした場所にたどり着いたとき、倒れている優とその看病をしている涼香を見て戸惑ってしまう。


「……いったいここで何があったんだ?」


看病を続けている涼香よりも幾分か冷静そうな2人に尋ねる。


「わかんねぇんだが、椎名がアレを見たら急にこうなっちまった」


そう言って綺堂院が指を差した場所に目を向けると、1台のトラックが目に入った。


そのトラックの運転席は壁と結合し、その地面には大量の血液だと思われる赤い水たまり。


――あぁ、なるほど。


それを見た瞬間、何故優が錯乱し意識を失ったのかを理解した。


「椎名君と涼香の所に行ってくれ、私は少しアレを見てきたい」


父も原因を理解したのだろう。優と涼香を一瞥した後、強張った顔でトラックのほうへと歩いて行った。


「涼香、優は大丈夫か?」


優の体を抱きしめ、頭を撫で続けている涼香に問いかけると、


「急にこんなことになっちゃってびっくりしたけど今はもう落ち着いたみたいなんだよ」


そう返しながら私に顔を向け、ふにゃりとした笑みを見せてくれた。


「大丈夫そうならよかったんだけどさ?俺たちにゃどういうことなんだかさっぱりわからねぇよ……! 椎名はいったいどうしてこうなっちまったんだ?! 」


そんな冷静な私達の反応を見て、事情を知っていると思ったのだろう。綺堂院が少し興奮気味に質問してくる。


「優がこうなった原因だが、それは――」


本当ならば優の過去、プライベートのことだ。だからおいそれと吹聴して回るような真似はしたくなかったのだが優を心配しているということが分かる綺堂院には説明するべきだと思い、私の知っている限りのことを話した。



「……すまない。この場所に椎名を案内しようとしたのは俺だ。そんなことがあったと知っていれば、もっと慎重にコイツのことを考えてやれたのに……」


話を聞き終えた綺堂院はひどく落ち込んだ顔を浮かべながら謝罪の言葉を述べてくる。


「事が事だからね……私たちもなるべく話すべきではないと思っていたのだよ」


トラックを調べていた父が戻ってきて綺堂院にそう言いながら肩を叩いた。


「最初に椎名が車の中で意識を失っていた悠野さんたちを救い出したって聞いたとき、ホントにコイツが?って思ってたんっすよ。でも椎名の過去……事故で家族を一気に失ったって聞いて納得した。少しだけ、椎名の事を薄気味わりぃなって思っていた自分が恥ずかしいっすよ……」


優の顔を見ながらそう言って頬を掻く綺堂院。その顔には優に対する疑念などは一切なく、むしろ出来の悪い弟を見るような、そんな優しい顔をしていた。


「昭徳……」


綺堂院の横顔を見つめながら、今まで黙って話を聞いていた白崎が口を開いた。


「椎名さんの為に、私たちが何かしてあげられるかわからないけど、何とかしてあげないとね……」


そう言いながら涼香が抱きしめていた優の頭を撫でる。


「……ふしゃー! 」


「ひぁ?! 」


すると突然涼香が白埼を威嚇し始めた。優を撫でていた手をひっこめながら小さく悲鳴を上げる白埼。


「優くんの為に何かしてあげたい。それは分かるんだけど、それは私の役目なんだよ! 」


今にも唸り声を上げ出しそうな涼香がそう宣言する。


「は、はいぃ……」


その迫力に完全に気圧された白埼が力ない声をだした。


「わかってくれたならいいんだよ」


なぜか偉そうな涼香。その顔はどこか誇らしげだ。


「おいちんちくりん! 俺の彼女を脅かすんじゃねぇ! 」


そのやり取りを見ていた綺堂院が涼香のこめかみをぐりぐりしはじめる。


「いたたたたたたたた! 暴力反対なんだよ! 」


その攻撃から逃げようとする涼香。でも涼香の膝には優の頭が載っており、思うように動けないようだ。


「昭徳、ちょっとびっくりしただけだから、大丈夫。涼香さんを離してあげて」


口調はのんびりだが行動は意外と俊敏な白崎が慌てて綺堂院を止めようとする。


「あと私はちんちくりんじゃないんだよ! っていたたたたたた!やめて! やーめーろー! 」


「うるさい! 悪いちんちくりんにはお仕置きが必要だ! 」


「もういいから、昭徳、やめなさい! 」


意識を失っている優と私と父を置いてけぼりにし、取っ組み合いが始まってしまった。


「……ぷふっ」


「……あはははは! 」


まるで子供のような3人のやり取りを眺めていた私達親子はつい吹き出してしまう。


「……ほら昭徳、笑われちゃったじゃない」


白崎があきれ顔で綺堂院の頭を小突く。


「……おい、ちんちくりん。一時休戦だ。いずれ決着はつけるけどな」


綺堂院は涼香を解放しながら、不敵に笑う。


「……私はちんちくりんじゃないんだよ。でも綺堂院さんはいつか、倒す」


涼香が綺堂院さんを軽くにらんだ後、白埼に「驚かせちゃって悪かったんだよ」と小さい声で謝った。


ずっと笑い続けていた私達だが、終戦のやり取りまでもがおかしくて更に笑ってしまった。


「……脱線して悪かった。それで椎名の事だが、このままにしていたらまずいだろ?」


冷静になり、少し恥ずかしそうな表情を浮かべた綺堂院が私に話しかけてくる。


「そうだな……でもこればっかりは」


私たちがどうにかできるものではない。そう考え、落ち込んでいると、


「違う、……それは俺ももどかしいと思っているんだがな。でもそうじゃないだろ」


綺堂院に窘められた。どういうことかと尋ねると、


「椎名がここで目覚めたらまずいんじゃないかってことだよ」


――そう言われて気づく。優が意識を失った原因はあのトラックだ。目が覚めてすぐにまたあのトラックが目に入ったらまた取り乱しかねない。


「……そうだな。でもどうするつもりだ?」


「それなら俺が背負って……そうだな。さっきいた椎名の車のところまで連れて行ってやるよ」


「昭徳、一人で大丈夫?」


頼もしいことを言ってくれる綺堂院と少し心配そうにしている白崎。


「綺堂院さんに任せるのは不安なんだよ! 意地悪だし! 」


「おいちんちくりん!なんだそのいい草は! 」


「昭徳、やめなさい! 」


涼香の一言で第二次対戦が勃発しそうになったがそれを白崎がとめてくれた。


「綺堂院君、私も手伝うよ」


父がそういうと、


「それなら安心なんだよ」


涼香がふふりといった表情を浮かべながら納得する。


その態度にまた綺堂院が突っかかろうとしたのだが白埼が一言「めっ!」といいながら頭を撫でて抑えた。


「……それじゃあ話は決まったし戻りますか」


苦虫を噛み潰したような顔をしながらも優の体を背負って歩きだす綺堂院。


「……なんかこいつやたらと軽いな。興より軽いかもしれない」


――ぴきっ。一瞬時が止まった。


「……昭徳、椎名さんを運び終えたら、正座」


冷たい笑みを浮かべた白崎が綺堂院をにらみつける。


「ごめんなさいごめんなさい! ってかマジでコイツ軽いんだよ! 」


「……正座」


「……はい」


やってしまったという表情を浮かべる綺堂院を先頭に全員で優の車のある場所へと戻る。その道つがら私が考えていたのは。


未だ意識を失ったままの優の事と――トンネルに閉じ込められたのがこの6人でよかったなということだった。

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