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ハルバードギター ―H.Gt.―

初めて書いた作品ですので、多少読みづらいところがあると思いますが。読んでいただけたけると嬉しいです。

          プロローグ


     これが祖父との最後の会話だった……


 おじいちゃんは剣のようなものを渡しながら言った。

「音弥おまえにこれをあげよう」

剣の鍔の部分はガイコツマイク、握りは半透明になっていて、ブレイド部分は西洋剣、柄頭は歪な形をしている。ソードホルダーの先端部には大きな円形のものがついている。このソードホルダーは肩から、たすき掛けするタイプだ。

「これは……?」

「伝説の楽器テソロストの1つ、マイクソード」

「楽器って何? テソロストって何?」

私はまだ幼かったので、楽器やテソロストという言葉の意味を知らなかった。

「楽器とは音楽を奏でるために用いる器具のことだよ。マイクは音楽を奏でるというより、歌を歌うために使うが……」

 楽器というものが、どのようなものか理解することができた。

「テソロストかぁ……、おじいちゃんにもよくわからないんだ」

 おじいちゃんは少し困っていた。

「でも、マイクソードは使ってたから、マイクソードについてなら少しわかるぞ」

「教えて!」

 餌が与えられる前の動物のように興味津々だった。

「マイクソードという名前からわかるように剣であり、マイクなんだ。おじいちゃんは剣として使ったことがないから、マイクとして使う方法しか知らないけど…このマイクは雑音を拾わず、防水機能がしっかりしている性能のいいマイクなんだ! まだ他にも使い方があるかもしれないけど……」

「教えてくれて、ありがとう」

 少し難しい話ではあったがなんとなく理解することはできた。

「ねぇ、おじいちゃん……音楽は禁止されてるって聞いたことあるよ。だから……楽器って使っちゃだめなんじゃないの?」

 私は町で【○○くん音楽活動して捕まったんですって。――あぁー、こわい、こわい】という世間話の一部を聞いてしまったことがあり、おじいちゃんの話をきいていて少し疑問に思っていた。

「そうだよ、王様のヘレリーゼが禁止したんだ」

 おじいちゃんはとても悲しそうに言った。

「なんで禁止したの?」

「音楽が嫌いなんだよ、ヘレリーゼは」

 俺には少し、怒ってるように見えた。

「ねえ、禁止される前はどうだったの?」

 楽しいことを思い出すように語り始めた。

「おじいちゃんが若かったときは、音楽は多くの人に愛されていたんだ。おじいちゃんも仲間と一緒にバンドを組んでたんだよ……あの頃は良かったな……」

「教えてくれてありがとう」

 少し間を置いて、改まったようにおじいちゃんは言った。

「音弥、おじいちゃんはこのマイクソードを使って……、音弥には音楽を好きになっても、ら、ぃ…………」      

        

――これが、祖父の最後の言葉だった――


          1

 数年後、音弥は音楽を開放する旅に出ることを決意した。 


 しかし、これから何をすればいいのかわからなかった。マイクソードの使い方はマイクであり剣であるということだけしか知らない。テソロストというものの正体も全く分かっていない。  だから、俺のまだ知らないマイクソードの使い方を探してみることにした。

『俺のまだ知らない使い方を探すことがこれからの旅に役立つはずだ!』

 そう心で思った。マイクソードを細かく調べてみると小さいボタンのようなものを見つけた。

「……っあ! これだ」

 思わず声に出してしまうほど驚いてしまった。『このボタン何だろう? 押したらどうなるのかな?』と思いつつ、このボタンを押したいという衝動に襲われていた。――俺は衝動を抑えられなくなり――ボタンを押した――。

「なんだ、これは……」

 突然、目の前に地図が浮かび上がった。それは、普段見ているものと何も変わらない地図。しかし、地図上には赤い点が1つ表示されていた。『この点は触れたら何が起こるかわからない、触らないようにしよう』という思いと共に、『触ったら何が起こるのだろう?』『触ってみたいな』という気持ちもあった。どうしようか心の中では迷っていたはずなのに体が勝手に動き出し、俺の……俺の手がその赤い点に触れてしまったのだ。触れたその刹那、赤い点が黒い文字の表記に変わった。そこに書かれている文字には《Halberd Hole》と書かれていた。

「ハルバードホール――これは何を示しているんだ……」

 少し考えてみると、あの赤い点が示していた場所の地名だと気づいた。

「ここからの距離がこれだけだから……ここから結構近いじゃないか!」

 あの点が示していた場所がどのような場所で何があるか、全く知らない。だが、とにかく向かってみることにした。

『これからの旅でやらなければいけないことも見つかるだろう』

 心の中でそう思った。そして、出発した。


 数日歩き続け、疲れ果てていた。少し休憩しようと、街からかなり離れた場所に建っている小さな喫茶店に立ち寄った。この喫茶店の雰囲気は西部劇の酒場のようだった。テーブル席は満席、カウンター席は壁側に一席だけ空いていて、隣にはボロいフード付きマントを着た不気味な少女が座っていて、……少し怖かったが疲れていたので仕方なくカウンター席に座り、コーヒーを注文した。

急に座ったので驚いたのか隣の少女がこっちに振り向き、そのままこちらを見つめていた。隣の少女がこちらをずっと見つめていて気まずかったので隣の少女に話しかけることにした。

「こんにちは。僕は響城ひびき 音弥おとやっていうんだ。――君、名前は?」

『会話が続かなそうな簡単な自己紹介をしてしまったな……更に気まずくなりそうだな……』

 そう内心で思ってしまい、ため息が出てしまいそうになっていた。

天羽あまは 乙音おとね

「……」

 人と面と向かって話すのがとても久しぶりだったので何を話していいかわからなくなり、頭が真っ白になってしまった。でも、会話を続けなければ再び気まずくなってしまう。とにかく思いついたことを話そうと決め、会話を再開した。 

