シンバルスクード ―Cym.S.―
1
歩き続け、一度も着たことがない町に着いた。
『ここはどこだろう? 初めて来る町だ。場所を確認するにしても、ここは人が多すぎる……』
今、彼が地図を見れないのは地図を広げて、邪魔になると申し訳ないという意味ではなく。マイクソード(剣の鍔がガイコツマイクになっていて、地図の表示などの機能がついている剣)を出すという行為が見つかると捕まってしまう(音楽に関することすべてが禁止されている)からである。
「なぁ、乙音。ここどこかわかる?」
「知らない。こんな町来たことない」
「地図で確認するから、細い道に入ろう」
「わかった」
辺りを見渡し、人通りが少なそうな細い道を探すが、人気が少ない細い道が一つも見つからない。
「細い道が見つからないから、ここで確認する。ちょっとの間でいいから、見張ってて」
乙音は、軽く頷き周囲を見張る。その間に、音弥はマイクソードを出し、地図を表示させる。
『おっ! 赤い点がある。ここにテソロストが隠されてるのか……、そんなことよりここがどこか確認しなきゃいけないんだよな。……えっと、ここがニアーズで、この赤い点の場所の名前がデザートスクード』
「ここはニアーズって町で、近くにデザートスクードっていうテソロストが隠されている場所があるみたいだ。――見張りありがとう」
「ここがどこか分かったし、テソロストがあるのも分かったけど、これからどうするの?」
「これから、北の方に行って、テソロストを探す」
『ハルバードホールのときみたいな、おかしな仕掛けがないといいんだけどな』
そんなことを思っている反面、どんなテソロストが隠されているのか楽しみでもあった。
デザートスクードに向かって歩きながら、
「どこに隠されてるんだろうな? テソロスト」
「デザートスクードのデザートは《砂漠》って意味だと思うから、砂漠にあるんじゃない」
「もしそうだったら、水分持って行ったほうがいいかもしれないな」
「そうね、音弥は水分を手に入れてきて、私は少し寄りたいところがあるから、水分手に入れたらここで待ち合わせしよう」
「どこ行くんだ?」
「どこでもいいでしょ」
そう言って、走っていった……。
◇ ◇ ◇
水(約5リットル)を調達した音弥は、先ほど乙音と別れた場所に戻ってきた。
『乙音遅いな――、何してるんだろう。少し気になるな』
――しばらくして、乙音が戻ってきた。
「水分は手に入れたけど、ほかに必要なものってなんかあるか?」
「食料もまあまああるし、大丈夫じゃない」
出発する準備ができたので、デザートスクードに向かうことにした。
ハルバードホールに行くまでの道と同じように、人がいる気配が全くない。ほぼ同じだろう、もし、違うところを挙げるなら、暑いということだろう。ニアーズにいたころよりも気温が上昇している。
「音弥、暑くない?」
「乙音がマントしてるからじゃないか?」
「そうかも。でも、それだけじゃないと思う。普通に気温が上がってる」
「いわれてみればだんだん暑くなってきてるかも」
視界に映る景色が、黄土色の砂だけになった。気温は道と比にならないくらい暑い。
「こんな広い砂漠のどこにテソロストがあるんだ?」
「適当に歩いて探すしかないかな?」
「それしかないか」
二人は歩き出した。
◇ ◇ ◇
――結構歩いたはずなのに、景色が全然変わらない。
――黄土色の砂が風で少し舞い上がったということ以外、視覚情報が何も変わらない。
――どんなに前に進んでも、進んでいる気がしない。
――もうこれ以上、前に進んでも意味がないのでは? と思ってきた。
――それでも、前に進まなければここでテソロストを探すことができない。
――どうやって探せば、見つかるんだろう?
2
だんだん意識がもうろうとしてきた。いつ倒れてもおかしくないのではないだろうか。そうだ、水を飲もう。水を飲んだら少し意識が回復するのではないか?
