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異世界で生きよう。  作者: 579
4.彼はこうして街で過ごす。
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83.彼は握手する。(デルムでの日々その2)

 既にその日最後となる9の鐘が鳴り終えた時間、新しく購入した服に身を包んだ俺は巷で話題だという店を訪れていた。

 夜にも関わらず魔道具で明るく照らされた店内、糊の効いた白いテーブル、奏でられる心地良い音楽、それらが極上の空間を演出する中で視界に映るのは全てが霞んでしまう程の妖精さんである。


「楽しんで頂けてますか?ロメオさん。」

「えぇ、素晴らしいわセイランスちゃん。でも悪いわね、こんなに本格的な場所に連れて来てもらって。それに今日一日は本当に楽しかったわ。」

「気にしないでください。今回の件の功労者の一人なんですからこれくらいは当然です。」


 そう、敵の拠点の情報を提供するという大手柄を挙げたのがロメオさんだ。


 彼の情報がなければ敵は寝静まった深夜に行動を起こしていただろうし、そうなればもっと厄介な状況になっていたはずである。

 俺は食後のゆったりとした時間を利用して、空間収納から事前に用意していたプレゼントを取り出した。


「セイランスちゃん、これは?」

「髪飾りです。どうぞ受け取って下さい。」


 何を贈るかはそれなりに悩んだのだが、普段のロメオさんを見ていると毎日髪型を変えているため髪飾りに決めた。

 受け取った彼はその顔に笑みを浮かべているため、間違いではなかったようだ。


●●●●●


 ロメオさんとのデートから一夜が明けて、俺は相談に乗ってくれたラヴィさんへとお礼を告げるために薬屋を訪れていた。


 デートの相談が出来るような大人の女性として真っ先に思い浮かんだのが彼女であり、フィオンさんとの関係を考えれば妖精さんへの理解も深いと判断したのだ。

 そして実際に彼女は真剣に相談に乗ってくれた上に、プレゼント選びにまで付き合ってくれた。


「上手くいって良かったわ。私に出来ることなら喜んで協力するから、他にも何かあったら言ってね。」

「いえ、もう大丈夫ですよ。ありがとうございました。」


 ラヴィさんは今もまだ恩義を感じてくれているようなのだが、二杖の光の件と今回の件で彼女にも随分とお世話になった。

 もう十分返してもらっていると思うのだ。


「セイランスちゃん、今度は私も連れて行ってくれないかしら?」

「そうですね、ウィルフリッドさんに頼んでみたらどうでしょうか。」

「嫌よ、あんな乱暴な男!」


 机の上で作業をしているフィオンさんは、そう言って首を左右に振りながらも粉末状の薬草を風魔法で瓶へと運んでいるのだから器用である。

 彼の熟練の腕前を感じさせる光景をしばらく眺めていると、俺の中にふと一つの疑問が浮かび上がった。


「Aランクってどれくらいいるものなんですか?」

「そうねぇ、全体的に見れば本当に少ないわよ。この街はアルセムの大魔窟に近いせいで異常に多いけれど、普通は複数の街に一人いればいい方かしら。」


 どうやらウィルフリッドさんクラスが当たり前のようにいるわけではないらしい。

 フィオンさんの話によると、Dランクまでは冒険者として経験を積んでいけばいずれ辿り着くことができるが、Cランク以上は所謂才能が必要になってくるそうだ。


「結局どれだけ経験を積んで努力を重ねても、才能が無ければ限界があるのよねぇ。低ランクの内はそこまで強い魔物を相手にするわけじゃないから努力や経験で補えるけど、ランクが上がってから戦う魔物の前では意味がないもの。」


 長年冒険者として活動してAランクまで上り詰めたフィオンさんだからこそ、その言葉には重みがあった。


 Aランク冒険者は人外などと言われているそうだが、そもそも魔物とは本当の意味で人外の存在である。

 今日の冒険者ギルドは様々な依頼が舞い込むせいで曖昧になりがちだが、魔物資源の回収こそが冒険者の本来の役割であり、必然的に高ランクとなるためには人外の存在を倒せるだけの実力が必要だ。