「こんな街から離れた喫茶店にひとりで来てるの?」

 俺が「の?」と聞いたのと、ほぼ同時に乙音は答えた。

「ひとりよ。――いろいろなことから逃げてきたの」

 乙音が言った――いろいろなこと――について少し気になったが、今は触れないであげよう。

「逃げてきた…ってことはこれから行くところがないんじゃない?」

 少し恥ずかしそうに小声で答えた。

「――ない」

『行くところがない!これは旅の仲間を増やすチャンスなんじゃないか?――一緒に旅をしてもらえるように説得しよう』

「ねぇ、乙音って呼んでいい?」

「……」

「乙音、行くところが無いなら、俺と一緒に旅をしないか?」

『急に「一緒に旅をしないか?」って言われたらびっくりするし、何言ってるんだこいつって思うよな――。今更だけど旅の目的を全く伝えてないんだよな――』

『なんか、急に話しかけてきた変な人だけど、悪い人じゃなさそうだし……』

「いいよ。どうせ行くとこないから」

『えっ、いいの――。それより、ただのナンパだとか思わないの――』

 注文したコーヒーが運ばれてきた。落ち着くためにコーヒーを少し飲んでから、周りの人に聞こえないように小声で旅の目的を伝えた。

「今更だけど、俺の旅の目的を教えるよ。あまり大きな声で話せることじゃないんだけど――実は禁止されてる音楽を開放しようとしてるんだ。だから、国を敵に回すことになるけど、いい?」

『旅の目的言ったら【えっ、それって国家反逆じゃない。】と思わず大声で叫ぶ。――みたいな反応されるんだろうな――』

「いいよ。どうせ逃げてきたんだから」

「えっ――」

 乙音が予想外の反応してきたので頭が真っ白になってしまい、落ち着くためにコーヒーを飲んだ。

「じゃあ、よろしく乙音」

 これから共に旅をする仲間として握手を交わした。その後、咳払いをしてから話を再開した。

「今、向かってる場所はハルバードホールという所なんだ。今は地図を見れないけど、おそらくこの店から五〇〇mほど進めばたどり着くはずだから――じゃあ行こうか」

 二人は残っていたコーヒーを飲み干し、店を後にする。

『さあ、ここから二人の旅の始まりだ!』

           2

 一〇〇m進んだ頃に乙音が質問してきた。

「こんな人の少ない所に何の用があるの?」

『行くところがないから、ついてきたけど……こんなに人の少ない所……少し怖いわ』

 音弥はさりげなくマイクソードを出し、ボタンを押して地図を見せながら言った。

「この赤い点が今向かってるハルバードホールだよ。何があるかわからないけど――とにかく向かってるんだ!」

 乙音は俺の行動を見て、驚きのあまり言葉が出てこない様子だったが、俺は何に対して驚いているのかわからなかった。

「そ、それは――テソロストおおぉ――な、なんで……きみが、そ、そんなものを……」

「――何に驚いてるんだ乙音? 別に驚くことじゃないだろ……」

「何言ってんの、その――テソロストの価値――わかってないんじゃないの――!」

 俺は乙音が驚いていて興奮しているのか、怒っていて興奮しているのか、わからなかった。そして、乙音が興奮しながら言った「テソロストの価値」という言葉がなぜか引っかかっていた。 

『――テソロストの価値――乙音はテソロストのことをどう思ってるか知らないけど――俺にとってこのマイクソードは祖父からの遺品! それ以上のなにものでもない――』

 これが、俺にとっての価値だ。

「乙音、テソロスト――って珍しいものなの?」

「何言ってんのテソロストが――どれだけ珍しいか知らないの――? 持ってるのに――?」

「知らないです――」

 苦笑いしながら乙音に応えた。すると、乙音は呆れたように語りだした。

「テソロストってのは伝説の楽器で、現在見つかっているものは片手で数えられるほどしかないといわれているわ。だから、テソロストってのはとっても貴重なの。わかる――?」

「わかった――。わかったから――。落ち着いて――。……乙音なんでテソロストについて知ってるの?」

 素朴な疑問だ。今更するような質問ではない。それはわかっている。だが、テソロストについて乙音が詳しく知っているというのなら……詳しく聞いてみたいと思う。

『テソロストについて詳しく知ることができれば……祖父が俺に伝えようとしたことが少しだけわかるかもしれない――』

 そんな希望を持ちながら、乙音の反応を伺った。

「……知ってる。少しだけね。知ってるといっても古い書籍を読んで得た知識程度だけど……」

「例えば、そのマイクソードだったら《叫びながら切ると普通に切るよりも切れ味が格段と上がる》《そのソードホルダーはマシーテクトというマイクソード専用のマイクソードを守るための機械で、先端部の円形を九十度動かすとマイクスタンドになる》……みたいな知識だけだよ。まあ、それを何年間も持ってたならそんなこと既に気づいてることだとは思うけど」

『し、知らなかった――。でも、知らなかったなんて言えない……』

「しっ、知ってるよ……そんなこと」

と乙音が言っていたこと試しながら応えた。乙音は音弥のぎこちない態度を見て、『知らなかった』ということを察して会話を続けた。

「今の時点で見つかってるテソロストは……ベイルギター,弦走太鼓,そして、そのマイクソ

ード。テソロストっていうのはこれだけしか見つかってないからとっても貴重なの――、覚えておいて」

「そういえば、俺がテソロストを持っている理由が知りたかったんだよね?」

「そうだった。改めて聞くけど、なんでマイクソードを持っているの?」

「それは……祖父の遺品……」

 

 数分間、二人は何も喋らないまま歩き続けた。そして、目的地ハルバードホールと思われる場所に到着し、それを確認する。音弥はマイクソードを取り出し、地図を表示する。その様子を見ている乙音が地図上のハルバードホールを指さし数分間の沈黙を破った。

「音弥これ見て! さっき地図を見たときあった赤い点が……緑に……!」

「本当だ緑になってる……これは到着したってことかな――?」

「たぶん、そうだと思う」

 かなり疲れていて辺りを見渡そうとはしなかったが到着したことを確認するため二人はあたりを見渡した。いままで歩いてきた道と同じ黄土色の石や砂、奥が深いとは思えない大きな洞窟、不意に風が吹き、砂が舞い上がる。