――喉の渇きを潤した。
意識が回復した。その代わりに、水が残り4ℓになってしまった。
「乙音も飲むか?」
「…………………………」
「乙音? 乙音がいない……」
「乙音どこにいるんだ? 乙音、乙音」
乙音らしき少女が、かなり遠くの方に見える。
少女が見える方へ走っていく。
『もっと早くに、気づけていればよかったのに……。ごめん、乙音』
少しおかしくなってきたのかもしれないが、少女がマントを付けていないように見える。
『乙音がマントを外すなんて……』
勝手に乙音のアイデンティティ的なものだと思っているので、外したなんてとても驚きだ。
かなりはっきりと見えるようになって、気づいたことがある。
――あの少女は乙音ではない、別人だと。
マントを外した乙音だと思っていたけれど、違ったようだ。
『あの少女が乙音じゃないなら、乙音はどこにいるんだ?』
もう乙音を探す方法が考えられない。
テソロストもどこにあるのかわからない?
デザートスクートについてわかったことは全然ない。
『もう、どうしていいのか。何からすべきなのか。わからなくなっ……』
◇ ◇ ◇
音弥が水を持っている。けど、私は持っていない。
「音弥水頂戴、喉が渇いた」
私の少し前で歩いている音弥はこっちに気づいていないようだ。
「ねぇ、水。水を飲ませて」
マントのおかげで、何とか水なしてここまで歩いてこれた。けど、もう限界かもしれない。
身体から力が抜けていくのを感じる。
――目の前が真っ暗だ…………。
◆ ◆ ◆
遠くの方で誰かが倒れた。この砂漠で倒れたら、命が危ない。
『大丈夫かな? あのマントの人』
倒れたマントの人のところへ、できる限り早く走った。
『助けなければ』そんな使命感の下走った。
「あの、大丈夫ですか?」
マントの人からの返答がない。
『呼吸はあるから、生きてるんだろうけど』
うつ伏せのマントの人を仰向けにし、
『この人、女の人だったんだ』
マントの少女の口を開けて、水を飲ませた。
「大丈夫?」
▼ ■ ▲
「音弥大丈夫?」
「乙音か? どこにいたんだ結構探したんだぞ!」
『結構探したといっても、この砂漠に詳しい人じゃなきゃ見つからないって』
音弥が乙音を探していたということを言っても、乙音の「水をくれなかったこと」に対する怒りが収まらないようで――
「音弥が水くれなかったから、倒れたの。それで、雨楽羅ちゃんが助けてくれたの」
と思っていたことをはっきりと少し狂ったように吐き出した。
「俺が乙音に水をあげていれば、倒れることもなくて、探さなくてよかったってことだよな。ごめん。俺も意識が不安定だったから「水が欲しい」みたいなことを俺に言ってんだろうけど、聞こえてなかった」
「……」
感情的になってしまっていて、まだ普段の様子とは少し違う。
『雨楽羅っていうのは、そこにいる彼女のことなんだろうけど、俺たちのやり取りどんなこと思って聞いてたんだろう? 乙音が少し落ち着いて来たら紹介してもらうか』
乙音の興奮が納まってきたようなので、彼女のことを聞いてみることにした
「ところで、雨楽羅を紹介してくれないか」
「えっと、私が倒れていたところを助けてくれた――富張 雨楽羅ちゃん――この砂漠にはかなり詳しいよ」
目力が強く、身長は俺と同じくらい、肩にかからないくらいのミルキーベージュのショートヘア―が似合っている少女――雨楽羅――が自己紹介を始めた。
「今、簡単な紹介があったように富張雨楽羅といいます。よろしく」
「こちらこそよろしく。俺の名前は響城音弥だ」
「ララはこの砂漠の近くにあるニアーズ出身で、1か月前くらいからここで生活してます」
『雨楽羅は好き好んで、ここに住んでるのかな?』
音弥は雨楽羅の自己紹介を聞いてそんな疑問が浮かんだ。
「雨楽羅はなんでここに住んでるんだ?」
「ララはニアーズにあるニアーズ小塔に向かうとき道を間違えてしまって、デザートスクードに迷い込んでしまって…」
