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異世界で生きよう。  作者: 579
4.彼はこうして街で過ごす。
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side.ダルク(2)

「魔王さん、面白い情報を入手したぞ。」


 俺が執務室で仕事をしていると、そう言いながらキリカが部屋へと入ってくる。


 つい最近までディランドに居る時間が少なかったために、現在はそれを取り戻すかの如く次から次へと仕事が押し寄せていた。

 机の上に山のように存在する書類を見ていると、この魔王という地位などいっそ放り出してしまいたくなるものだ。

 もっとも、物理的な問題としても精神的な問題としても、そうすることは出来ない。


 俺が魔王と呼ばれることになったあの大戦で多くの同胞達がこの国を守るために戦い、そして死んでいった。

 俺は生き残った者として彼らの分もこの国を守らなければならないし、そのためにはこの地位が必要になる。


 一方で休み無く仕事を続けることなど不可能であるため、今はキリカの言う面白い話を聞きながら休憩を取ることにした。


「デルムでセイランスに二つ名が付いたみたいだ。」

「ほう、それはまた随分と早いな。」


 セイランスならばいずれは二つ名を得るだろうとは思っていたが、まだ別れてから1ヶ月も経っていない内とはあいつも活躍をしているようだ。


 二つ名は自分で名乗る特殊な例もないではないが、大抵の場合は他人にその実力を認められることにより自然と付けられるものだ。

 まだその街でしか知られていないようだが、デルムで付けられたとあればそのうちに広まっていくことだろう。

 

「それで、どういった二つ名を付けられたのだ?」


 正式にその関係を宣言したわけではないが、取ることなど無いと思っていた弟子が二つ名を付けられる程に活躍していることを知って興味を持たないはずもない。

 セイランスはあれで様々な力を持っているため、どのような二つ名なのか想像できずにいるとキリカは笑みを深くして告げた。


「幻人。」

「何だと?一体何故この短期間に幻人だと知れ渡っているのだ。」


 そのあまりにもストレートな二つ名に咳き込みそうになりながらキリカへと視線を向けると、彼女は続きを語った。


「いや、別に本物の幻人だと思われているわけじゃないみたいだぞ。あくまで幻人っていう二つ名が付いただけだ。」

「余計に意味が分からん。」

「ほら、あそこって冒険者たちの大きな祭があるだろ?そこで大勢の観客に見られながらディザスターエイプを素手で仕留めたらしい。」


 つまり、大型動物を伝説通り獣人であるセイランスが素手で仕留めてみせたから、それを称して幻人という二つ名がつけられたということだろうか。


「本物の幻人だと認識されずして、まるで幻人のようだと幻人という二つ名を付けられるとは・・・あいつは人を笑わせる職業でも目指しているのか?」

「だから面白い情報って言ったじゃないか。」


 確かにそう言われはしたものの、魔王という立場にいて面白い情報が何の含みもない純粋な面白い情報であることなどそうあるものではない。

 その後のキリカの情報によるとデルムの街の領主の娘を救っているため、まともな活躍もしているようだ。


「まぁ、よい。鍛えた力で大罪を犯すならばともかく、人を笑わせたいなら好きにさせればいい。」

「さすがにセイランスのやつもそういう方向性で動いているわけじゃないと思うぞ?」

「ふむ、意識せずそう出来るならばいよいよ持ってそちらに才能があるということなのだろうな。」


 俺たちが鍛えた力で繁栄を享受するならばそれも好きにすれば良いと思っていたのだが、相変わらず面白い奴ではある。


 あいつの目指す場所はさておき、二杖の光と絡んだというのは少し気になるだろうか。

 あの組織は幻人のセイランスには相性が悪い上にここ最近の動きには酷くきな臭さを感じる。


───コンコンコン


 ドアのノック音によって思考を中断されたため、そのまま入室許可を出した。


 配下との取り決めでノックを三回する場合は面倒な相手がやって来たことを意味するのだが、果たして扉を開けてやってきたのはグレイシアと、そしてヴァレリアだった。


「失礼します、ダルク様。」

「あぁ、ちょうど手を休めていたところだから構わない。それよりもお前の後ろにいるやつは一体何の用だ?」

「あら?随分な物言いね。いい加減部屋を訪ねてきたレディを歓迎するという礼儀くらい身に付けてくれないかしら?」

「馬鹿を言え。お前はただのロートルだろう。」


 見た目は若さを保とうとしているようだが、大戦期から存在する相手に女も何もあるものか。

 ましてや唯でさえも同じ魔王同士その顔を見飽きているのだから、気を使えというのが無理な話だ。


「それで何故お前がグレイシアと一緒にいるのだ。」

「彼女にグレラント王国への同行を依頼していたからよ。そうしたら、あなたと話を通してくれっていうからこうしてきたの。」


 それを聞いてグレイシアの方へと視線を向けるが、彼女は微妙な表情で笑みを浮かべている。


「ふむ、グレラント王の件か。」

「えぇ、議会としてはこれを利用したいのでしょうね。」


 他の魔王が武力をもってその地位を築いているのに対して、ヴァレリアは少々事情が異なる。


 彼女は治癒魔術師、つまり治癒能力をもってしてその地位を築いていた。

 ある意味武の対極にいるような存在だが、命を左右しうるという意味では武力も治癒能力も同じだ。

 死んでさえいなければどんな傷も病気も癒すと言わしめるその力が彼女の魔王としての権威であり、対外的な場面での失敗はそれを失墜させ抑止力を大きく低下させる。


「それで保険としてグレイシアを連れて行きたい、か。相変わらず心配性なことだ。」

「用心深いと言ってくれるかしら。がむしゃらに力を振り回せばいいあなた達と違って治療は繊細なのよ。」

「酷い言い草だな。」


 そう告げる一方で、ヴァレリアの考えていることは理解できた。


 いくら魔王などと称されようが、1人で出来ることには限界があると俺達自身がよく知っているのだ。

 だからこそ魔王は自分の見出した配下を持っているし、それはヴァレリアも同様なのだが、生憎と彼女の配下達は本当の意味で彼女のサポートをすることが出来ない。

 なぜならばヴァレリアの配下、というよりもこの国で名のある治癒魔術師達はそのほとんどが彼女の治療体系で一流になったからだ。


 無論その治療体系を広めていく彼女の行為は国にとって有意義であるのだが、反面で生まれるのは彼女の下位互換とも言える治癒魔術師ばかりになる。

 つまり、彼女の手足となれる配下はいても、彼女の足りない部分を補える配下がいない。

 そして名のある治癒魔術師達の中で唯一の例外であり、ヴァレリアの治療体系の外にいるのがグレイシアであった。


「グレイシア、いい加減この男を見限って私の元に来ないかしら?ずっといい待遇を用意するわよ。」

「ダルク様は立派な方ですので、私が見限られぬかぎりはお仕えするつもりです。」

「ならばダルク、あなた怪我なんてほとんどしないのだからグレイシアを手放しなさい。代わりに優秀な治癒魔術師を紹介するわよ。」

「ふざけるな、グレイシアは俺の配下だ。」


 俺が配下として認めた者たちは僅かに4人、一度目を付けた優秀な者たちを手放すわけがないだろう。


「だが、今回のグレイシアの同行については了承しよう。聖魔王としての権威に関わることならば異論はない。」

「一応礼を言うわね。グレイシアがいない間、治癒魔術師の代わりはこっちで手配しておくわ。優秀で可愛い子を選んであげるから安心なさい。」

「男にしろ。」


 いらぬ噂など立てられてたまるものか。


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