EP1--椎名優1――始まりは唐突に
2022年11月24日 23時50分
「ふう……今日もこんな時間か……」
右側の胸ポケットから四角い箱を取り出し、中身を口に咥えるーー先端に火をつけ深呼吸をするように濃い煙を吸い込んだ。
「やっぱり夜に見る景色はいいな……」
そうつぶやきながら、踏んでいたアクセルを緩める――椎名優は仕事帰りに高速道路を走行していた。
辺りに視界を遮るものがない高速道路から見える夜景は優に退屈さを感じさせることはない。
高速道路は複数の路線があり、枝分かれをしているような構造になっている。
優が走っていたのは大きな体育館の横にある料金所から乗り、メイン路線と呼ばれる大きな路線に合流する箇所であった。
メイン路線へと合流し前方を見やると巨大な口を大きく開けている様を彷彿させる大きなトンネルが目に入った。
「この先のトンネルって長いから嫌だなぁ……夜景も星も見えなくなるし」
優が乗った路線からメイン路線へと合流する。200mほど走ったところには<大川トンネル>とこの高速道路で一番大きい、950mの長さを誇る大きなトンネルが通っていた。
「早くトンネルを抜けたいし……少し速度をあげちゃおうかな」
アクセルを踏み込みトンネル内に入る際、優は見えなくなる夜景と別れを告げる。意識を運転だけに集中しようと前へと視線を向けた瞬間、左側の胸ポケットに入れていたスマートフォンが今までに聞いたことのないけたたましいアラームを発した。
「--っ! 」
突然の大音量に焦りを感じながらも足をアクセルから放し、ブレーキを思いっきり踏みつけた。
急に静止の命令を出された優の車がその指令に従おうと甲高い悲鳴を上げたときーー轟音を発しながら世界が激しく揺れーー
その衝撃に耐えきれず優の意識は闇へと飲み込まれていった――。