「そうなんだ。帰ろうと思わなかったの?」
「帰る道もわからないし、ここで生き抜くことで精一杯だから、帰りたいとは思うけど……、もう半分諦めてるって感じかな」
『音弥くんたちはいつかデザートスクードから出ていくんだろうな。一緒に出て行くのもいいかもしれないな……』
「そういえば! 乙音、テソロストは見つけた?」
「まだ見つけてない」
雨楽羅はこの二人の会話を理解できず、不思議そうに聞いていた。
「テソロスト?」
聴き慣れない言葉――テソロスト――を知らないうちに気になってしまっていたのか、無意識に声に出していた。
「雨楽羅、この砂漠で楽器であり武器である『テソロスト』を見たことはないか? デザートスクードのどこかにあるんだよ。知らないか?」
「楽器って、まさか。音楽が禁止されてる事知らないの⁉」
「もちろん知ってるけど、俺たちは音楽を開放するために旅をしているから――そんなこと気にしてない」
『音楽を開放か。音弥くんたちはなんか凄いことしてるんだな』
「そうなんだ。――テソロストなのかわからないけど、ガラスケースみたいなのに円形の金属二つ入ってるのを見たことがあるよ。ここにあるテソロストがあるとすれば、それだと思うな」
「その円形の金属はどこで見たんだ? 教えてくれ」
結構歩いて見つからなかったものが雨楽羅の情報によってそれかもしれないという希望が出てきた。
『雨楽羅に出会えて良かったな』
西に向かって指をさしながら
「こことあっちにあるオアシスとの中間地点あたりにあったような気がするよ」
「雨楽羅、ありがとう」
『雨楽羅のおかげで見つかるかもしれない。音弥に水もらえなくて、辛かったけど結果的には良かった』
雨楽羅との出会いは運命だったのかなと乙音は思っていた。
「音弥くん、乙音、――ここに一人でいても暇だからテソロスト探し、一緒に行っていい?」
「いいけど……、ちょっと危ないかもしれないぜ」
「わかった。気を付けるよ」
3
テソロストがあるかもしれない場所へ行くため、雨楽羅にだいたいの場所を教えてもらいながら砂漠を再び歩き始めた。
「雨楽羅って、音楽に興味あったりしない?」
「どうなんだろ? そもそもララ、音楽について何も知らないかも」
「そっか……。……そうだよな。禁止されてるから、知らないのも無理ないよな」
『じゃあ、雨楽羅ちゃんがマシーテクトに弾かれるかもしれないのか……』
「雨楽羅ちゃん、テソロストを見つけたとしても、触ると危ないかもしれないよ。覚えておいて」
乙音はハルバードホールの経験をもとに雨楽羅に危険なことがないように気を使っているが、乙音の経験を知らない音弥は
「乙音! 別に触ってもいいじゃないか! なんで触っちゃダメなんだ?」
『触っちゃダメな理由なんてあったか?』
「そろそろ見えてくるはずでよ」
雨楽羅は二人の険悪なムードの会話を遮り、目的地にそろそろ到着するということを二人に伝えた。
「雨楽羅、あれのことか?」
音弥は前方にある台を指しながら雨楽羅に質問した。
『雨楽羅の言ってるものがもし、テソロストじゃないものだったらどうしよう。他に思い当たるところがないしな――』
「そう。あれだと思うけど、テソロスト?」
『テソロストじゃなかったらどうしよう――。たぶんこれだって言っちゃったけど違ってたらどうしよう――。ここまで一緒に来たからには、二人の役に立ちたいな』
少年たちは台を目の前にし、『これだ!』『見つかって良かった!』『これなのかな?』とそれぞれがそれぞれの感情を抱いていた。
円形の金属が二枚。円の中心部は少し膨らんでおり、膨らみのところにレバーハンドルのような持ち手がついていて、いかにも何かが起こりそうなスイッチがレバーハンドルについている。おそらく、この楽器は――シンバル――。
「雨楽羅ちゃんこれがテソロストだよ。ありがとう」
