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異世界で生きよう。  作者: 579
4.彼はこうして街で過ごす。
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74.彼は屋敷を訪れる。

 クリークさんと共にサモンド子爵家へと向かうために、俺は再び冒険者ギルドを訪れていた。


「セイランスくん、しばらく時間が欲しいとのことでしたがもう大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございました。」

「それでは子爵のところに向かいましょうか。」


 この状況で時間が欲しいと告げた俺が、一体何をしてきたのか聞かない辺りはさすが支部長を務めている人物ということなのだろう。

 

 あるいは純粋に何も期待しておらず全く興味がないという可能性もあるのだが、その場合は誰かの胸を借りて泣かなければならない。

 サモンド子爵家へ向かうといったものの、特に部屋から出る様子もみせないクリークさんに俺は尋ねる。


「あの、とりあえず部屋を出ませんか?」

「その必要はありませんよ。そういえばセイランスくんは初めてでしたか。この街で支部長を務めるには、とある条件があります。何だか分かりますか?」

「条件ですか?」


 そもそも普通の場合にどうやって支部長になるかも分からないのに、更に条件があると言われても答えようがないのだ。

 本当に軽い問いかけだったのか、彼はすぐに答えを告げる。


「アルセムの大魔窟に最も近いこの街で支部長を努める条件は、空間魔法が使えることです。」

「あぁ、そういうことなんですね。」


 アルセムの森は広大であるが故に、街を出て徒歩で大魔窟まで向かおうとすると数ヶ月を要する。


 また、この支部は魔木が広がらないように防ぐ役目も担っており、アルセムの森の中を定期的に調査し、魔木の拡大が確認されればそれを駆除しなければならないそうだ。

 そのために支部長は代々前任者からマーキングを受け継ぎ、アルセムの森を移動する能力が不可欠だとクリークさんは語った。


「無論他にも空間魔術師は常駐していますが、いざという時になって移動できないのではまずいですからね。それでは行きましょうか。『スペースゲート』」


 彼の詠唱と共に、すっかりと見慣れた歪んだ空間が現れる。


 おそらく領主の館にもマーキングをしてあるのだろうが、それを許される程度には信頼を得ているようだ。

 マーキングは庭に設置していたらしく、ゲートを潜ると目の前には手入れの行き届いた庭園が広がっている。

 視線を庭園から少し逸らせば既に執事服を着た壮年の男性と、メイド服を着た女性が数名待ち構えており、彼らは皆同じ角度で頭を下げた。


 彼らに従って案内された応接室には上品な調度品や絵画が置かれているものの激しい主張はしておらず、落ち着いた雰囲気が流れていた。


 部屋の中央へと目を向ければ髪をオールバックにした男性が、鋭い眼光を放っている。

 その姿は貴族というよりも軍人の類に見え、服装は整っていながらも動きやすさを兼ね備えたものであるようだ。

 肉体もまた肥満とは程遠いところにあり、アルセムの大魔窟に最も近い街の領主として己を鍛えているということなのだろう。


 さすがにクリークさんは慣れているのか、口を開いて挨拶をする。


「お時間を頂きありがとうございます、サモンド子爵。」

「よせ、クリーク。そういったものは公の場だけでいい。もっと気楽に話せ。いや、お前の場合は気楽に話してもあまり変わらないのか。」


 そう言って、彼はその顔に僅かな笑みを浮かべた。


 クリークさんが子爵の向かい側に座ったためにその背後へと立とうとしたのだが、ランクの低い冒険者に過ぎない俺も座るように促される。

 初めて見た時にはクラリネスから想像することが出来ない人物だと思っていたのだが、その言動からは確かに彼女を感じさせるものがあった。


「すまんなクリーク、協力に感謝する。貴族の中にはギルドの力を借りることを恥だと考える者もいるが、そもそも貴族などというものはどれだけコネを作ってそれを活かすかだ。」

「あなたのそういうところは嫌いではありませんよ。それに、二杖の光がこの街で暴れるのは私にとっても好ましくありません。」


 冒険者ギルドは独立機関であるため、例えその街に設置されていたとしても領主の味方とは限らない。 

 

 だが、敵でもないのだから付き合い方次第ではその力を上手く利用することができるのだろう。

 一方で冒険者は社会的地位が低い傾向にあり、またギルド自体も国に所属しない組織であるため、そういった者たちの力を借りることには抵抗があるのかもしれない。


「現在冒険者の一部を動かして二杖の光の残党の行方を追わせていますが、目立った成果はありません。」

「あぁ、こちらも兵士達にやらせているが似たようなものだ。全く、厄介という他ない。」


 彼はそう言って溜息を吐いた後に、クリークさんの隣に座る俺へと視線を向けた。

 そこには様々な感情が込められているように思えたが、総合するとそう悪いものではなさそうだ。


「改めて礼を言おう。護衛のレリアから、君がいなければ娘は攫われていたと聞いている。今回も護衛を引き受けてくれたことに感謝しているのだ。娘の側で支えてやって欲しい。」

「ありがとうございます。俺もクラリネス様のことは気になっていましたから。万が一のことが起きた場合は全力で守ります。」

「あぁ、その時は頼む。報酬については全てが片付いた後ということになるが、今必要なものはあるだろうか。」


 おそらくはここで無いと答えるのが一般的なのかもしれないが、俺には欲しいものが一つだけあった。


「はい、執事服を貸してください。」

「執事服だと?」


 室内にはそれからしばらく静寂が訪れていた。

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