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異世界で生きよう。  作者: 579
4.彼はこうして街で過ごす。
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81.彼はアイドル。

 襲撃を受けた翌日、屋敷に泊まっていくよう勧められた俺はそれを遠慮して乙女の館へと戻り、泥のように眠って6の鐘が鳴る頃に目を覚ました。


 既に日は高く登り切っており、部屋の気温は少し高いくらいだろうか。

 一度背伸びをした後にベッドから降りて着替えを済ませると、一階へと降りた。

 既に昼食で混みあう時間帯は過ぎているのか、食堂にはまばらにしか人がいない。


 今日は何時でもいいからギルドに来て欲しいと頼まれているのだが、まずは朝昼を兼ねた腹拵えをしなければならないだろう。

 食堂にはカナの姿はなく、代わりに視界にはロメオさんの姿が入ってきたためにそちらへと声をかける。


「おはようございます。情報提供の件は本当にありがとうございました。」

「あら、いいのよ。役に立てたなら今度デートでもしてくれる?」


 ロメオさんはウィンクのような何かをしながらそう告げるが、確かに彼だけは実質的に無償で力を貸してくれていた。

 それがお礼になると言うならば、求めに応じるのが筋というものだろうか。


「分かりました、今度一緒にデートをしましょうか。カナには了承を取っておいてくださいね。」

「そうやってすげなく断るところもステ・・・あら?もしかして今私承諾されたのかしら?」

「はい。プランは俺の方で考えておきますから、楽しみにしていて下さい。それと朝昼兼用の食事をお願いします。」


 そう笑顔で告げるとロメオさんはしばらく呆然としていたのだが、理解が追いついたのか勢い良く厨房と入って行った。


「カナ、聞いてちょうだい!私始めてデートの誘いに成功したわ!!」

「はいはい、それはすごいのです。パパが二人になるんですか?いいからちゃんと働いて下さい。」


 厨房からは親子の不思議な会話が聞こえていた。


●●●●●


 いつもより豪華に見えた食事を済ませた後、数日ぶりにギルドへと入った途端に視線が俺へと集中する。


 相変わらず胡散臭いものを見る類のものだが、それが以前よりも多くなっているのは一体どういうことだろうか。

 歩を進めてもそれに合わせて視線がついてくるため、少し居心地の悪さを感じながらもマリーさんがいる受付へと辿り着いた。


「あ、セイランスくん。こんにちは。今日はよく眠れましたか?」


 どうやらギルド職員である彼女は事の顛末を把握しているらしく、この時間に訪れたことを咎める様子はない。


「こんにちは。一つ質問なのですが、前より視線が辛いのは気のせいでしょうか。」

「あぁ、それはですね・・・。セイランスくん、ギルドカードを出してもらってもいいですか?」


 苦笑しながらそう告げる彼女に白色のギルドカードを渡すと、しばらくしてから今度は紫色のギルドカードが返ってきた。

 首を傾げながら受け取ったそれを眺めていると、彼女は一度頭を下げてから口を開いた。


「セイランスくん、おめでとうございます。今回の功績により特例としてあなたをDランクに昇格することが決まりました。」


 彼女のその一言で、ようやく視線の理由を理解することができた。


 俺が冒険者として登録してからまだ日が浅いにも関わらず、数段飛ばしでDランクになるというのだから不快な視線を向けもするだろう。

 ましてウィルフリッドさんに調子に乗って戦いを挑んだという前科があるのだ。


「ありがたいですが、これって大丈夫なんでしょうか。まだ冒険者になってからほとんど経っていませんよ。」

「もともとDランクまではその支部の裁量によって自由に上げることが認められていますし、ギルドは年功序列ではなく実力主義です。何年冒険者をやっていようが実力が伴わなければ昇格しませんし、登録して1日だろうが2日だろうが功績を残せば昇格します。」