『雨楽羅ちゃんがいなかったら、砂漠で倒れたままで、テソロストも見つからなくて……。この砂漠で、雨楽羅ちゃんと出会えてよかった』
雨楽羅に出会えたことは奇跡的なことで、それを感謝しないといけない。と乙音は心から思った。
「あの楽器は、シンバルっていう楽器だね」
「へぇ。なんか凄そう。……テソロストって楽器で武器なんだよね。このシンバルって何の武器なんだろ?」
『本当だ。雨楽羅に言われるまで、見とれていて気付かなかったが、何の武器なんだろう……』
乙音は何の武器であるのか、脳内にある知識をフルに使っても、思い当たるものがなかった。
「ごめん。私の知識じゃ何の武器か、わからない」
「考えてても、わからないなら持ってみればいいだろ」
音弥はそう言って、何の躊躇もなくテソロストを手にした。
――――シャーン――――
シンバル特有の余韻が広大な砂漠に響いた。
『うわぁー! この心地よい響きララ好きかも』
「音弥くん。私もシンバルやってみたい‼」
「いいよ。どうぞ」
―――――― シャ――――ン! ――――――
「なんか今までに感じたことの無い快感かも」
「良かったね。雨楽羅ちゃん」
『雨楽羅ちゃんが楽しそうで見てるこっちも嬉しくなってきた。けど、何の武器かわからないのがとっても気になるな……。あのレバーハンドルに付いてるスイッチで武器になるとか……そういう仕掛けなのかな?』
――カシャッ! ――――ジャリッ‼
シンバルの音とは全然違う金属音が、シンバルスクードの方から聞こえてきた。
反射的に、乙音は金属音の聞こえた方を向いた。
『えっ⁉ シンバルスクードが少し変形して、盾になってる。……ってことはあのスイッチでシンバルを盾にできるってことなのか。なるほどね!』
「シンバルスクードはシンバル×盾みたいだね。なんかかっこいいな」
レバーハンドルがついてない側に、少し膨らんだ金属が付き、とても丈夫そうな盾となった。
――ジャッ!
シンバルとは程遠い金属音が響いた。
『この音嫌いじゃないけど、ララは普通のシンバルの音の方が好きだな』
スイッチで元に戻し、―― シャーン! ――と勢い良くシンバルを鳴らした。
『やっぱり、こっちのほうが好きだな』
『雨楽羅はシンバルが似合っていいなー。かっこいいなー!』
● 〇 ◎
雨楽羅が頭に浮かんだリズム(タン・タカッ・ターンなど)を気持ちよさそうに叩く。
乙音は雨楽羅が叩くリズムに合わせて、ハルバードギターでメロディーを奏でる。
音弥は自然発生的に起こった二人のセッションに気持ちが高まってきている。
『二人のセッションを聞いてるのもいいけど……、――二人に合わせて、歌いたくなってきた――。決めた! 歌うぞ‼』
ソードホルダーをマイクスタンドに変形させ、黄土色の砂の上にセットする。
「♪―― 」
響城音弥:〈Vocal〉:マイクソード
天羽乙音:〈Guitar〉:ハルバードギター
富張雨楽羅:〈Cymbal〉:シンバルスクード
一面が黄土色の広大な、三人のためだけに用意されたかのようなステージ
誰にも制限されることなく音楽を楽しめる三人にとって、最高の空間
『どこでもこんなに楽しいことができたらいいのに……』
『おじいちゃん、とっても楽しいよ』
『とても楽しい! これからも音くんたちと一緒に旅をしたいな』
「 ――♪」
風によって、舞い上がった砂の音が会場全体からの拍手のように聞こえた。
4
心地よく聞こえていた砂の音がだんだん大きくなっていき、鳴りやまない拍手というよりは……、
――三人を拒絶するブーイングの嵐――
――この砂漠から出ていけと言わんばかりの強風と砂嵐――
――大きな何かが、近づいてくるような気配――
『この気配、前にも感じたことがあるような……。ハルバードホールの……』
――砂嵐が途絶え、あらわになった――巨大蠍――の姿が――
「テソロストがあるところには大きな生物がいるって決まってるのかよ」
「テソロストが簡単に採られないように守る――守護獣――的なものなんじゃない?」
