EP11--悠野涼香3――驚きとぬくぬく
2022年 11月25日 2時05分
――お姉ちゃんからの指示で、トンネルの入口方面へと向かう途中、緩やかなカーブを通過したあたりで、あることに気付いた。
「……もしかして、この辺りの照明がほとんど消えちゃってるのかも」
私や少年たちが先ほどまでいた場所はもう少し視界がよかったように思う。だが、今私がいる場所は上にあるはずの照明の明かりがほとんど差し込んでおらず、かなり暗い。
「……そうだ」
――ポケットからスマートフォンを取り出す。カメラのレンズの横にあるライトを点け、辺りを確認する。
頭上の、本来ならこのトンネル内を照らす照明があるはずの場所へと光を当てる。
「やっぱり、割れちゃってるかぁ……」
この場所が暗かった理由は、地震の揺れで照明が割れていたせいだっだ。
「やっぱり地震って怖いなぁ……」
トンネルの照明に使われているライト。このライトはとても大きくてかなり丈夫のはずだ、そのライトは大体5mから10mに1台のペースで設置されているのだがそのほとんどが割れている。
薄暗い道路をスマートフォンで照らしながら進んでいく――大体200mほど歩いただろうか?数少ない、生きている照明が1台の軽自動車を照らしていた。
「ホントにあったよ……さすが、お姉ちゃんだよ……」
お姉ちゃんの推理通り、おそらく少年が乗っていたであろう車を見つけることができた。
少しだけ歩調を早め、車へと駆け寄る。車の助手席のドアノブに手をかけ、いつもお父さんの車に乗るときと同じくらいの力で引っ張る――鍵がかかっているかもしれないなと思っていたが予想に反して簡単にドアは開いてくれた。
「よかったぁ……でもお兄さんって案外不用心なのかも」
こんな状況で車を離れるときに、鍵をかけていない少年を想像して少し、不安になる。
「お兄さんが目を覚ましたら注意しないとだよ……」
――今回はその不用心さのお蔭で助かったのだが、もうちょっと気を付けてほしいな。そんなことを考えながら車の中を覗きこむ。
助手席の足元に、大きなリュックサックが置いてあった。
「お兄さん、勝手に開けてごめんなさい」
本人が目の前にいないので、少年の姿を思い浮かべながら断りを入れ、チャックを開いた――中を見てみると大量の煙草と2本のお酒が入っていた。
「……あれ?」
もしかするとこの持ち物、それにこの車は少年のものではないのかもしれない。
そう思いリュックサックから視線を放し、車の中を見回す。
運転席のほうの座席の上にやけに古びた、子供用に見えるお財布がポツリと置いてあった。
「これの中に、免許証とかがあったら持ち主がわかるかも……」
そう思い立ち、お財布を手に取る、中を開けるとすぐに目的のものは見つかった。
免許証の表面を見ると、さきほどまで見ていた青年の顔写真があった。
「……よかったぁ、やっぱりこの車はお兄さんのだったんだ」
車の持ち主を間違えていなかったことに安心する。
「お兄さんの名前、[椎名優]っていうんだ……」
免許証に書かれていた名前、それは私にとっては何よりも大切な情報だった。
「椎名君……優くん、優……はぅ」
少し調子に乗って呼び捨てにしてみると、頬が熱くなった。
「呼び捨てはなし! ……でも椎名さんって呼ぶのも嫌だし、[優くん]って呼ぼう! 」
頭の中で、少年――優くんの呼び方を決め、今度は生年月日を確認する。助手席の足元にあったリュックサック、その中身はどれも成人専用の物であった。
私は優くんの年齢を確認して、20歳以下だったときはこの持ち物についてお説教しようなどと考えていたのだが――。
「え?優くんって21歳なの?!」
免許証の生年月日欄に記されていたのは[西暦2000年 12月1日生]の文字。その文字が示すのは、優くんが21歳であるということだった。
「絶対に同い年くらいだと思ってたんだよ……」
驚きの事実に愕然とする――童顔で、遠くから見たら女の子と間違えそうな容姿の優くんが、自分よりも3歳も年上の大人の男性だということが信じられなかった。
優くんの意外な事実を知って驚愕した数分後、使えそうな荷物と貴重品――リュックサックとお財布、それに後部座席に乗っていた水筒と、優くんの上着。――嵩張るから上着は着ていく事にする。……あくまで嵩張るから。
「……ぬくぬく」
上着を着ると心なしテンションが上がってしまうが仕方ない、あくまで嵩張るから。
「添木になりそうなものはなかったな……」
大きな収穫はいくつもあったが一つだけ、添木になりそうなものがなかったことが悔やまれる。
「ちょっと遅くなっちゃったな……早くお姉ちゃんたちのところに戻らないと」
スマートフォンの時計を確認すると、お姉ちゃんたちと離れてから20分以上が経過していた。
そのことに気付いて少し小走りになる。少し進んだところでふと疑問を感じ、入口方向へと視線を向ける。
「そういえば出口ってどうなってるのかな……」
気になって、優くんの車の先をライトで照らす。
目に映ったのは大量の土砂と瓦礫の山。それらが出口を完全に封鎖している異常な光景だった――。