 未だ年功序列が根強く残る日本人が聞いたならば卒倒しそうな程、彼女ははっきりと告げた。


「それにセイランスくんの昇格に関しては支部長が承認しただけでなく、レオンさんとウィルフリッドさんからも強く推薦されています。」

「まぁ、そういうこったな。」


 彼女の話を聞いていると、突如後ろから聞き覚えのある声が話に割って入る。


 そこにいたのは今しがた名前が出てきたウィルフリッドさんであり、今日も赤く染め上げた髪が目立っていた。

 当然、彼が胡散臭い人物である俺に絡んでいるとあってギルド内は騒然としていた。


「こんにちは、ウィルフリッドさん。」

「おう。正直な、てめぇみたいなやつがいつまでも低ランクにいたんじゃギルドとしてもたまったもんじゃねぇんだろうさ。俺としても実力のねぇやつが出しゃばるのは潰したくなるが、自分の認めたやつが過小評価されるのも気に食わねぇんだよ。」


 どういうわけか、聞いてもいないのに自分が推薦した理由を語り出すウィルフリッドさんである。

 これはもしかして、そういうことなのだろうか。


「勘違いすんなよあなたのためじゃないんだからね、ということでしょうか。」

「上等だてめぇ、今度こそその体を切り刻んでやる。」


 軽い冗談のつもりだったのだが、ウィルフリッドさんが腰から剣を抜こうとしたところを柄を抑えて慌てて止める。


 すると彼は瞬間移動で俺の背後に回りこみ、本当に斬りかかってきたのだ。

 とっさにミスリルナイフでそれを受けると、周囲からは悲鳴が上がった。


 俺が剣を受けたのを見ると、彼は再び瞬間移動で姿を消して今度は頭上から襲いかかる。

 それを捌くと今度は右、正面、下、様々な方向からヒヒイロノカネで作られた剣が殺気を纏って俺を斬ろうとする。

 時間にして1分程だろうか、最後の一太刀を受けきるとようやく彼は元の位置へと戻り剣を仕舞った。


「どこの世界に本当に斬りかかる人がいるんですか!?」

「ここにいるんだよ糞ガキ。俺をからかいたいなら命がけでこい。それと周りの雑魚共!これで分かっただろ。こいつは今の攻撃を受けきる程度の実力はあるんだよ。分かったらつまらねぇ視線を向けてねぇでそのしょうもねぇ実力をどうにかしてこい!!」


 ウィルフリッドさんの怒鳴り声がいつの間にか自分たちに向いているとあって、彼らはそそくさと視線を逸らした。

 彼の意図を理解すると、襲われた後にも関わらず顔に笑みを浮かべてしまう。


「ありがとうございます、ウィルフリッドさん。」

「けっ。とっととクリークのところに行きやがれ。」


 彼はそう悪態をつくと、周りを威嚇しながらギルドを出て行った。


●●●●●


「どうだい、セイランスくん。ウィルフもいいところがあるだろう?」


 支部長室に入って早々、一階の喧騒がこの場所まで聞こえていたのかレオンさんがそのように告げる。


「はい。俺も今度ウィルフさんって呼んでみようと思います。」

「あはは、最初は照れ隠しにまた斬りかかられるかもしれないけど喜ぶと思うよ。あの性格だから親しげに話しかける人は少ないしね。」


 その様子だと、この街にいるAランク同士この2人はそれなりに仲が良いようだ。


「ところで、どうしてクリークさんだけでなくレオンさんもいるんでしょうか。」

「あぁ、今回の件に関してはギルド側のまとめ役をしていたのが僕だったからね。」


 領主直々の依頼とあって、Aランク冒険者であるレオンさんがまとめ役として動いていたらしい。

 俺とレオンさんの会話が終わると、今度はこの部屋の主であるクリークさんが口を開いた。


「昨日はお疲れ様でした。あなたを呼んだのは簡単に事の顛末をお話するためです。まずあなたが捕まえてくれた者達ですが、残念ながら意識を取り戻してすぐに自殺をしました。」