「この洞窟が――ハルバードホール――なのかな?」

「音弥、入るの?」

『ここまで来たら入るしかないよな……』

「よし、入るか!」

二人は何が起こるかわからないというリスクを背負い洞窟に突入した。

          3

 洞窟に入ると天井まで届くほど長い柱岩がたくさんあり、俺と乙音の足音が洞窟中に響く。

『マイクソードの地図がここを示したということはテソロストに関係ある場所なのだろう。もし、ここにまだ発見されていないテソロストが眠っているとしたら……私もテソロストを持つことができるかも……』

 歩きながら乙音はそんなことを考えていた。音弥はさらに奥に続くと思われる洞窟を見つけ、

「乙音これ…階段じゃない……地下に続いてるみたいだ! 行こうぜ!」

『ここにテソロストがあるならここから先は……』

音弥はそんなことを考えていた。

 階段を下りる音だけが洞窟中に響き渡る。

「こんな洞窟に生物が住んでないなんて……」

『やはり不自然だ。こんな暗くて深い洞窟、少しくらい鳴き声がないと雰囲気がでない……。俺の洞窟のイメージが一般的でないのかもしれないが洞窟というものはそういうものであってほしい――』

「そうね、何も住んでいない洞窟なんて不自然だわ」

『何もいなくてよかった――。音弥はテソロストを持ってるから身を守れるけど……私は何も持ってない。もし、何かが襲ってきたら――』

 二人は――何も住んでいない――という言葉から全く別のことを連想していた。

 階段は地下に通じていた。生物は全くいない。前の部屋に比べたら柱岩が少ない。これといった特徴が全くない…………

『前の部屋とあまり変わらないな――。……! あ、あれはテソロスト?』

「乙音あそこに……テソロストがあるんじゃないか?」

 音弥は奥に【岩の台】のようなものがあるのを発見し、その岩の台の方向に向けて指さした。

『よく見えない……私、視力落ちたのかな――。あっ、全然違うところ見てた…………見えた、見えた。――テソロストってあんなところにあるものなのかな?』

「どんなところにテソロストがあるのか知らないわ。でも……あそこにあるとしたら……何か仕掛けがあってもおかしくないんじゃない」

「そうだな。何か仕掛けがあるかもしれないよな、気をつけて進もうぜ!」

『乙音に言われるまで罠が仕掛けられてる可能性なんて……考えたことなかったな――』

 そんなことを考えながら、二人は一歩進んだ。

 

ゴゴゴ――――――――――――


 天井から大きな岩が階段の前に降ってきて、もう地上に出ることができなくなってしまった!

「おい、うそだろ――出れないじゃん」

『――気をつけて進もうぜ!――なんて言っときながら……出られなくなるなんて』

 乙音はため息をした。そして、何かを確信したかのように話し始めた。

「今落ちてきた岩、あれは偶然じゃないと思う。だから、たぶんここにテソロストがあるはずだ! もっと慎重に……」

 そう言いながら乙音は一歩進んだ――。

 

―――――――――ドーン!


 柱岩が倒れて、大きな音が洞窟中に響いた。

「乙音、何してるんだよ」

 音弥は笑いながらそう言ったが

『一歩、歩いただけで柱岩が倒れてくるなんて……ここやばいんじゃないか』

「もし、歩くたびに何かが作動するとしたら、慎重に進んでも……」

「なら、いっそ岩の台のところまで走るか!」

「なにそれ――歩くと作動するから走ろうなんておかしいんじゃない。でも、何か対策はしないと…………何も思いつかないから、音弥の言ったとおり走ることに賛成」

「走る準備はできてるか、乙音?」

 乙音は小さく頷く、それと同時に音弥は大きな深呼吸をして

「三、二、一、ってカウントするから【一】の合図で、一気に走るぞ!」

「三」

――乙音はたくさんの仕掛けが作動するかもしれない――という覚悟をした。

 「二」

――二人は気合を入れた。

「一」

 二人は瞬間的に走り出した。音弥と乙音は――仕掛けが起動する――ということを考えることができないくらい必死に走った。


―――――――――ドン!  ゴゴゴ――――――――――――


 岩が落ちてきたり、柱岩が倒れたりしているが二人は気にすることなく走った。

『疲れた、また、テソロストが見れるかもしれないなんて……ラッキーだな』

「はぁー はぁー そんなに作動しなかったねー」

「心配して損したわ」

「岩の台、見ろよあれ……」

 二人の表情は喜びに満ち溢れていた。

「あれはテソロスト!」

 揃えるつもりは全くなかったが揃ってしまった。テソロストだと思われるものは【岩の台】の上にあるカプセルみたいなものに守られている。

「えっと……この中に入っているテソロスト? はギターかな……?」

「こんなの取られないようにするための飾りだって」

 音弥は微笑みながら、乙音に向かって言った。

「飾り――そんな訳ないでしょ――こんな大きなものが!」

「飾りかもしれないぜ! ――かんたん、かんたん。俺、これ開けてみようかな……」

 音弥はそう言ってカプセルみたいなものを開けようとした。だが、カプセルのようなものは開かなかった。

「――開かねぇー。――乙音ちょっと、手伝って――」

 乙音は音弥のとなりへ行き、一緒にカプセルみたいなものを開けようとした。

「――うわっ」

「急にどうした? 乙音」

 乙音はカプセルのようなものから出た《電撃に似た光線》に襲われた。音弥には《その光線》が見えないようだった。

「何、今の? これに近づくのを拒まれたんだけど……」

 乙音はぼそっと小声でつぶやいた

『なんで、音弥は弾かれなかったのに……私は……弾かれたの――』

「おっ。開いたぞー、乙音」

『なんで、音弥はあれを開けれるの? あいつがテソロストを持ってるから……』

「乙音、これってテソロストなのか?」

 音弥が持っているギターは、ヘッドが尖っていて、先端部には尖った突起物(ヘッドとは違う)と、小さな斧みたいなものが付いている。その斧みたいなものには全てのペグが付いている。そして、ネックが丸みを帯びている。ギターに見えるが特殊な槍にも見える。現在見つかっているテソロストというのはどれも楽器×武器というものばかりであった。だから……