「うわっ! でかっ‼ ここにあんなの居たんだ。……そう考えると、怖いな」
『音弥くんたちはどうするんだろ……? 逃げるのかな……? それとも……』
「……っしゃ! 戦うぞ!」
少年は頬をパチッと叩き、気合を入れ――。
――マイクスタンドから抜刀―― 少年は巨大蠍との戦闘準備を始める。
――ヘッドの斧を回転―― ハルバードギターのネックが伸びる。少女はハルバードを構え、いつでも戦えると言わんばかりの緊張感を放つ。
『二人とも、雰囲気が今までとはまるで違う。私もシンバルスクードを……』
――ハンドルのスイッチをオン―― 双盾を巨大蠍に向け、構える。
『こんなことで怖がってるなんて……。これからも一緒に旅をするなら、何度もこういう状況になるだろうから……。 ――ララ、頑張る!』
巨大蠍を睨みつける。闘志を持った少女の目は、更に目力を帯びる。
「――は――――――っ‼」
――赤い閃光を放った一筋の線が巨大蠍に向かって伸びてゆく。
――閃光が左に生えている脚すべてを貫き、重く鈍い音が響く。
「乙音、右を狙え!」
――ギターの音が響き渡り、弦とハルバードが輝く。
少女は少年の言葉に対し、行動で返事をした。
――ハルバードが一本を斬る ――更に一本 ――更に一本
――残っている一本に輝きを放ち続ける槍が刺さる。
――解放弦の音が響く ――輝きが治まるとともに槍が抜かれる。
――脚がひとつ残らず身体から離され、横たわる巨体。
――いつでも反撃できるという威圧を感じさせられるほど、元気な蠍。
「音弥! 全然聞いてないみたいよ」
「そうだな。でも脚がないだけで、結構変わると思う」
「まぁ、確かにね」
もう、その場所から動くことができなくなった巨大蠍がどういう行動をとるのか。ということを考えると少し怖かった。
――脚が新たに生えてくるかもしれない。
――斬った脚が動き出すかもしれない。
――脚を使わずに攻撃をしてくるかもしれない。
いろいろなことが、容易に想像できる。
『ララ、二人の動きに見とれてしまってた。二人のコンビネーションは凄い。わたしも、二人と一緒に……』
という気持ちとは裏腹に身体は動こうとしなかった。
「次もこっちから仕掛けるぞ! 俺は尾を。乙音は……」
「……腹を狙うわ」
二人は合図など全くせずにそれぞれが狙うところを目がけて動き出した。
▼ ○ ▲
『斬る。斬る。尾を斬る』
「うおおぉぉ――――っ!」
マイクソードが少年の声に反応し、深紅に染まる。
――キィーン!
ハルバードホールにいた守護獣ほどではないが、相当硬い。今回も一点集中攻撃で……。
「危ない、上‼」
▽ ■ △
『刺す。刺す。奥の方まで刺す』
「ギュウィ――ン! ポロロ ギュウィ―ン!」
短いフレーズを弾き、ハルバードギターから虹色の閃光が放たれる。
『奥の方まで、突き刺さって!』
九フレットのあたりまでネックが刺さった。
そして、刺さったままの槍を回し、腹をえぐった。
『腹は意外と狙いやすそう。腹から狙うのがいいかも』
「危ない、上‼」
巨大蠍は尾の先から、何かを出そうとしている。それを察した雨楽羅は二人に向かって叫んだ。
「危ない、上‼」
蠍の攻撃に気付いた二人は避けようとした。
5
――乙音は突き刺さったままのハルバードギターをそのままにして、攻撃が来る前に避けた。
――音弥は尾の付け根を攻撃していたため、避けるいうことはほぼ不可能である。
『このままじゃ、音弥くんがやられちゃう。どうしよう……』
雨楽羅は手を見つめ……
『わたしはこのシンバルスクードを持っている。これなら、音弥くんをまもれるかもしれない。――わたしがやらなくちゃ。〈わたしが……、ララが音弥くんを守らなくちゃ! このまま立ち止まってちゃいけない。動き出さなきゃ‼』
雨楽羅は音弥のところを目指し、全力で走った。
『音弥くん、助けに行くよ』
