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六人のトラワレビト  作者: よるねこ。
√A 6人のトラワレビト
26/38

EP26--悠野修一2――誇りと疑問

2022年 11月25日 8時16分


――まさかあの事故の、生き残りの少年と会うことになるとは。


椎名君達4人を見送った後。疲れていたのだろう静香が寝息を立てはじめ、一人で思考に没頭する。


――運命とは数奇なものだ。全く予想をしていなかった状況で、まったく予想していなかった出来事が起こる。


それは少年と出会ったことだけではなく地震という人の身にはどうしようもならない出来事にも言える。


地震に巻き込まれ、トンネルに閉じ込められ、あの事故の当事者の少年と出会い、その少年と共に生活をすることになる。……なんともまぁ劇的な出来事だ。


娘たちを危険に晒してしまったことは不本意だが、


「今回の地震で椎名君と出会えたことは幸運だった」


命を救ってもらえたからではない。やり残していたことを見つけたからだ。


長い年月をかけ、静香の力も借りて[オートエンジンオフ機能]の開発が成功した。普及させることもできた。それによって事故は減った。救われた命も多いだろう。


……でも。


それまでに事故に遭った方たちに対しては何の償いにもなっていなかった。


今日静香と話をして椎名くんが未だあの事故にトラワレていることに気付いてしまった。


「……私は椎名君に幸せを取り戻してもらいたい」


私達が作ったものによって、椎名君から奪ってしまったものを取り戻したい。


「でも……いったいどうすればいいんだ」


椎名君から奪ってしまったもの。それは椎名君の家族……そこまで考えたところでずっと前から疑問に思っていたこと。それが無視できないほど大きなものになる。


――椎名君が失くしたモノの中に含まれている「椎名望」について。


これはいったいどういうことなのだろうか?あの事故で亡くなったのは2人。事故を引き起こした宮川氏と椎名君の父親だけだ。


確かに事故の際、[椎名望]という椎名君の妹に当たる少女は車に乗っていた。でもその少女は新聞では重傷を負ったとしか記されていなかったはず。


「なぜ望さんは椎名君の前から消えてしまったのだ?」


それが分からない。わかるのはあの事故から今まで一度も、椎名君が望さんと会うことがなかったということだけだ。


何かすごく嫌な予感がする。椎名君がトラワレているのはあの事故だけではない、そんな気がしてならないのだ。


そこまで考えたところで、一つの結論にたどり着く。私が椎名君にできる事とは。


「望さんが何故椎名君の前から消えてしまったのか」


その意味を見つける事。それが椎名君にとっての救いになる。全く根拠はないのだがそう思った。


でもそれはトンネルに閉じ込められたままの現状では実現できない。


スマートフォンの電源ボタンを押す。アンテナを確認してみるが1本も立っていなかった。


何かを探るうえで一番手っ取り早いのは今の時代、インターネットでの検索だ。望さんを探すうえで一番の手掛かりになるのはあの事故。あの事故のことを調べ直してみようと思ったのだが……。


「まずはここからでなければ、か」


本当は真っ先に調べて、真実を椎名君に知らせたかったのだが。それはまだ出来なさそうだ。


「……父よ、スマートフォンなんか握りしめて何をしているんだ?」


色々なことが頭の中で絡み合い、堂々巡りをしているといつの間にか起きていた静香が怪訝そうな顔で私を見ながら問いかけてくる。


「調べたいことがあったんだけど、やっぱりこの状況じゃ無理だったよ」


そう言って静香に1本もアンテナが立っていないスマートフォンを見せる。


「……調べたいことっていうのは優のことか?」


――どうやら私の考えていたことはどうやら静香には御見通しのようだ。


「椎名君が巻き込まれた事故、その事故での被害について調べたかったのだが……」


そこまで話すと、静香は首をかしげながらさらに質問を投げかけてくる。


「それがいったいなんになると……」


静香の質問が最後まで発せられる直前――


「あぁああああああああああ!!」


耳をつんざく絶叫が響き渡る。その声の主は――!


「椎名君?! 」


「優! 」


2人とも同時に確信する。椎名君の身に何かが起きたということを――。


「静香! 走るぞ! 」


「あぁ! 」


声を掛け合い、一緒に声がしたほうへと走り出す――数分ほどだが走っていた時間がすごく長いように思えた。


椎名君と一緒に行った涼香の姿を見つけ足を止める。そのすぐそばには心配そうな顔で立ち尽くす綺堂院くんと白崎さん。それと意識を失い倒れている椎名君の姿があった――。

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