ハイドロチューバ編 前編A ―H.Tuba.―
「……久しぶりやな! 弦ちゃん」
おいらの名前を叫ぶ、野太い声が遠くの方から聞こえた。
「久しぶり」という通り、この声を聞くのは久しぶりだった。
――おいらのことを弦ちゃんと呼ぶ人は片手で数えれるほどしかいない、そのなかで、久しぶりというほどの奴は、おいらが幼いころに引っ越した威晋? いや、声質が違う……誰だ?
「なんや、わしのこと覚えとらんのか、弦太」
おいらの記憶の中に、侍風の髪型で、肌の色は小麦色に焼けた、中年のおっさんの記憶はない。
「わしは弦ちゃんの親父さんの弟子、海冬二織じゃ。それにしても、大きなったな弦ちゃん! 会わないうちにずいぶんと成長したんやないか? そりゃそうか。前に会ったのは確か……詠太さんに世話になってた頃やから、弦ちゃんは赤ん坊やったんか。そりゃ成長しとるわな。クワファファ! グワッファファファファ……」
『赤ん坊のころのことなんて、覚えてるはずないよな。いやーしかし、変わったおじさんだ。二織さんは』
「二織さんはなんで、この街に来たんですか? もしかして、父に会うためですか? それなら、父は今、仕事で遠出して……」
「そうか……。じゃあ、これを」
二織さんはそう言って、おいらにいくつかのものを渡してきた。
『詠太さんがいないことはもともと知ってたぜ――。これから、たっぷり働いてもらおうか――』
二織さんは不気味な笑みを浮かべ、何かを企んでいるようだった。
『――弦ちゃん』
二織さんがおいらに渡してきたもの一覧
■ ■ ■
・透明な直方体の石(中に白い何かのアイコン)
・黒の丸みを帯びた石
・黄色の丸みを帯びた石×3
・青の丸みを帯びた石
・丸みを帯びた石を入れるためのハードケース(三十個ほど入れることができる)
・古びた巻物×4
■ ■ ■
「二織さん、これは? おいらの父に渡せばいいのか?」
「詠太さんがすぐに帰るはずないだろ。勿論帰ってきたら渡してほしいんだけど、帰ってこなかったら弦ちゃんのものにしていいから」
「じゃあ、もらっておきます」
「――弦ちゃんがよければ、頼み事していいか?」
「何するかによりますけど……」
『なんていえば、やってくれるだろうか?』
「え――っと、その巻物は地図なんやけどな。その地図の場所に行って、探し物をしてきてほしい。ただそれだけ、と言えば、それだけなんやけど、やってくれるか?」
どうしようかな。探し物ってことは遠出するってことだろ……。それに、これって一人か? 一人だったら引き受けるのは嫌だな……。
「それって、おいら一人ですか? それと何を探すんですか?」
『よし、興味を持ってくれたっぽいな』
「一人は嫌か? じゃあ、わしの知り合いで、一緒に行ってくれそうな奴らに頼んでおくってことで」
完全においらがその頼み事を引き受ける前提で話進めてる……。
――もう、やるしかないのか。
「何を探すっていうのは、そうだな……、マシーテクト」
二織さんは透明な直方体の石を指さしたので、透明な直方体の石が欲しいと伝えたいのだろうと思い、おいらは透明な直方体の石を二織さんに渡した。
「こうすると、テソロストが出るんだけどな。――こんなかんじのテソロストを探してきてほしい」
二織さんは白いアイコンを押すようにマシーテクトを握った。すると、二織さんがテソロストと呼んでいるものが出てきた。
そのテソロストはおそらく何かの楽器……、楽器は音を奏でるもの、それって禁止されてるはずだよね。二織さん……。
「このテソロストって楽器ですよね。音楽が禁止ってことを知らないんですか? 二織さん」
「もちろん知ってるさ、だからこそだよ! だからこそ、探してきてほしいんだよ! 弦ちゃん」
「――なるほど」
「わしが弦ちゃんに渡したこのテソロストは、ライトニングベースって言って、ベースって楽器で低い音が出ることが特徴で、このベースは雷を出すというか。なんかそういうことができるベースなんだよ。一応理解しておいてくれ」
ライトニングベースをマシーテクトの中に戻し、巻物を一つ手に取り、説明を始めた。
「四つの地図の中で、一番近いのは、ここ〈ハイドロフォールズ〉だ! ここから、北の方へ進んだところにある。一緒に行ってくれる奴らとは、ハイドロフォールズへの道の途中にある喫茶店で合流してくれ、よろしく頼むよ。弦ちゃん」
「GOOD LUCK!」
そう言って、二織さんは市街地の方へ歩いて行った――。
1
それから、ハイドロフォールズに向かう準備をし、北の方へ進み始めた。
『まずは、喫茶店で二織さんの言っていた人と会わなければいけない。それが、まずおいらがやらなきゃいけないことだ。』
そんなことを思いつつも、6割の不安と3割のワクワク感で胸がいっぱいだった。