『これは……テソロストだろう。見た感じ……ギターで槍かな? でも、槍にしては柄が短すぎる気がするし、槍として使いにくいんじゃないかな……』

「たぶん、テソロスト……それって槍だよね」

「槍だと思うよ。乙音、持ってみるか?」

『やったー。は、はじめてテソロストが持てる!』

 音弥にギターを渡された。乙音は表情には出さないが内心とても喜んでいた。

「うわぁっー」

「乙音、どうしたんだ?また」

「どうしたんだ?じゃないよ。また、弾かれたんだよあれに」

 カプセルみたいなものを指しながら言った。……乙音は何かを考えていた。

「あっ、あのカプセル……テソロストを守る機械……あれはマシーテクト!」

「マシーテクトってこのマイクソードのソードホルダーみたいなやつのことだよね」

「そうだよ。……マシーテクトって光線だしてくるんだ――」

「じゃあ、これもソードホルダーみたいになるんじゃないか。どうやったらなるのかな?」

……二人はマシーテクトを観察し始めた。

「わかんねぇー。もういいや!それよりギターってどうやって弾くの? 乙音知ってる?」

「ギターの弾き方……最初は適当に弾いてみたら」

「適当に……やってみるか」


 ギュウィ――――――――――――ン! グウォ―――――――ン!


「――結構、様になってる。しっかり弾き方覚えたら、人前で《演奏》できるよ!」

『「人前で《演奏》できるよ!」なんて言っちゃったけど、演奏なんてこのご時世、無理か……』

と思う気持ちとは裏腹に……

『ギターの音、初めて聞いたけど……めっちゃかっこいい! ――今ならマシーテクトに弾かれないかも……』

と思ってしまった。

「もう一回、ギター貸して。今なら持てる気がする――」

「――持ってみろよ! 今度は弾かれるなよ!」

乙音は今度こそ弾かれないように……と思いながらギターを持った。マシーテクトから光線は出てこなかったがギターから青白い閃光が光った。

「うっ」

『――この閃光はギターが私を……認めてくれたということなのか! ――初めてテソロストを持てた! ――なんで私を認めてくれたんだろう? それよりマシーテクトを持ち運べる形にしないと……』

「乙音、持ててよかったな!」

「それより、もうちょっと探そう」

 二人はまた、マシーテクトを観察し始めた。すると、音也が文字を見つけた。

「ハルバードギターこれが……このテソロストの名前か……」

 更に、ハルバードギターと書かれた文字の下に、ボタンのようなものを見つけた。

「これじゃね! 押してみるわ」

 マシーテクトがカプセルのみたいな形からギターケースに変化した。そのギターケースのボディがスピーカーになっていて、ヘッドがとがっている。

『こんなにコンパクトになるなら、俺のマシーテクトも形、変えれるんじゃ……』

――そんなことを考えている最中、奥の方から変な音が……。

「乙音変な音してないか? 奥の方から」

『初めて耳にする音だな――これは生物の歩く音か――? いや、歩く音にしては低音すぎるような……じゃあ何の音だろ?』

「だんだん音大きくなってない?」 

『気配を感じる。この洞窟に生物の気配はなかったはず……もしかして、音也がボタンを押したから出現したんじゃ……』

「……こっちに向かって進んでるよね……」

 音弥に問いかけるように言った。

「乙音も気づいてたか――。もし、襲ってきたら戦うぞ! 逃げ回る体力残ってないだろ。」

『体力くらい残ってるわよ……。それより、音弥は忘れたのかな、岩が降ってきたから出れないってこと……』

「……でけぇー さっきまでこんなのいる気配なかったのに……」

「なんか怒ってない? こいつ」

「これ絶対攻撃してく……」

 身長はとてつもなく高い。頭が一、体が二、脚が三という比率が特徴の岩のような生物が……【岩の台】に向かって、ヌメヌメした体液(ナメクジの粘液みたいな液体)が覆っている腕を勢いよく振り下ろし攻撃してきた――。

『触れたら洗っても、当分取れないだろうな――。……ハルバードギターで防いでも……ヌメヌメが付くだけだ…… 絶対によけなきゃ!』

――低音が響き渡る。――地面に触れた腕がらぬるっとした嫌な音が響き渡る。――地面に付着した体液が何事もなかったかのように消えていく。――おそらくここの地面は乾燥しているのだろう……。

「なんだあいつ? 厄介だな、ヌメヌメした腕を振り回すなんて……。切り落としてみるかあの腕。地面に落ちたらすぐ消えてなくなるだろ」

 音弥はソードホルダーを肩から取り外し、ソードホルダー先端の円形を足で九十度回転させ、地面に置き、マイクソードをソードホルダーから抜く。そして、構える!

「乙音、少し下がってろ!」

『俺はじいちゃんも使ったことがない、剣を初めて使うんだ! 俺の剣技を見守っていてくれ、じいちゃん――』

 大きく深呼吸をして、地面にヒビが入るくらい大きな声で叫んだ!