蠍は尾から砂を噴射した。噴射した砂は、先ほどの強風と砂嵐を起こし、体内に取り込んだもの。それほどすごいエネルギーで取り込んだということは、さぞかし強い攻撃なのだろう。
「音弥くん、しゃがんで」
雨楽羅の指示に従い、しゃがみ込んだ。
――雨楽羅は双盾を上から降ってくる砂に向けた。
シンバルスクードは砂が二人を覆えるくらい巨大化し、二人を守る。
『全然重くない。大きくなったのに、変わってない』
ザッザッザッザザザザッザ……
シンバルが砂に擦られて、音が鳴る。
「ララこの音も好きかも」
「俺も好きだ」
砂の雨の音を二人は雨が止むまで楽しんだ。
★
『助かった。雨楽羅ちゃんが教えてくれなかったら、やられてた。ハルバードギター刺さったままだし、抜きに行けそうだったら、抜きに行こう』
少し離れた私は、音弥が無事なのか気になり、巨大蠍の方へ向かった。
私が蠍のところに着いた時には、もうすべてが終わっていた。
「二人とも、倒したの?」
「うーん。倒したっていうか……、何というか……」
「私が逃げて、戻ってくるまでにいったい何があったの?」
「それは……
◆ ◇
シンバルスクードは元の大きさに戻った。
「――っしゃあ、砂が止んだ。反撃だ!」
「うん!」
しゃがんでいた音弥が立つと……。
もうそこには、巨大蠍の姿はなく。巨大蠍の代わりにいたのは大型犬くらいの大きさになった、蠍だった。まあ、巨大ではないとはいえ、普通の蠍に比べれば、大きいが巨大蠍とは言えないだろう。
「ずいぶんと小さくなったな。おやっ? ハルバードギターが突き刺さってるぞ!」
「それは、乙音が刺したやつだ!」
「刺したら、今の攻撃がきそうになって、ハルバードギターをそのままにして、逃げたんだよ。だから、刺さったままなんだ」
「なるほどな。抜かないと攻撃できないから、抜くか」
音弥は地面にマイクソードを挿し、ハルバードギターを持ち、抜いた。
すると、蠍が小さくなったせいか、かなりのダメージだったようで、蠍は瀕死状態になった。その瀕死状態だということを分かった雨楽羅は倒せると思い、シンバルスクードをマシーテクトにしまって。地面に刺さっていたマイクソードを引き抜き――わあああぁぁぁぁぁ――と叫び、激しく燃える閃光がとどめを刺した。
◆ ★ ◇
ってことなんだ。ハルバードギター返すよ」
「なんか、凄い以外何とも言えないわ」
「そうだよね。ララも話だけ聞いてたら、びっくりすると思うよ」
「まあ、よかった。みんな無事で。さあ、帰りましょ。……どうやって帰ればいいんだろ?」
「ララについて来て、行くよ。次のテソロストを探しに」
「ねえ、雨楽羅ちゃん。次のテソロストを探しにって、ニアーズに帰らないの?」
「うん。ララ決めたの。音弥くんと乙音と一緒にテソロスト探しの旅についていくって」
「じゃあ、よろしく。雨楽羅」
「こちらこそ、これからもよろしく。音弥くん」
6
「ごめん。ララについて来てって言ったけど、どこに向かうのか。よくわかってなかった。」
「そんなに、落ち込むなよ。とりあえず、デザートスクードからは出られたんだし」
音弥は次のテソロストがどこにあるのか、マイクソードを使って調べ、どこにあるのか確認をした。
「――っと、次に向かうのは〈ハイドロフォールズ〉ここから南の方だな。よし、行くぞ!」
三人はハイドロフォールズで新たなテソロストを手に入れるため、歩み始めた。
レフォルマトーン シンバルスクード編を読んでくださった皆さんありがとうございます。
前回の投稿から、かなりの時間がたってしまいました。本当はもう少し早く投稿したかったです。(ごめんなさい)
次話投稿を楽しみにしていた方がもし、いらっしゃるのであれば、すみませんでした。
この作品が好きだといってくださるとうれしいです。
この続編についても、執筆を進めていきますが、またかなりの時間が空くかもしれません。すみませんがご容赦ください。
この度は読んでくださりありがとうございました。