 そしてその実力を身に着けるためには現実的な話として、才能が必要ということなのだろう。


 もっとも、これが必ずしも非情な現実を示しているかと言われると、そうでもないと思うのだ。


「つまり、高ランクを目指さないのなら経験と努力でやっていけるということですね。」

「確かにその通りよ。生活する分にはDランクもあれば十分家族を養っていけるもの。それに、実力があっても昇格しない者もいるしね。セイランスちゃんは探検者って知っているかしら。」

「確か未知の領域を発見し訪れることに生きがいを感じる人たちですよね。」


 フィオンさんのその質問に対して、以前セイルさんから聞いた話を思い出しながらそう返事をした。

 

「まぁ、ざっくり言うとそうかしら。彼らって依頼に沿って活動をしないのよ。冒険者を手段として用いているのでしょうね。危険地域はランクによって制限が設けられていることが多いから、自分にとって必要な分だけランクを手に入れた後は昇格に興味を失くすの。」


 例えばアルセムの大魔窟はCランク以上でなければ入れないため、俺はこちら側の基準だと足を踏み入れることが出来ないようだ。


 探検者たちはギルドにとって扱いにくい存在だが、危険地域に訪れる分魔物資源の回収という面では十分な結果を残しているため、あまり強くは出られないらしい。

 探検者でなくともウィルフリッドさんのような例があるため、レオンさんのように実力がある上にギルドに協力的な人物は貴重なのだろう。


「あら、噂をすれば探検者のお出ましよ。」


 その言葉に反応して後ろを見ると、そこには傷だらけの装備を着けた男性が立っていた。


●●●●●


「全く、あなたもBランクなんだからこんな店で買い物をしなくてもいいでしょうに。」

「薬代がもったいない。大魔窟に一回送ってもらうのに、空間魔術師にいくら払うと思っている。」

「阿呆みたいに行かなきゃいいのよ。本当に探検者って理解できないわ。」


 棚に並べられた薬を手に取りながら男性はフィオンさんと会話をしている。


 本来であれば魔物がいない空白地帯を抜けて大魔窟に辿り着くまでに長い日数がかかるため、空間魔術師に依頼して送ってもらうのが一般的なようだ。

 もっとも貴重な空間魔術師の力を借りるのだから、その費用は相応のものになる。


 彼が化膿止めの薬を手に取ったのを見て、俺は口を開いた。


「それはゴブリンみたいな低ランク魔物の場合有効ですけど、大魔窟にいくならやはり値段が少し張っても隣のものがいいですよ。」

「ん?費用削減のためにいつもこちらを選んでいるが駄目か?」

「今持っている薬は化膿止めに重点がおいてあって、止血作用が薄めです。低ランク魔物の場合は傷を負っても浅い傾向にあるので、そうすることで十分な効果を果たしつつも値段を抑えられているんだと思います。ただ大魔窟の場合は負う傷も純粋に大きくなりますから、その薬だと不十分です。いくら安くても薬として必要な役割を果たせないなら意味がありません。」


 彼は俺の話を聞いた後にフィオンさんへと視線を向けて、こいつは一体誰だと目で尋ねていた。


「期待の新人セイランスちゃんよ。治療に関する知識や腕前は私が保証するわ。」

「ほう、そう言えばそんな名前の獣人が卑怯な手段でDランクになったという話を耳にしたな。ふむ、噂の方が嘘か。」


 彼は俺を見つめると、すぐにそう判断を下した。


「分かって頂けますか。」

「あぁ、そもそもDランクへの昇格はそう甘くない。仮にも一人前と呼ばれるランクだからな。それに俺だって日々危険の中に身を置いているから、見れば強いか弱いかくらいは分かる。」


