化け物
当然ながら痛覚と触覚がないのは不便でしょうがない。
触覚はともかく痛覚はなくてもいいかな?と思っていた時期がたしかあったような気がする。だけどいざなくなってみるととってもやりづらいし生きづらい。
痛覚は言い換えてみれば体からの警告シグナルだ、そのシグナルによって脳は体の異常を知ることができる。
じゃあ痛覚がない人はどうやって体を知る?
そんなの自分の目で見るしか方法はしかない。
だけどそれは外的なものだけで内的なものだったらもうお手上げゲームオーバーだ。
あいにく俺のほうは外的なものだったので見ることでそれを知ることができた。
な~に、そんなに驚くほどのものではない、ちょっと左足の骨が折れたらしくて足が良からぬ方向に曲がってるだけだ。
だけど問題はない。
今の俺なら。
「よいしょっと」
バキッ、ボキッ
「ねえ…あんた…なにやってるの…?」
俺をぶっ飛ばした張本人、足をこうした張本人、俺がこうなった原因を作った張本人がやってくる。だけど彼女の顔に余裕の表情なんてなくてむしろ見つめて、引いて、恐がって、そんな表情をしていた。
「なにって曲がった足を治してるんだよ、これじゃ立てないだろ?」
「いやだから…そういうことじゃなくて…」
「どれもこれも委員長がやったことじゃないか、今さらなんだよ。」
その瞬間、彼女は俺の服の胸ぐらを掴みそのまま近くにあった壁に投げ捨てるように叩きつけた。
だけどそんな攻撃痛感のないのだから痛くもなも痒くもない。むしろ彼女が動かしたことはこっちでは好都合だ。
「またハズレか。」
「何がハズレよ。」
「こっちの話だよ、まあ1人しかいないけど。」
「まあ化け物の話には私にはどうでもいいことだけど。」
ん?、
あれ?
「ねえ委員長、今なんて言った?」
「もう化け物と話すつもりはないわ、早く死んで。」
やっぱり彼女は俺のこと化け物って呼んでいる。さっきまでは名前やあんた呼ばわりだったのに。
「委員長、何で俺のこと化け物って呼んでるの?」
「あんた今痛み感じてないでしょ?」
ああ、バレてたか。まあ当たり前だよな、こんな状態だからな。
だけど、
「だけどそれくらいで化け物呼ばわりは酷いんじゃないの?なにもかもこんな滅茶苦茶なこの世界なんだから何が有っても、何にも無くなってもおかしくないじゃん!」
「確かに今のこの世界じゃ何が有っても無くてもおかしくない、だけどあんたは人間として必要なものを無くした。それを無くしたあんたは化け物よ。」
はっきりいって委員長の言ってることはよく分からなかった。
俺が無くしたもの
記憶
痛覚
触覚
優歌
親友
クラスメイト
世界
この中のどれを無くしたら人間じゃなくなるんだ?
全くわからない。
「なあ委員長、俺は何を無くしたんだい?」
「はぁ~、それを聞く時点であんたは人間じゃない。心を無くしたあんたは化け物よ。」
心…?
ああ…そういうことか…。
彼女の言う通りだった、彼女の言ってることがすぐ分かった。
こんな俺よりもGにいろいろ弄られた彼女のほうがよっぽど人間で俺が化け物ってことが。