 クリークさんの話によると二杖の光は血の誓約により、自ら望むだけでも死ねる状態にあるため自殺を防げないようだ。


 情報漏洩を防ぐためだとしても、そこまで徹底しているのならば凄まじいものがある。

 敵に捕えられたとはいえ、迷わず死を選べる者がどれ程いるだろうか。


「彼らの情報は結局分からず終いということですか。」

「いえ、そうでもありません。あなたが自ら意識を失わせる形で捕まえてくれたおかげで、目覚めるまでの僅かな時間ですが神具を調べることができたそうです。」


 調べたのは管轄的に子爵側だが、ギルドにも情報提供がなされたようだ。


 もっとも神具と呼ばれる武器は複雑な構造をしており、とてもではないが僅かな時間で詳細に調べることは叶わなかった。

 ただ魔法的な要素は含まれていないことと、金属の弾を発射することで攻撃する仕組みであることは間違いないという話である。


「この世界中のどこを探しても似ている武器は存在しませんね。おそらく、二杖の光が開発した全く新しい武器でしょう。」

「実際にその威力を見たウィルフの話だと、魔物相手に使うには魔法と比べても威力が足りないらしいけど、人相手にはその瞬発性もあって随分と脅威になるみたいだね。」


 レオンさんはそう補足するのだが、確かに一定以上の魔物相手に銃程度の威力では通用しないだろう。


 彼らの皮膚ならば銃弾を弾くことができるだろうし、仮に食い込んだとしても当たりどころが悪くなければ致命傷にはならない。

 だが俺のスキルに関することも含めて、ある危険性を孕んでいる。


「もしも、その弾に希少金属が使われた場合は話が変わるのではないでしょうか。」

「・・・確かにそれならば威力は格段に増すはずだ。けれど希少金属は国家レベルで考えてもなかなか手に入るものじゃないよ。5大魔窟の一つ、ルルレットの大魔窟でしか掘れないものだしね。」


 けれども二杖の光内に高い実力を持つ者が居るならば、あるいは豊富な資金源があるならば可能性はゼロではない。

 そして仮にヒヒイロノカネが弾として使われた場合、それは俺のスキルを破り体内へと侵入するだろう。


「ふむ、王都の件といいこの国も騒がしくなっていますね。」

「王都の件ですか?」

「おや、知りませんか。数年前に王位についたばかりの若き王は今、重い病に犯されているんですよ。そして高齢ならばともかくその若さ、しかも僅か数年で退位するとあっては国が不安定になるということで、ディランドに実力の高い治癒魔術師の派遣を要請しました。」


 確かに妖人の国が他国との交流の窓口を閉ざしている以上、治療が最も発展しているのはディランドだろう。


「それで、ディランドはその要請を受けたんですか?」

「えぇ、受けました。それも一国の王の病とあってはそれに相応しい治癒魔術師を派遣しなければならないと、逆にこちら側が頭を抱えてしまうような大物をです。」


 彼のその物言いに一人の人物の名前が浮かび上がる。


「もしかして、聖魔王ですか?」

「えぇ、その通りです。数カ月後に王都にヴァレリア聖魔王がやって来ることが決まりました。彼女が治療するのであれば一国の王相手にも相応しいでしょう。」


 クリークさんのその言葉には誰もが頷かざるを得ないだろう。

 本に書かれていた通りならば、ヴァレリア聖魔王はダルク様と並び大戦期から君臨する原初の魔王である。


「まぁ、これに関しては少し話が逸れましたね。話を戻しましょうか。結果的にこの街に侵入した二杖の光は全員が死亡ということになります。」

「クラリネス様が今後再び狙われる可能性についてはどうなのでしょうか。」

「幸いにも彼女は時期に中央学院への入学を果たします。さすがに国内の貴族子弟が集まるあの場所で今回のような騒動を起こすことは不可能ですし、向こう3年間は安全でしょう。彼女が発つまでに関しては、これまで以上に厳重な体勢で街の出入りに関して取り調べを行います。」