          4

「う……お……おおおオオオオ――ッ!」

――叫びながらヌメヌメした腕に突っ込んでいく。――マイクが白く発光する。――しだいに発光が収まっていく。――それに伴ってブレイド部分が鮮やかなブルーに包まれる。これが、乙音が言っていた《叫びながら切ると普通に切るよりも切れ味が格段と上がる》というやつなのだろう。

『そういえば、光のことについて本に書いてあった……確か、白い光が……全ての光の発動源。青い光……ビブラートだった気が……つまり、音弥の叫びは分かりにくいけど……ビブラートがかかってたんだ!』

――鮮やかなブルーの線によって右腕が裂けた。

――地面に落ちる腕の音だけが聞こえる。

――同時に、線を描いた鮮やかなブルーの光が残像を残しながら消えていく。

 切り落とされた腕が何事もなかったかのように儚く消えていく。

『これであとは左腕だけ……次の一撃で切り落とすぞ!』

と上を見上げると……右腕から大量の体液が出ている。その体液は徐々に固まり始めた。体液を固めることによって腕の修復をしているのだろう。


 元の形になるまで修復を続けた――。体液の量は通常に戻り固まらなくなった――。


『自己修復とか……どう対処すれば……』

『やばい。音弥が再起不能に……。私がどうにかしなきゃ……。でも、私に何ができる? ハルバードギターの使い方もまともにわかっていない私に……なにが……』

【私にも何かできる! 私にも何かできる!】

と自己暗示をし、ハルバードギターを見つめた。

『私にも何か……っ、本で見たギターと違う――ペグに巻きつけてある『糸』と、ネックに張られた『弦』が『繋がっていない』。こんなおかしな点すぐ気づくはずなのに、気づかないなんて……私はよっぽど興奮していたんだ――。『繋がっていない』これこそ飾りじゃない……。でも、楽器×武器を考えた人たちだからなー。飾りを作るなんて小細工しないだろう――。つまり、ペグが付いてる斧みたいなものに仕掛けがある!』

 軽く斧みたいなものに触れてみた……すると、少し回転した。この回転を仕掛けだと思った乙音はすかさず斧みたいなものを回せる限り回した。夢中になって回していたので、気づかなかったがネックの長さが――少し長くなっていた。

『まだ、短い気はするが……音弥を助けなければ』

 乙音は怖かったが音弥を助けるためだと勇気を振り絞って、突進した。 

『私が音弥を助けるんだ! 私が音弥を助けるんだ!』と心の中で叫びながら、突進した。

「音弥! ひるんじゃダメ! 前見て!」

 修復が完了した右腕が音弥に襲い掛かる。

『だめだ……防ぐことができない。――俺がボーっとしてたから、いけないんだ。――自業自得だな……』

 もう、死ぬんだと諦め目をつぶっていると、なんともいえない不快な音が音弥の耳に……。

「死を覚悟する余裕があるなら生きるために何ができるか考えろ!」

『嘘だろ……乙音の口調が……。そんなことより助けに来てくれるなんて思わなかったぜ。ハルバードギターも長くなってるし……。一体この数秒間で何があったんだ?』

「乙音ありがとっ! 助けてくれて」

「礼なんかいいよ。目の前で人が死ね姿なんて……」

 少女の声はだんだん小さくなっていった。

『口調が元に戻った!』

「こめん。驚いちゃって、攻撃見えてなかった」

「また攻撃してくるよ。次はボーっとしないでね」

 音弥は大きく深呼吸をし、体制を整えた。


 ド――――――――ン!


 柱岩が音弥たちと岩のような生物との間に落ちてきた。音弥たちは仕掛けがあったことをすっかり忘れていたため、初めて仕掛けが作動したときより驚いていた。

「びっくりした。そういえばこんな仕掛けあったなー」

「そんな仕掛けあったなー、そんなのんきなこと言ってていいの。これって形勢逆転のチャンスだ! とか思わないの」

『これが形勢逆転のチャンス? そんなわけ無いだろ。こんなでかいのが目の前にあったら突撃するとき邪魔、普通そう思うだろ』

「チャンスだ!」と言われて、「そんなわけ無いだろ」なんて音弥には言えなかった。

「……チャンスか。そうだな、チャンスだよな。――腕は再生するから、硬そうな岩の部分を攻撃するか」

 ――そんなことを言ってから、走り出した。当然、直進するなんていう馬鹿なことはしなかった。柱岩はとてつもなく長い。それゆえに走る距離は尋常じゃない。

『疲れるぜ、全く。こんなに走ってまで、攻撃するんだから。今度こそ……』

 そんなことを音弥が考えていたとき、乙音は助走を付け柱岩に向かって突進しようとしていた。少女が身につけているマントが風になびく。乙音は音弥と違って柱岩に登るということを諦めなかった。乙音は自然の力に逆らい柱岩に登ることに成功する。音弥が諦めてしまったことを乙音は成し遂げた。その勢いで突進をした。槍の矛先が胴体に突き刺さる……はずだった。  矛先がはじかれた。硬い皮膚(硬そうな岩)にはじかれた。

『嘘でしょ! 皮膚硬すぎじゃ……。腕もダメ。胴体もダメ。どうすれば倒せるの……。まあ、そんなこと考えても意味ないから『一点集中攻撃』するか』

 乙音が考えている『一点集中攻撃』とは、とにかく一か所を集中攻撃して、倒すという単純な考えのことだ。『塵も積もれば山となる』とはまさにこのことだろう。

勢いで突き刺した場所を『一点集中攻撃』のターゲットとし、攻撃を始めた。


      ◇ ◇ ◇


 そのころ、音弥は……

『疲れた……。……あれは乙音か? 何してるんだろう?』

 音弥は瞬きをした。彼は自分の目がおかしくなったのかな? と疑いながら瞬きをした。

『やっぱり、あれは乙音だ。柱岩とは逆方向に走っている……まさか、助走をつけてあれに登ろうとしてるのか! 普通に考えたらわかるだろ――あれに登るのは、不可能だと――。』

