7.彼は長に会う。
「こんにちは、レイムさん。息子のセイランスを見せに来ました。」
母が挨拶をする横で、俺は集落長を見る。
皮に骨が張り付いた老人を想像していたのだが、その見た目は随分と異なる。
白髪は生えておらず茶色い髪をしており、肉体も遠目に見て分かる程に筋骨隆々だ。
とりあえず先程のサービス精神云々は撤回させて頂きますごめんなさい。
集落長は心の中で謝罪している俺を見ると話しかけてきた。
「うむ、お前がセイランスか。順調に成長しておるな。」
「はじめまして、せいらんすといいます。よろしくおねがいします。」
前世の1歳児と比べるとだいぶ成長が早いのだが、これについて触れる様子はない。
やはり、獣人の成長は早いという説が濃厚のようだ。
今度推理が的中した時のために決め台詞を作っておいたほうがいいだろう。
それはそうと、彼は今幾つなのだろうか。
もし見た目通りの若い年齢ならば、獣人は平均寿命が低い可能性がある。
「えっと、れいむさまはいまおいくつなんですか?」
「確か60は越えていたはずだな。」
「・・・!?」
思わず驚きの声を上げそうになるのを何とか堪える。
平均寿命が低くないのは朗報だが、これで60歳とは詐欺もいいところだろう。
これはどうやら、獣人は若々しいという説を提唱する必要もあるようだ。
俺が内心驚きの声を上げているのをよそに、彼は話を続ける。
「セイランス。今日来てもらったのはまずお前の成長具合を確認するためだ。そしてもう一つの理由は、お前に魔法を使えるだけの魔力があるかを確認するためでもある。」
「まりょくですか?」
「うむ。我々は獣人という種族だが基本的に魔力がほとんどない。ただ、たまにわずかな魔法を使えるだけの魔力を有して生まれてくる者もおる。この集落でいえば、200人中10人といったところだ。1歳になった者にはここに来てもらって、無事な成長を確かめるついでに魔力の有無も確認しておるのだよ。そこにある石に触れるとよい。魔法が使えるだけの魔力があるのならば、淡く光るはずだ。」
彼はそう言って、机の上にある丸い石を指し示した。
20人に1人の割合だから珍しいものの騒ぐ程ではないのだろう。
前世でいえばクラスに1人か2人いる存在という感覚だろうか。
クラスにいるかわいいあの子が俺というわけだ。
長の指示に従って石に触れると、石は淡く白色に光った。
どうやら本当に、魔法を一応使える程度の魔力が残されているらしい。
「ふむ、どうやらお前は魔力が使えるようだな。マリア、この子には魔法について教育を施すとよい。確か、マルガリンのやつが魔法を使えたはずだな。」
「分かりました、今度相談してみます。」
「うむ。セイランスも初めての外出で疲れただろう。用も済んだし今日はもう帰るとよい。」
話はそれだけだったらしく、母と一緒に礼をして部屋を退出した。
家までの帰り道、手を繋ぎながら彼女が笑顔で話しかけてくる。
「セイくんは魔法が使えるのね、すごいわ。」
「つかうのがたのしみだね。」
全くもって楽しみなのだが、興奮する気持ちとは裏腹に瞼が重たくなってきた。
いくら成長が早いとはいえ、外出はまだ辛いようだ。
「あら。セイくん眠たくなったのね。ママが抱っこしてあげるわ。」
彼女の言葉に甘えて腕に抱えてもらうと、安心する匂いがした。
母の匂いと体温に包まれた俺は、やがて意識が遠のいていく。
クラスに1人いるかわいい子って妙にリアルです