 何て話の分かる人物なのだろうか。


 俺は一瞬で噂を切り捨ててそう判断してくれた彼に感動すると、その感情のままに手を握って上下に振った。

 突然の握手に困惑しながらも黙ってそれを受け入れた彼は、アドバイス通りに薬を購入してくれたため更に好印象である。

 最終的に俺はこちら側に存在しない薬草を使った鎮痛薬を彼へとプレゼントすることにした。


●●●●●


「あら、こんにちはグリフィスさん。」


 5の鐘が鳴り終わった頃、冒険者ギルドに傷だらけの装備を着けた一人の男性が姿を現した。

 マリーは自分の受付へと向かってくる彼にそう挨拶をすると、いつものように尋ねる。


「今日もまた大魔窟に潜るのですか?」

「あぁ、勿論だ。浅層にいる魔物でしっかりと馴らさなければアルセムの大魔窟攻略は遠い。」


 一般的に魔物がいない空白地帯を抜けた先が浅層と呼ばれているが、魔物の量が比較的少なくすぐに撤退できることから大魔窟で狩りをする場合はそこで行うことが多い。

 迷いなく返事をしたグリフィスに苦笑しながら、彼女は口を開く。


「たまには普通の依頼も受けてみませんか?実はBランクの依頼が結構溜まっています。」

「済まないが他を当たってくれ。大魔窟に挑むにはこのランクで十分だし、狩った素材を売れば一応生活は成り立つ。依頼を受ける理由がない。」

「一応生活が成り立つという時点で既におかしいのですが・・・。」


 彼女が困ったような反応をするのも仕方がないだろう。


 本来ならばBランクにもなると収入が多く、それこそ人が羨むような贅沢な暮らしをすることも可能である。

 それにも関わらず一応成り立つ程度でしかない生活をしながら、投じなくても良い危険にその身を投じているのだ。

 一部の者達が馬鹿だ馬鹿だと言うのも納得ではあった。


「まぁ、浪漫というやつだ。人に理解を求めるつもりはない。ウォルフェンのグレノヴァ一族は知っているだろう?」

「幻人の末裔ですね。」


 獣人の国ウォルフェンは武術が発達しており、その国の王は世襲制ではなく国内で最も強い者が務める。


 そのような制度であるにも関わらず、まるで世襲のように代々王を排出するのがグレノヴァ一族だ。

 幻人との間に子を宿した探検者がこちら側へと帰還し、生まれた者が彼らの先祖とされている。

 歴史の中にはその血を色濃く受け継ぎ武術を修めずして王になった者まで存在すると聞く。


「そもそもウォルフェンの武術自体が、幻人の存在を知って肉体の可能性を感じた獣人達の手によって発展していったものだ。つまり幻人達は誰一人としてこちら側に来ることなく、獣人達に多大な影響を与えたといえる。そんなやつらに俺は興味を持たずにいられない。」


 普人の国で育った獣人達はその傾向が薄いのだが、実際にウォルフェンの獣人達は幻人を力の象徴として崇拝している。

 何せその血をもってして王を生み出し、その存在をもってして武術を生み出したのだ。


「確かにそう考えると幻人に興味を抱く気持ちも少し分かりますね。万が一幻人がこちら側に訪れたならばその血で獣人達に力を与え、場合によってはそれが原因で世界にすら影響を及ぼす可能性もあります。」

「浪漫を追い求める探検者の気持ちが少し分かってもらえたようで何よりだ。もっとも、俺は幻人達に会ってみたいだけで世界がどうのなんて話には興味がない。」

「どのみち最も活発に探検者がアルセムの大魔窟を越えていた頃ですら、幻人達を連れてくることは不可能だったのですから妄想ですね。」


 圧倒的な力を持つはずの幻人がこちら側に辿り着けなかった理由は諸説あるが、最も挙げられているのが魔物に対する経験の無さだ。


 過去の探検者達によると幻人達の生活圏は魔物のいない空白地帯とされている。

 いくら力があろうとも普通の動物にしか慣れていない彼らでは魔物に対してあまりに無防備で、そして無謀だったのではないだろうか。

 それは数を質で覆す領域にいる高ランク冒険者や魔人達であっても、魔物に対する備えや知識を十分身に着けてまだ強力な魔物により時に命を失うことからも分かる。


 彼女のその現実的な意見を聞いてグリフィスは微笑んだ。


「それは暗に、大人しく普通の依頼を受けてギルドに貢献しろと言っているのか?」

「察して頂けて何よりです。」

「ふむ、世の中には誰かが不可能を可能にしたから存在しているものがいくつもある。現時点で不可能というのはそれを諦める理由にはならないものだ。」


 彼はそう告げると空間魔術師が待機している場所へと移動を始めた。


「全く、探検者の方達は・・・。第一、会って何をするというのでしょうか。」


 彼女の呟きが聞こえていたグリフィスは内心で返事をする。


 そうだな、やりたい事は様々だがまずは握手でもしようか。

 きっと力加減を間違えて酷い痛みを感じるはずだから、鎮痛薬を十分に用意しておこう。

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