女子高生と鉄パイプ
よっとっとっと…!
慣れたとはいってもいざやってみると案外手こずるもんである。
「さてと、じゃあ始めようかな。」
あえて彼女に聞こえるように大きな声で呟いたけど彼女は無反応のまま、もちろん返しなんかしてくれない。
そのまま彼女は狙いを定めた狩人のように俺に殺気を向けながらゆっくりとこちらに迫ってくる。
そこまではまあ想定内だったけどそのあとが想定外だった。
彼女がこちらに迫ってくる足跡の他にもう1つ違う音が聞こえる。
ぎぃー、ぎぃー、ぎぃー
と何かを引きずる乾いた音が足跡と混ざりだんだんと大きくなっていく。
「ちょっとこれはヤバイかな…。」
思わず口に出てしまった。
だって彼女が持っていたのはヤクザや任侠映画でお馴染み鉄パイプだ。
いやいや、なんでこんなもん持ってるんだよ?てかどこから取ってきたんだよそれ!?
絶対おかしいだろこれ!??
今まで拳銃だの刀だの高校生からしたらどこか現実離れした武器ばっか出てきてたからそこでまさかの鉄パイプとは夢にも思わなかった。
でもそれをいうと今腹に刺さってるナイフもそうなんだけどそれは刀の小型版ってことに特に気にしなかった。
それにあれだよ、長い髪をなびかせながら鉄パイプを持ってるって完全に昭和にいた女性番長だよ。
それを今の次代、かつて容姿端麗、成績優秀、みんなから慕われていた彼女がそれをやっているインパクトは計り知れない。
そんな貴重な瞬間を俺は今目の当たりにしているのである。
だけどその姿をいつまでも見ているわけにはいけない。
「逃げよう!」
本当は逃げちゃいけない。
立ち向かわなきゃいけない。
だけど今は逃げなきゃいけない。
これが今の俺の現状だ。
当たり前だ、只でさえ命が燃え尽きる直前なのに鉄パイプの攻撃をくらいでもしたら一瞬であの世行き、この世からおさらば、物語は終了だ。
だけどこの逃げはただ逃げるためではない、我慢の逃げだ、あれをどうにかするための突破口を開く為の。
この物語は彼女が終わらせてはいけない、物語は俺が終わらせる、それがどんな結末になろうとも。
だから今は時がくるまで逃げる…
ことなんてできなかった。
そんなこと最初からできるはずがない。
この狭い部屋で、障害物がたくさんあるこの空間でまだ完全に走れる状態ではない俺と、完全の状態でいくらでも走れ殺意剥き出しの彼女じゃ天地の差だ。
殺気まで俺を助けてくれた壁が今では命取りになってしまいすぐに追い詰められてしまった。
「ねえ委員長それはちょっとダメじゃない?」
「…」
「さすがに女子高生がこんな危ないもの持ってちゃだめだと思うよ。」
「…」
「このままだと大変なことになるけどいいの?」
「…」
「委員長はそんなする人じゃないじゃん!」
「…」
「だからさ!ね?やめよう?もうこんなこと?」
「ダメだよ…。」
彼女はニタリと笑い持っていた鉄パイプを持ち上げそのまま降り下ろす。