 そういうことならば大丈夫だろうか。


 3年間が空けば二杖の光の事情も変わってくるだろうし、今回事件を起こしてからすぐにまた同じ事件を起こそうとはしないはずだ。

 ちなみに厳重な体勢を取りたいならば、例の門番を人の出入りが激しい場所に是非移動させるべきだと思うのだ。


「最後に今回の件の報酬についてですね。もうマリーさんから受け取っていると思いますが、ギルド側の対応としてはあなたをDランクへと昇格することにしました。あなたの戦闘力、豊富な魔石を軸とした多才な魔法、治療技術、そして情報収拾能力、その他のことも含めるとDランクの範疇には収まらないことは分かっているのですが、今回に関してはこれが限界です。」

「いえ、十分です。むしろGランクから二階級飛ばしでDランクになるだけでも大げさなくらいだと思いましたから。」


 Dといえば冒険者として一人前と言われ、社会的な評価も得られるランクだ。

 既に身分証明書としての役割は十分持つと言っていいだろう。


「ギルドからの対応は以上ですが、依頼主である子爵からのものはどうしますか?あなたは二度も子爵令嬢を救った恩人ですし、彼は可能な限りあなたの要望に沿った報酬にしたいと仰っています。」


 要望に沿うと言われたのだが、いざ考えてみても思いつかないというのが正直なところである。


 旅をすることを考えるとお金はいくらあっても困らないため、要求するとしたらやはりそれだろうか。

 いや、あるいは非常時に備えて貴族の力を借りられる方が都合が良いかもしれない。


「現物として欲しいものがあるとしたら、それはお金くらいです。ですがそれは二番目にして、何よりも欲しいのはサモンド子爵家という権力の後ろ盾でしょうか。」

「ほう?」

「先程クリークさんは俺の能力を評価して下さいましたが、人間社会には権力という厄介なものが存在することを知っています。そうであるならば、いざという時に俺が持たない権力を貸してくれることを報酬として望みます。」


 正確にはダルク様からもらった証明書があるため、全く権力に対して無防備ではないのだがこちらで得た情報を踏まえると想像以上に彼は大物だ。


 その影響力を考えるとなるべく空間収納の中で眠らせておきたい。

 俺の要望を聞き終えると、クリークさんは小さく笑った。


「くくっ、なるほどウィルフリッドの分析通りの人物らしいですね。権力や地位そのものを要求する者は大勢いますが、そうではなくてそれを貸せ、ですか。」

「えぇ、権力そのものなんて厄介そうなもの、報酬どころかむしろただの嫌がらせです。」


 俺はこの世界を見て回ることが目的だし、最終的に帰る場所があるとしたらそれはトキワの集落だと思っている。

 権力どころか、持ち家一つ必要がない。


「分かりました。サモンド子爵にはそのように伝えましょう。」

「ありがとうございます。」


 これで話は終わりだろうか、そう尋ねようとした俺にクリークさんが最後に一つと前置きして口を開いた。


「冒険者は犯罪者でもない限りその素性を一切問いません。ですからこれは単なる私の好奇心です。セイランスくん、あなたは一体何者ですか?」


 レリアさんにもされたその質問を、再びクリークさんにもされたようだ。


 相手はギルドの支部長なのだからもう少し真面目に返事をしようか。

 俺はくるりと体を一回転させてから告げる。


「探検者のアイドルです。」


 そう、探検者達がその命を賭して挑んだアルセムの大魔窟の奥に暮らしていた、彼らのアイドルだ。


 年齢はもうじき14歳、好きなものは妖精族、嫌いなものはヒヒイロノカネ。

 昔の夢は世界を見て回ること。

 今の夢は世界を見て回り、そしていつの日かトキワの集落に再び戻って幻人達に外の世界の話をすることだ。

4章のメインストーリーはこれでお終いです。

次からサブストーリーになります。

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