 乙音は柱岩に登った。音弥が無理だと思い諦めたことを乙音は成し遂げた。

『嘘だろ! あれに登れるとかどんな運動神経してるんだ。マントしてるから顔も体つきも知らないけどこれだけは言える――乙音はすごい――』

 一緒に来てもらってよかったのだろうか? と思ってしまうほど彼女の動きはすごかった。 

          5

 攻撃が作業になっていく。繰り返し一か所を攻撃するという作業に……。いくら攻撃しても攻撃してこない。それどころか反応もない。

『全く効いていない! 『一点集中攻撃』が……』

 ふと、乙音は考えた「マイクソードは叫びながら切ると切れ味がよくなる。これをハルバードギターにも応用できないか」と。

『マイクだから音に反応する。ギターだと…………』

 あっているかわからないが一応答えが出た。だが、まだ試すことはできない。なぜなら、音弥がまだ来てないからだ……。

『遅いなー』

 乙音と音弥の距離、およそ一〇〇m。まだ試すことはできない。

 乙音と音弥の距離、およそ五〇m。まだ試すことはできない。

 乙音と音弥の距離、およそ一〇m。乙音が大声で説明を開始した。

「音弥、ちょっとためしたいことがあるから。あいつの相手よろしく!」

「説明になってない……」

「とにかく、少しの間、時間稼ぎお願い」

――そういって乙音は移動を開始した。 

「――はぁー、やるか」

『時間稼ぎでいいんだろ。切れ味とかどうでもいいよね』

と解釈し、叫ばずに攻撃することにした。どこに攻撃しようか迷ってると、乙音が攻撃したと思われる場所を見つけた(少し傷がついていた)。

『乙音のことだ。なにかしら考えがあるのだろう……』

 そう思い、そこを攻撃することにした。

 そのころ乙音は……音弥から少し離れた場所にいた。――ハルバードギターをいじっている。彼女は音弥のマイクソードの叫ぶと切れ味がよくなるという特性から、ハルバードギターにもなにか隠し要素があるのではと考えていた(攻撃的なことについて)。

『マイクだから……音。ギターだったら……どうすれば? 音弥が適当に弾いたときはなにも起こらなかった……だから、弾くというのは違うはずだ。また、おかしな仕掛けなのかな、斧みたいなのを回すみたいな……』

 ダメもとで斧以外の部分を回してみた(つまり先端部と尖った突起物)。――しかし、何も起こらない、それどころか回りやしない。乙音の予想がはずれた。

『これじゃない? ということは選択肢は二つだ。ひとつは――ギターを弾くこと。もうひとつは――隠し要素がない。このふたつのうちのどちらかだろう……』

 可能性にかけて、ギターを弾くことにした。

 

 ピロ――――――


一弦が青く、二弦が赤く、三弦が緑に光った。 


 ――――――ン!

 

四弦が黄色く、五弦が黒く、六弦が白に光った。おそらくこれが『隠し要素』だ。

 数秒後、弦以外の部分も光りだした。

先端部分が青く、斧のようなものが赤く、尖った突起物が緑に。そして、ネックが黄色に……乙音はハルバードギターに何が起こったのか知りたくなったので、さきほど倒れてきた柱岩にぶつけてみることにした。

『仕掛けが作動するから……走らなきゃ』

 勢いに任せて、柱岩にぶつけた――。 

 ――矛先の周りには何も存在しなかった。柱岩に矛先を当てたはずなのに……。

 ――おそらく、砕け散ったのだろう。

『可能性にかけてよかった。最初は見当はずれだと思ったけど……。これなら倒せるかも……』

 

「乙音危ない! 攻撃…………」

 後ろを振り向くとヌメヌメしたものが……。

『この距離なら防げる!』

 そう確信し、ネックを両手で持ちボディを上に――。乙音は防御態勢に入った。

 ヌメヌメしたものが少しずつ近づいてくる……。

『このまま、腕を振り下ろすなら、ボディ部分に当たる。ヌメヌメしたのが付くのは嫌だけど、しょうがない。身を守るためだ――』

 ――ボディ部分にヌメヌメしたものが当たる。

「あぁー」

 嫌だと思っていたことが現実に起こってしまった。


 ――――――ベチョッ!


 予想外のことが起こった! ボディについたヌメヌメした液体が、乙音のマントのフードにたれてきた……。

「うへっ!」

 フードにヌメヌメしたものが付き、とても不快になった少女は……

 

      ◇ ◇ ◇


 ――キーンッ! ――――キーンッ! ――――――キーンッ!

 

『同じ場所、繰り返し攻撃してるのに、何の反応もないなんて、すごいなこいつ』

 乙音が攻撃していたときと同じく無反応である。乙音がこの光景を見たら、――『一点集中攻撃』は失敗だ――と嘆くだろう。


 ピロ――――――――――――ン!


というギターの音が遠くの方から鳴り響く。

『乙音、何か始めたな』

 心の中でニヤリと笑った。何をしているのかとても気になるが、任されていることに集中しようと

『気にせず時間稼ぎしなきゃ……』

 そう自分に言い聞かせた。


 ――キーンッ! ――――キーンッ! ――――――キーンッ!


 時間稼ぎとして、乙音の『一点集中攻撃』のような作戦としていた。こいつが少し動いたように思えたが気のせいだろうと時間稼ぎを続ける……

 今度は気のせいでなく本格的に動き出した。これは攻撃態勢だろう。

 俺に向かって攻撃してくるのかなとも思ったが、どうやら違うようだ。

「乙音危ない! 攻撃態勢だぞ」

と大声で叫んだ! 乙音は振り向き、防御態勢になった。

『俺の叫びが聞こえたんだ! よかったー。これで借りは返せただろ。……でも、あとで謝らなきゃ、「時間稼ぎできなくて、ごめん」って』

 ふと、マイクソードを見ると、神々しい白い光に包まれていた。

『これこそチャンスだろ!』

前回、マイクソードが発色したときは白い光から青い光に変化した。このことから音弥は「白い光よりも他の色の光の方が、切れ味がよくなる」と思い込んでいる。 

――どうにか色を変えようと叫ぶ。大声で叫ぶ!

「うぉおおおおおお――――――――――ッ‼」

 ホール中に低音ボイスが響き渡る。――神々しい光は色を変え……浅葱色になった。

――走り出す。――これまでの疲れを吹き飛ばす勢いで走る!

