8.彼は振り返る。(2)
筋骨隆々の集落長を訪ねてから1年が経ち、俺は2歳になった。
今の身長はだいたい前世の小学1年生くらいだろうか。
今では家が視界に収められる範囲でとはいえ外の草原で自由に過ごすことができている。
草原からは広大な森も見えるのだが、そこにいくのはまだ年齢的に早いらしい。
また、この集落には時計やそれに類似するものは存在しない。
だが獣人は1年毎に耳が少しずつ大きくなっていくようで、耳が少し大きくなっていたら1年が経過したということは分かる。
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さて、そろそろ今後の方針を考える必要があるのだが、一人前と認められるまでのテーマは『地味に生きよう』だ。
どうしたところで、子供というのは環境の影響を強く受けるし環境に振り回される。
何せ許可が出ずに、遠くに映る森に入ることさえできないのだからそれは確かだろう。
まして俺は前世でも高校生、つまり結局は子供だったわけだ。
とりあえずは日本人の和の心を最大限に活かしてなるべく謙虚に過ごしたい。
とはいえ、それはあくまで表向きであり、頭の中は別だ。
才気を迸らせた結果、推理を的中させた時の決め台詞の候補を2つまで絞った。
「この世界は僕の思考の中で踊っているのさ。」と「俺に間違いはねぇよ。」だ。
前者は少し凝っていて味があり後者はシンプルだがかっこよさがある。
どちらも捨てがたいから引き続き熟考を重ねたいと思う。
この世界に関する知識についてだが、外出をきっかけに色々なことを母に質問するようになった。
外の世界に触れた子供が様々なことに興味を持ち、疑問を抱き、質問を投げかける。
我ながら完璧な流れだと思うのだ。
獣人界の孔明を目指せるのではないだろうか。
孔明「・・・ほう?」