小さな思い出
そこに転がってるもの
それはかつて動いていたもの
かつて俺が絵空と呼んでいて本当は優歌だったもの
だけど今は冷たく硬いただの肉の塊になってしまった。
彼女も特異体質だったために世界からなにもかも消えても彼女は俺達と同じでこの世界に残れる。
それが死体になったとしても…。
以上が今の時点で俺が彼女について知っていること、覚えていること、覚えていれていること。
他のことは全部忘れてしまった。
こんな短い時間の出来事だったはずなのに彼女との記憶や思い出が体からさらさらと砂のようにこぼれ落ちていく。
救い上げても手の隙間からポロポロと再び落ちていく。
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
何度やっても結果は変わらない。
彼女との記憶はもう戻らない。
そう考えると俺の中から砂ではなく水が沸きだし流れていく。
とても悔しくて悲しくて虚しくて空っぽになりそうなこの体からまだ出ていくものがある。
だけどそれを俺は少し嬉しく感じた。
だって彼女に化け物呼ばわりされて、それを自分でも自覚しちゃったのにまだそれを流すことができた、人間の心がまだ少し残っていることができて嬉しかった。
俺はこう見えても立ち直りが早いほうだと思う。
だからこうやってくよくようじうじするのは俺らしくないのかな?
最早自分のことすら曖昧になってきたけどこの姿を優歌に見られたらきっとデカイ声で説教されたり下手したら腹パンされるかもしれない。
それはヤダな。
だからもう少し頑張って見ようと思う。
きっと彼女はそれを望んでる…といいな。
きっとそうだよ、だって優歌は死んでもなお俺を助けてくれた。
欲しかったものをくれた。
与えてくれた。
守ってくれた。
これは決してご都合主義でも奇跡でもない。
だけど偶然くらいは思ってもいいかもな。
ともかくこれで俺がここにきた目的が果たせる。
果たせない目的を果たせる。
だからもうちょっとだけやってみようと思う。