          6

 ……とても不快になった少女は、マントを投げ捨てた! 音弥と出会ってから一度もはずさなかったマントを投げ捨てた! 投げ捨てたマントは宙を舞い、地面に落ちた。

 マントを投げ捨てた少女は、サラサラストレートの黒髪、枝垂桜のように程よく白い肌、マントの下に着ていた服、――それらによって少女の印象が大きく変わった。

『マントをはずさなければいけない羽目になった、原因であるあいつにとどめを!』

 マントを汚し、はずさなければいけなくなったため、乙音はとても怒っている。マントを特別大切にしていたわけではないが……。

 乙音の視界には、浅葱色に光るマイクソードを持った、音弥の姿が……。

『今度は、二人で『一点集中攻撃』だ!』


      ◇ ◇ ◇


 音弥の視界には、マントを投げ捨てた、乙音の姿が……。

『初めて顔が見れる、ワクワクとドキドキが止まらない! …………めっちゃかわいい! マントなんてはずせばいいのに』

――音弥は走り続ける、先ほどまで攻撃していた場所を目指して……。


      ◇ ◇ ◇

 

「音弥、ここを攻撃して!」

 乙音は音弥が攻撃しようとしていた場所を指差し、言った。

『元々、そこを攻撃しようと思ってた!』

 浅葱色に発色したマイクソードで切りつける! これまでとは全く違う反応を見せた。

 これまでとは全く違う反応とは……『悲鳴に似た唸りを上げた』ということだ。

 『唸りを上げた』ということは痛みを感じたということだろう。

 

 ピロ――――――――――――ン!


 乙音が追い討ちをかけるようにギターをかき鳴らす。

――さきほどと同じように六色に発色する弦。

――続いて、先端の各部分が発色する。

――乙音はハルバードギターの特殊な先端部を生かし攻撃する。

 まず、赤く光る斧のような部分で切りつける。続いて、青く光る先端部の槍で突く。


「うぉおおおおおお――――――――――ッ‼‼」


 乙音と入れ替わるように音弥が叫ぶ! マイクソードが浅葱色に光ったときとは比べ物にはならない声で叫ぶ!

『今度は、灰色! あの黒と白の比率……、すごい……すごすぎるよ……音弥。黒は声が尋常じゃないくらい大きかったときに光る色……。その黒が、全ての光の発動源である白と混ざって……、いきなり灰色に光るなんて……』

 何度も攻撃を受け、もろくなっていた場所を切り付ける。この場合、切り付けるというよりは、切り裂くといった方がいいのかもしれないが……。

――岩のようなモンスターは倒れる。勢いよく倒れる、仕掛けによって倒れてきた柱岩のように――。

『やっと、倒せたか……』

「まだ、倒せてないみたい……」

「嘘だろ――っ」

「当たり前でしょ。だって、今まで攻撃してたの『脚』だもん。あいつの急所が『脚』でない限り倒せるわけないよ」

『うっ、嘘だ――――っ! あれだけ一生懸命攻撃してたのに、まだ……脚しか攻撃できてなかったなんて……』

 音弥の感情があらぶり始めた。一生懸命攻撃してたのが脚で、まだ倒せていないということ知り、とても怒っている。

『音弥の様子がおかしいぞ?』

「――急所、――心臓貫けば、――倒れるだろっ!」

『あいつの心臓がどこにあるかわかるのかな……?』

――横たわっている体の上を走り始めた。

「ハァアアアア――――――――――――――ァッッ!」

――とてつもなく大きな声で叫びながら走った。

――怒りに満ちた叫びだ!

――マイクソードが漆黒の光に包まれる。

――肺と肺の間(人間)であろう場所までたどり着いた。

『ここを貫けば、倒せるんだよな――』

【――少年の怒りという感情により、体が漆黒の剣で貫かれた。

 ――もう、体を動かすこと、痛みを感じること、……………………は無いんだね……】

 ――漆黒の剣からそんな声が、聞こえた気がした。

          7

【ごめん、怒りに身を任せてしまって……。――殺してしまって、ごめん。でも、こっちも生きるためなんだ、理解してくれとは言わないから………………。お前の死を無駄にしないように精一杯、強く生きるよ】

――漆黒の剣を通じて少年が言った。




「長い時間、刺さったままだったけど、抜けなかったの?」

「いや、そうじゃないんだ」

 少年は少しすがすがしそうに言った。

『じいちゃん。俺、少し強くなった気がするよ。これからも、見守っていてくれ』

「乙音、ここから出ようぜ! もう、邪魔するものは何もないだろ……」

 再び、生物の気配が全くしなくなった。

――音弥が歩き始めた。


 ド――――――――――――ン!


「仕掛けがあること、すっかり忘れてた! また、走らなきゃいけないのか――。もう、体力残ってないよ……」

『また、仕掛けのことを忘れてしまっていた。…………ほかにも何か、忘れてることがあったような気がする……』

「さぁ、走るか!」

少年は出口に向かって走り出した。

『前にも同じようなセリフを聞いたような……』

 少女はそんなことを思いつつ、少年の後を追いかけ走る。何か忘れてないか? という疑問が解決されないまま、一刻一刻と出口に近づいていく。もう出口がすぐそこに見える。

『一度ここを出てしまったら、戻ってくることは二度とないだろうから、忘れてるものが「物』だとしたら、取りに来ることはない。――早く思い出さなきゃ……』

――あと数百mで出口というところに差し掛かった頃。ふと、忘れていたものの存在を思い出した少女は……

「あっ、マントとマシーテクト! 取りに行ってくる」

出口とは、逆の方向に走っていった。

 少女の言葉を気にすることなく、少年は出口に向かって走いる。


 