おそらく二織さんが言っていた喫茶店の看板を見つけ、【ここから三〇m】と書いてあったので、あと少しで、本格的にやるんだ! という不安がドッ! と押し寄せてきた。
喫茶店に到着したので、入店し、入り口近くの席が空いていたので、そこに座り、メニューを広げた。コーヒーはまだ飲んだことがなく、この喫茶店で初挑戦するのは怖いなと思い、比較的好物であるクリームソーダがあることに気付いたので、おいらは迷うことなくクリームソーダを注文した。
注文したクリームソーダが運ばれてくるまでの間。二織さんの言ってた人がいるのではないかと思い。店内を見回したが、そもそも二織さんからその人の特徴みたいなものを全く教えてもらっていなかったことを思い出し、「はぁーっ」とため息をつきたくなったがこの喫茶店に一人で来ている客がいきなりため息をするのを客観的に考えてみると……、恥ずかしくなってきたので、グッとこらえた。
クリームソーダは運ばれてきたが、その人が来る気配はまだない。
そこでおいらはおいらのクリームソーダへのこだわりに基づき、アイスが溶けきらないくらいで、いい具合に泡が出てくる状態のクリームソーダを楽しんだ。
「クリームソーダいいな~。クリームソーダ二つ追加でお願いします!」
「もちろん、如姫もそれでいいよな」
「……うん」
クリームソーダを楽しんでいたおいらの席に見知らぬ二人の少女がいきなり座り、クリームソーダを注文した。
『何なんだ。この二人にはパーソナルスペースが無いのか? たぶんこの二人が、二織さんが言ってた奴らなんだろうな。初対面の印象として、右の子は元気でこれから一緒ってことを考えると楽しくなりそうだけど、なんか疲れそうだな……。それに対して、左の如姫と呼ばれてる子は、大人しそうで、これからうまくやっていけそうか正直、不安だな』
「押忍、弦太。衿早如梨だ。ニッさんからいろいろ聞いてるぞ! これからは弦太郎って呼ぶぞ! それじゃ、よろしく!」
右の子の勢いが凄すぎて、名前以外の情報が全然入ってこない。それと比較するとやはり如姫って子は静かな印象を受ける。
「如姫も自己紹介しな!」
「衿早如姫です。よろしく……」
「じゃあ、おいらも自己紹介するよ。都雅弦太だ。二織さんから詳しいことはほとんど聞いてないから、分からないことも多いけど、これからよろしく! 質問なんだけど、二人って双子なの?」
「双子だ。性格は全然違うんだがな」
「やっぱり双子なんだ。そんな気がする。仲良さそうだし」
そんな話をしているうちに二人が注文したクリームソーダが運ばれてきた。
「久しぶりのクリームソーダだ。懐かしいな如姫」
「懐かしいね、如梨」
如梨は先にアイスを食べ、口の中を冷やし、その冷えきった口の中にメロンソーダを流し込んだ。
如姫はアイスを完全に溶かし、完全に混ざった状態のものをストローで飲んだ。
おいらは飲み方にも性格が出るんだなと思うとともにクリームソーダの飲み方では仲良くなれそうにないと確信した。おいらを中間だとするなら、二人はそれぞれ両極に位置する。実際の今の関係に似ているのかもしれない。そう思った。
二人と雑談しつつ、三人ともクリームソーダを飲み終えたので、喫茶店を後にしてハイドロフォールズへ向かうことにした。
2
「店の中じゃ、怖くて聞けなかったけど、二人はテソロスト持ってるの?」
「勿論。何の楽器かと言うとユーフォニウムという金管楽器なんだ。能力は私も知らない。お楽しみってことだ‼ 弦太郎はどんなテソロスト持ってんだ?」
「おいらは楽器で言うとベース。能力はこっちもお楽しみってことで!」
激しい流水音が聞こえてきた。この音は、滝だ。地図に書いてあったけど、地図に書いてある大きさが間違っていると思うほどの大きさだ。
「私、こんな大きな滝見るの初めて……」
如姫が滝を見て感動しているのを見て、仲良くなれそうな気がすると思った。
「弦太郎! 地図を見せて」
地図を如梨に渡すと
「テソロストは水の中か、滝の裏のようね! 二人とも泳ぐぞ!」
その如梨の一言においらと如姫は唖然としていた。
「二人とも口が空いてるぞ! そんなことじゃ、溺れるぞ! 準備して、行くわよ‼」
ということで、双子の姉妹と一緒に泳ぐことになってしまった。
『二織さんこんなことになるなんて、全く予想してなかったんですけど――!』
さっきまであった不安が消えて、おいらは今、ワクワクとドキドキで胸がいっぱいだ。
次話投稿をお待ちくださっていた方〈いらっしゃるのなら〉読んでくださりありがとうございます!
また、前回から時間がかなり経ってしまいすみません。
次話投稿もこれまでのように時間が空くと思いますが、楽しみにしてくださると嬉しいです。