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異世界で生きよう。  作者: 579
4.彼はこうして街で過ごす。
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69.彼は孤児院を訪れる(2)。

「セイランスさん、お疲れ様でした。」


 昼食を挟んで鐘が2つ鳴る程度の時間講義を行った俺は、グレンダさんとクラリネス、レリアさんを交えてお茶を飲んでいた。


「いえ、あんな感じで良かったでしょうか。」

「えぇ、むしろ十分過ぎるくらいだわ。私は魔力が多い方ではないし、子供たちが魔法を目にする機会は少なかったから助かりました。」

「私と同じ獣人なのによくもあそこまで魔法に詳しいものですね。普人に魔法を教える獣人など始めてみました。」


 依頼主であるグレンダさんからお褒めの言葉を頂いたため、初めての依頼の成果は上々だろう。


 後方でクラリネスと共に見学をしていたレリアさんにも無事興味を持ってもらえたようで何よりである。

 俺の場合は魂システムの恩恵と魔力システムを知ったことにより少ない魔力でも魔法を使用でき、魔石に効率よく蓄積することで魔力をある程度補えている。

 それに加えてマルガリンさんやララを始めとした妖精族、ダルク様とその配下といった様々な者たちから魔法を学んでようやく現在の状態なのだ。


 そう考えれば普人に魔法を教える獣人など見かけなくて当然なのかもしれない。

 

「確かに素晴らしかったですわ。ねぇ、セイランス。あなた水魔法の状態変化は教えられませんの?」

「状態変化ですか?そうですね、多分教えられると思いますよ。」


 魔法とは縁遠い獣人から教わることに抵抗がないらしいクラリネスに対してそう返事をした。


 話によると彼女は来年から王都にある中央学院に通うのだが、貴族業界でいくとデルムはアルセムの大魔窟に隣接する粗野な街で、あちらで下に見られる可能性があるそうだ。

 それに加えて魔法も苦手となればいよいよ軽んじられるため、躓くものが多いという状態変化を今のうちに身に付けておきたいようだ。

 よく分からないが、貴族子弟は彼らで平民とはまた違った苦労があるのだろう。


「勿論私が所持している魔法無効化スキルもステータスにはなりますが、こちらは上手く立ち回らないと嫉妬されてしまいますわ。」

「無効化って魔法が使えなくなるということでしょうか。」

「えぇ、正確には自分から一定範囲内に効果を及ぼせますの。私は魔法無効化スキルの中でもかなり広い範囲を誇りますのよ。」


 そう自慢するように告げるクラリネスだが、確かに魔法が支配する世界で魔法を無効化できるスキルというのは価値のあるものなのだろう。


 こちら側では魔法だけでなくスキルも体系化されているようで、故郷よりも随分とスキルが発見されやすくなっているようだ。

 それでも所持していない者の方がずっと多いのだが、身体強化系、魔法系、特殊系に分類される程度には一般的である。

 特に彼女のような特殊系スキルは強力な効果を持つ場合が少なくない。


●●●●●


「水魔法の状態変化には色々とありますが、実用性を考えるとまずは水から氷への変化を習得した方がいいと思います。そのためには水が氷になる環境をその身で体感してもらいましょうか。」