 マントのある場所にたどり着いた。

「乾いてる……。あの体液乾くのは早っ!」

 乙音はマントが乾いていることに驚いた。

――マントを身に着け、フードをかぶる。――音弥と最初に出会ったときの姿になった。

――マントをするのが彼女にとって一番落ち着くことのようだ。

「次はマシーテクト!」



 ハルバードギターのマシーテクト『ギターケース型』のある場所にたどり着いた。

「元の姿に戻さないと入らないか。まあ、当たり前のことだよな」

 そんな独り言をつぶやきながら、斧みたいなものを回し、元の形に戻した。

――ハルバードギターをギターケースに入れた。

「ヌメヌメしたのマシーテクトの中で乾燥してくれないかな……。……乾燥機能とか、ついてないかな? ――ボタンを一つ見つけた。――

「乾燥機能ついてるのか、便利だなー」

 ボタンをポチッと押した。

『ギターケース型』のマシーテクトが『直方体の透明な石』に変化した。一つの面にはギターの絵がかいてある。

「……なんで、こうなった? ボタン押したからか」

 単純な自問自答をし、マシーテクトをポケットに入れる。

「……そういえば、マイクソードのマシーテクトも……」

 マイクソードのマシーテクトのあるところまで走る。ハルバードギターが置いてあった【岩の台】の近くに置いてあるということもあり、走っていても仕掛けが作動する。

「走っても、作動するんだ!」

 今更、関係のないことだ。



 マイクスタンド型になっているマシーテクトの先端部にある円形を九十度回転させ、ソードホルダー型に戻す。するとマシーテクトから……、

「うおおおオオオオ――――――――オォッ!」

という叫び声が聞こえてくる。音弥が叫んだのだろう。

『もう、忘れ物はないな……。よし、出口に向かうか』

 ソードホルダーを肩にかけ走り始めた。


      ◇ ◇ ◇


――出口の前に到着する。

『なんで、こんなところに……岩が? これじゃ……出れない!』

「どうしよう……」と考えることなく行動した。

「うおおおオオオオ――――――――オォッ!」

――音弥は叫ぶ! 

――そして、岩を切る!

――階段が現れる。

「あれっ? 乙音はどこ行ったんだ?」

辺りを見渡すが乙音の姿が見当たらない。

『どこかで、体力が尽きたのかな? 少し待ってたら来るだろ』

音弥は階段に座り込み、乙音を待つことにした。

音弥はうとうとしていた。乙音がなかなか来ないということと、疲れたというのがうとうとしている理由だ。

「音弥、忘れ物!」

 少年の耳に、聞き覚えのある少女の声が……

「……ねてるの?」

「お、乙音か……。今まで何してたんだよ。待ちくたびれたぜ」

「何してたか? だから、忘れ物とりに……」

「乙音忘れ物したのか」

 音弥は大声で笑った。眠気が吹き飛ぶくらい笑った。

「笑ってるけど、音弥の忘れ物もあったのよ!」

「俺の? 忘れ物?」

まだ、音弥は笑ってる。

「これ」乙音はそう言って、肩にかけていたマシーテクトを下ろした。

「俺、置いてきてたんだ」

まだ、笑ってる。

「私が忘れ物してたことが、そんなにおかしい?」

「そうじゃないけど……。それより、マントつけたんだね」

音弥の笑いは徐々におさまっていった。笑っていたということを忘れさせようと、話題を変えた。

『ハッハッハハ……。乙音が忘れ物……、フッハッハハハ…………』

内心まだ、笑っていた。

「……マントつけてないと落ち着かないんだ」

「でも、確か自分で投げ捨てたよね?」

「あ、あれは……ヌメヌメが気持ち悪かったから……」

「そっか。また、話変わるけど、ハルバードギターは?」

「ここにあるよ」

ポケットから『直方体の透明な石』を取り出した。

「どこにもないじゃないか」

「……これが、ハルバードギターとマシーテクトのセットだ」

「嘘だろ、それが……」

「今は、別に信じなくてもいいよ。……もう、行こっ!」

 乙音はそう言って階段を上り始めた。

『……? 階段の前に岩、振ってこなかったけ?』

――少年は立ち上がり、少女と競争するかのように階段を上り始めた。

「ごめん。……時間稼ぎ頼まれてたのに、役目しっかり果たせなくて」

「謝らなくていいよ、そんなこと」

「それと、俺が『一緒に来るか?』みたいなこと言ったせいで、こんなことに巻き込んで……ごめん。怖かっただろ」

「それは、自分で『付いて行く』って言ったから、自業自得。……でも、怖かった……」

『――怖かったけど、少し楽しかった。音弥と出会えてよかったと思う。でも、最初にあったときの音弥と今の音弥の性格、少し変わったような気がするけど気のせいかな……?』

階段を上りながら、こんな会話をしていた。

「そろそろ地上だな……」

『脱出できてよかった! ――ここで、いろんな体験したなー。――というか、この旅を始めて、いろんな経験したなー。たくさん歩いたし、喫茶店に行ったら、乙音と出会ったし、マイクソードがとても珍しいってこと知ったし、ハルバードホールでは、テソロストの「ハルバードギター」を見つけたし、初めてギター弾いたし、初めてマイクソードで斬ったし、とてつもなく大声で叫んだし、改めて命の儚さを知った。――本当にたくさんの経験をしたなー。でも、一番驚いたのは……、乙音の素顔だな。あんなにかわいいのに、「マントをつけてるほうが落ち着く」だなんて、本当にもったいない……。あれは、宝の持ち腐れだ!』

 地上に出た(まだ、洞窟の中)。

「光が……」

少年が空気を読まない発言をした……

「マントを着けてないと、落ち着かないっていうのは分かったけど、――フードも着けてないと、落ち着かないのか?」

『絶対、宝の持ち腐れだ! フードは外した方がいいと思う! ……言うタイミング間違えたかな……』

『せっかく、やっと外に出れる! って、余韻に浸ってたのに……。フードが必要か? そんなこと、音弥に関係ないような……』

「フードこれは着けておかないといけない。これ以上は、聞かないで……」

「そっか。分かった、もうマントについて何も聞かないことにするよ」

「ありがとっ」

 少女は安心したようだったが、少年にはなぜ安心したのかわからなかった。

 

 そして、ふたりは喫茶店のある方向へ一歩一歩進んでいく。

 

『さよなら。ハルバードホール』

 少年は別れを告げた。『もう二度とここに来ることはないだろう……』と。


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