普通の人間が普通でなくなる時
「ねえ、Gはどこ?一緒にいたんでしょ?」
委員長の姿をした彼女は俺に3回目のダメージを与えたあと淡々とそう言った。
その時彼女の顔に表情というものはなく、真顔とは少し違う、怒っていないのに何故か恐怖を感じるそんな顔をしていた。
もちろんそんな顔は委員長はしない、マイクロチップに埋め込まれた人達でも真顔だけですんでいた。
「なんで答えてくれないのY?Gはどこいったのよ、ねえ答えてよ!」
答えられるわけないだろ…。
だって俺は今にも死にそうなんだぜ…。
そして俺がこうなった犯人はおまえだ…。
大量の血が流れ、それのせいなのか最初は激痛が身体中を電流が走るように回ったけど途中から激痛はなくなって3回目のやつは刺されたことはわかったけど
足なのか
手なのか
それとも首なのか
どこを刺されたのか分かんなくなってしまった。
そんな状態でどうやって喋ればいいのか?俺が俺が教えて欲しいくらいだ。
「はぁ…はぁ…、あ…あぁ…」
だけど俺は喋ることを諦めてはいない、まだ彼女と、委員長とまともに話してないからだ。
「な~に、ちゃんと喋ってよ?」
ブスッ
鈍い音がした、痛感が鈍くなった分聴覚が冴えてるのかな?今まで聞こえなかった音が聞こえているような気がする。
俺を刺した音
彼女の息遣い
彼女の服が擦れる音まで聞こえる。
まあ彼女がまた俺の身体のどっかを刺したのは変わらない事実、これで4回目。
ここまでくるともうどこを刺されても、何回刺されても変わんないような気がした。
そう考えるとなんか気が楽になる。
しかもこの期に及んで頭が冴えるっていうオマケつきだ。
「ほら何か言いたいんでしょ?しばらく刺さないでまってあげるから指を動かしてる暇があったら早く答えてよ!」
それは有難い、考える時間を与えてくれるなんて。
だけどそんな時間はない、早くしないと俺が出血多量で死んでしまう。
なんとかこの状況を打破して委員長を取り戻したい、生きてるうちに委員長に会いたい。
だけどこの状況じゃ…。
痛感のないこの身体じゃ…。
動け…ない…?
あれ?じゃあなんで彼女は今指を動かしてる暇とか言ったんだ?
俺は痛感がなくてそんなことできるはずがない。
思わず目線を彼女の方から手の方に移した、首曲げて…。
ああ…、そういうことだったな…。
勉強はちゃんとしておくもんだよやっぱり。
火事場のバカ力とは違うけど今の俺にはそんなことが起きてるんだろうな。
身体のリミッターが外れて特異体質持ちの普通の人間が普通でなくなった悲しき存在に俺はなった、なってしまった。
だけどこれで彼女と話せる、闘える。
「ちょっとどいてよ。」
「えっ…?」
一瞬と惑った彼女を隙を突き俺の上に半馬乗り状態だった彼女を突き飛ばした、もちろん手を使ってだ。
その時だ、俺の手が幸運にも彼女の胸に当たってしまった。
普通そういったラッキーな出来事のラッキーな感触を触覚全体で味わい、思春期の男子はしばらく忘れないないことだろう。
ついさっきまでの俺ならそうなってただろうな。
だけど今の俺は違う。
忘れないどころか分からない。
だって触覚がないのだから。