 俺は目の前にいるクラリネスとレリアさんにそう言うと空間収納から大きめの魔石を一つ取り出した。


「体感ってどうするんですの?」

「こうするんですよ。『幻精よ、かの者を極寒の地へと誘え 雪は山々を覆い 吹き抜ける風は冷気を運ぶ 湖は氷と化し 広がるのは白銀の世界』」


 魔法の詠唱と共に魔石はみるみるとその形を崩し小さくなり、彼女たちの肌が青白くなると共に震えだした。

 やがて頃合いを見て魔法を解除すると彼女達の体は徐々に赤みを取り戻していく。


「いきなり何をするんですの!?」

「幻影魔法で寒さを体験してもらいました。俺の師匠の言葉に、恐怖を知れ痛みを知れ、というものがありますから。」

「一体どんな人から魔法を教わったんですのあなた・・・。」


 ダルク様の名言はさておき、こちらの世界では科学が発展していないため感覚的に現象を理解している。


 そしてだからこそ、寒い地域でなければ氷とはどういうものなのか、水が氷になるとはどういうことなのかを理解することが難しい。

 一方幻影魔法であれば、しっかりとそれらを体験することが出来るのだ。


「お嬢様、触れるべきところはそこだけではありませんよ。一体どうして幻属性の魔石など持っているのでしょうか。」

「道で拾いました。おそらく俺の日頃の行いを見てくださった神様がご褒美をくれたに違いありません。」


 俺がレリアさんに笑顔でそう返事をすると、睨まれたために視線を天井へと逸らす。


 ララ達にとって朗報だが、こちら側では現在亜人は獣人の国ウォルフェンに保護されており、彼女達が危惧していたような不正な手段での亜人属性の魔石は入手困難のようだ。

 天井の染みを14個数えたところでレリアさんは溜息を吐いた。


「まぁ、いいでしょう。ところで魔法を使えない私まで巻き込んだのには、ちゃんと理由がありますよね?」

「もちろんです。レリアさんにもこの機会に幻影魔法を体験してもらおうと思いました。珍しいからこそ、護衛たるもの一度体験しておいた方がいいでしょうから。」

「確かにその通りですね。なるほど、疑って申し訳ありませんでした。」


 そう言ってレリアさんは頭を下げるが、無論無意識のうちに獣人界の孔明が発動して雰囲気で巻き込んだだけである。

 上手く彼女を誤魔化せたところで、俺は一度コップの水を使って氷への状態変化を披露した。


「これがお手本です。今度はクラリネス様の番ですね。いいでしょうか、水が氷になるというのは今見せた通りで、そして水が氷になる冷たさというのは先程体験した通りです。難しいことは置いておいて、まずはこの2つの情報から魔法を使ってみて下さい。」


 クラリネスは緊張した面持ちで頷くと、目の前にある水の入ったコップへと手を翳した。


「アクアフリーズ」


 その言葉と共にコップの中の水は僅かに音を立てながら凍っていき、やがて水の中に氷の塊がいくつか出来たところで状態変化は止まった。

 彼女はその光景を見ると頬を紅潮させながら口を開く。


「あっさりとできましたわ!」

「まだ中途半端ですが、とりあえず一歩は踏み出せたようですね。やっぱりララ直伝の幻影魔法学習は効果抜群です。後は日が暮れるまでこれを繰り返しましょうか。」

「けれど、そんなに魔力が持ちませんわ?」


 そう告げる彼女の目の前で、俺は大量の魔石をセシルの鞄から取り出して並べた。

 クラリネスの顔が少し引きつっている気もするのだが、貴族令嬢ということで大盤振る舞いである。


●●●●●


 日が暮れ始めた頃、孤児院前でグレンダさんや子供たちと向き合って別れの挨拶をする。


「今日はありがとうございました、セイランスさん。」

「いえいえ、どういたしまして。」

「セイランス、ありがとうな!クラリネス・・・様は何だか元気がないなー。」


 言葉遣いが一歩前進したファーガスの言う通り、クラリネスは疲れた顔でレリアさんに寄りかかっていた。

 彼女はどういうわけか、俺の方を見ながら愚痴のように呟く。


「今日はとても疲れましたの。」

「おそらく精神疲労を起こしているんだと思います。今日は家に帰ったらゆっくり休んでくださいね。」

「何を他人事のように言っていますの!?」


 最終的にコップの水を全て氷へと変えられるようにはなったのだが、どうやらダルク様のスパルタ教育が俺に伝染してしまっているらしい。


 孤児院を出た後は途中まで帰り道が同じらしく彼女たちと並んで歩くのだが、俺たちの間に流れるのは沈黙である。

 出会ってからまだ半日も経たないことを考えればそれも無理からぬことだが、ここは男の俺が楽しい話題提供をして場を盛り上げるべきだろう。


「あの、ご趣味はなんでしょうか。」

「趣味?そうね、やはりティータイムですわ。」

「・・・大変良い趣味だと思います。」


 どうやら俺は話題提供のセンスがないことをすっかりと忘れていたらしい。

 だが結果的にそれがきっかけとなったのか空気が弛緩し、レリアさんが口を開いた。


「セイランスさん、いくらなんでもあなたとクラリネス様では身分が釣り合いませんよ。」

「いやいや、別にナンパをしているわけじゃないですからね。身分といえば、クラリネス様は随分と身軽に動きますよね。」

「それが出来るのは今だけですもの。中央学院に入れば私はそこで結婚相手を探さなければなりませんし、殿方と結婚して家庭に入ればもう自由などありません。お父様が私の行動を許してくださっているのも、そういうことですわ。」


 彼女は少し陰った、けれど自分の運命を受け入れている表情でそう言った。


 やはり貴族子弟には彼らなりの苦労というものがあるようだ。

 少ししんみりとした空気が流れる中で歩いていると、人通りの少ない場所に差し掛かった途端周囲におかしな気配を感じる。


「レリアさん、気が付いていますか。」

「えぇ、気のせいだと思いたいですがこちらの身の上を考えると残念ながら楽観視はできません。」


 その言葉がまるで契機になったかのように、俺達の前にフードを被った人影が二つ現れた。

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