71.彼は前世の影を感じる。
襲撃から一夜が明けて翌日、俺は改めてクリークさんに呼び出されていた。
昨日はすでに日が沈んでいたため、大まかな事情説明だけをしてギルドを離れていた。
「改めましてセイランスくん、昨日はお手柄でした。あなたがいなければクラリネス嬢は連れ去られていたかもしれません。」
「偶然遭遇した結果なので気にしないで下さい。それよりも彼らは一体何者だったんでしょうか。」
ギルドの支部長に褒められるというのは貴重なことだと思うのだが、それ以上に昨日の者たちのことが気になって仕方がないのだ。
彼は一瞬考える素振りを見せた後、組んだ指の上に顎を乗せて口を開いた。
「ふむ、まだ公にはしていない情報なのですが、クラリネス嬢が狙われたとなれば時期に広まるでしょう。セイランスくんは二杖の光という組織をご存じですか?」
「いえ、知らないです。」
「今回の襲撃者はそこに所属する者達でした。まずはそこから説明を始めましょうか。」
俺が知らないと答えると、クリークさんは二杖の光について語り始めた。
二杖の光とはゼファス教信者を主体として構成されている組織であり、彼らは魔人排斥主義であると同時に獣人奴隷主義でもある。
それ故に獣人と普人が等しく暮らし、魔人との国交も小規模ながら存在している現在の世界の在り方を否定している。
彼らは思想を持つだけに留まらず、世界を正しい姿に戻すという大義の元に各地で破壊活動を行っているそうだ。
「彼らが望んでいるのは大戦前の世界の在り方なんですよ。」
「二杖の光が今回の犯人なら、どうしてクラリネス様を狙ったんでしょうか。今の話だと破壊活動をしているんですよね?」
「それなのですが、少し話がややこしくなります。実は、この組織は昔別の名称だったんですよ。ここ数年で今のものに改名し、それからは活動内容が少し変わってきています。」
つまり以前の組織は破壊活動を主に行っていたが、二杖の光に変わってからは破壊活動以外にも手を伸ばしているということだろうか。
俺の考えを肯定するように、クリークさんは話を続ける。
「最近は特に窃盗や誘拐に手を出しているみたいですね。クラリネス嬢が狙われた理由ですが、それらの中に魔法無効化のスキル持ちが誘拐されるという事件がいくつも混ざっていました。」
「何故そんなことをしているんでしょうか。」
「分かりません。一応警戒をして調べさせていましたが、冒険者ギルドは別に犯罪者を取り締まる組織ではないですしね。まして子爵令嬢に手を出す程となると予想外です。」
確かに、辺境の地とはいえ平民に手を出すことと貴族の令嬢に手を出すことでは重さが違う。
クラリネスの話を信じるならば彼女のスキルは同系統の中でも優れているようだが、それを理由に襲う程魔法無効化を求めているということなのだろうか。
それにもう一つ気になることがある。
「神具が使われ出したのは二杖の光に変わってからですか?」
「えぇ、そのようですね。どうも彼らはそう呼ばれる武器を使用しているようです。ただ、こちらもどういった性能なのか、どういった仕組みなのか、それらの情報はあまり入手できていません。どうも所有者には、ヴァンパイア族の血魔法で何らかの条件の元誓約がかけられているようです。」
ヴァンパイア族は亜人の一種であり、彼らが使う血魔法を利用することで血で結ぶ絶対の誓約が可能になる。
神具の方はよく分からないが、死んだのは血の誓約が関係していることは間違いないだろう。
また神具が俺の記憶にある地球の武器に酷似している以上は、どう考えても地球人が絡んでいる可能性が高いと思うのだ。
俺が4歳の時に少年神様に会った時点ではむしろ地球人であった俺がこの世界にやってきたことに驚いていたから、その後の9年間に何かが起こったことになる。
だがそうなると何故二杖の光と関わっているのか、どうやって地球の武器を提供しているのか、依然として謎が多い。
現在の情報量で考えても結論を出すことは到底できないため、一旦それらを横においてクリークさんへと尋ねた。
「今回の襲撃者に関しても有益な情報はあまりないんですね?」
「えぇ、体の刺青から二杖の光のメンバーであることは確認が取れたそうですが、それ以外の情報は得られていないようです。ただ、こちらが事前に確認している範囲では、この街に侵入したメンバーは全部で5人います。」
つまり、まだ3人はこの街にいてクラリネスを狙う可能性があるということだ。
「クラリネス様は大丈夫なんでしょうか。」
「残党の居場所は未だに分かっていませんし、捕まるまで安心はできません。とはいえ、彼女がいるのは警備が固められた屋敷の中です。滅多なことはもう起きないと思いますが、全員で事に当たらなかった点も気になるといえば気になりますね。」
確かにあのタイミングで狙うことが全ての作戦であるならば全員で事に当たったはずだ。
「クラリネス嬢が心配ですか?」
「そうですね。襲われた現場にいましたし、これまでの話を聞くと危険な相手ですから。」
「セイランスくん、実はサモンド子爵からあなたに護衛の依頼が来ています。クラリネス嬢は屋敷にいても落ち着かないようです。自分があのような形で狙われたのが余程怖かったのでしょう。娘が少しでも安心できるよう、彼女の身を守ったあなたに事件が解決するまで側に居て欲しいそうです。」
確かに自分が誘拐されそうになった上に、今もまだ狙われているというのは堪えるものがあるのだろう。
無論クラリネスの護衛に就くのは問題ないのだが、ギルドランク的には支障がないのだろうか。
「Gランクで護衛の依頼って受けられたでしょうか。」
「本来ならば無理ですが、今回の場合は指名依頼として処理しますから。それにあなたの実力はウィルフリッドやレオン、フィオンさんから伺っています。新旧3人のAランク冒険者が認めるのであれば問題はないでしょう。更に言うならば屋敷は守りを固めていますし、万が一の事態が起きてもあなたの出番が来る可能性は低いというのもあります。」
「そういうことならば分かりました。フィオンさんはやっぱり只の老人じゃなかったんですね。」
クリークさんとは昨日面識を持ったばかりなのだが、俺がこの街に来てからやってきたことを把握しているらしい。
ウィルフリッドさんとは戦っているし、フィオンさんはランドルフさんの治療、レオンさんはファイティングブレルの件で俺に気付いていて、それらの情報がクリークさんへと流れているのだろう。
「最後にですが、今回の件に関してギルド全体としてはこれ以上動くのでしょうか。」
「えぇ、ギルドの方にも正式に子爵の方から依頼がありましたので協力するつもりです。」
「それならば安心ですね。」
おそらく今頃はサモンド子爵の指揮下にある兵士たちが調べ回っているのだろうが、人数が多いに越したことはない。
更にギルドも動くならば問題はないだろうが、一応俺の方でも幾らか手を打っておくことにしよう。




