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異世界で生きよう。  作者: 579
3.彼はこうして森を越える。
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58.彼は戦い、そして別れる。

 別れは突然という言葉があるが、俺とダルク様の別れもまたそうであるらしい。

 いつものように鍛錬を終えた俺は自分のテントへと戻る帰り道に、突如としていくつもの火球に襲われた。


●●●●●


 獣耳で危険を察知した俺は、火球を一度躱すとそのまま複雑に移動し始める。

 最初はいつも通りにダルク様による襲撃だと思っていたのだが、しばらくしてからおかしな点に気が付いた。


「あれ、火球が追尾してこないですね。」


 そう、火球は俺が回避するとそのまま地面に衝突して霧散しているのだ。


 ダルク様であれば常にコントロール可能な状態で魔法を放つし、一度躱したくらいで対処できるような優しい魔法など使ってこないだろう。

 突如として優しさに目覚めた可能性も皆無ではないのだが、もしそうならばそもそも襲ってこないと思うのだ。


「どなたでしょうか。申し訳ありませんが、出てきてもらえませんか?」


 言語を教えてくれたグレイシアさんの口調がすっかりと移ってしまっている俺は、そう問いかけた。


 すると、火球を遠距離からいくら放っても無駄だと悟ったのか、突如として10人の人影が姿を現した。

 彼らは皆一様に顔を隠しており、表情は伺いしれない。

 どうやら話し合いに応じてくれるつもりはないようで、そのまま一斉に襲いかかってきた。


「スペースゲート」


 敵に対処するために、まずは相手の少し先の空間と自分の目の前の空間を繋ぐ。


 そして相手がちょうど繋いだ空間を通りかかろうかという頃に拳を前に繰り出すと、突然現れた拳に一人が腹を撃ちぬかれて転倒した。

 それにより後方にいた者達が体勢を崩して集団の纏まりが無くなったところで、地面を蹴って接近を開始した。


 距離が縮まると、一番近い相手へと蹴りを放つ。

 相手はニヤリと笑ってそれを剣で払おうとするが、ガキンという音を立てて足と剣が衝突する。


 相手はニヤリとした表情から一転して驚愕へと表情を変えた。

 なにせ本来ならば剣によって切断されるはずの足が、その剣と渡り合っているのだ。


───パキッ


 いや、渡り合うというのには語弊があったかもしれない。


 剣と足がぶつかったのも束の間、そのまま剣が折れて俺の足は勢いを失うことなく相手の頭を狙う。

 相手は咄嗟に剣を持っていなかった手で防御をするが、腕の骨が折れる嫌な音とともにそのまま吹き飛んだ。


「スペースワープ」


 一人を始末すると、魔石を取り出して空間魔法で素早く集団の背後へと移動する。

 そして相手がこちらを振り向くまでの間に、背後から3人の膝を逆方向へと蹴り曲げた。


 これで現状は身動きが取れない者が5人、体勢を未だ崩している者が2人、こちらに振り向き構えている者が3人だ。

 その3人が持っていた剣とは別に濡れたナイフを取り出したため、水魔法を唱えた。

 おそらくあれには毒が塗られているはずだ。


「アクアフォール」


 みるみる小さくなって掌から消えていく魔石と共に、彼らを中心として水が降り注ぐ。


 だが、魔法を唱える間のわずかな隙を狙って、一人がナイフを突き出してきた。

 それに対して身体能力を存分に使い、ナイフが届く前に突き出してきた相手の腕を掴む。

 そしてそのまま違う方向に思い切り引き寄せることで相手の体勢を崩すと、その勢いのまま腹に膝蹴りを叩き込んだ。


 自分達以外の仲間がやられたのを見て、気を引き締めたのか残りの4人は一斉に襲いかかってくるようだ。


「ハイグラビティ」


 出鼻を挫くように4人の装備に重力をかけると、彼らは一斉に体勢を崩した。

 その隙をついて二人の膝を蹴り抜きあらぬ方向に折り、残りの2人の腹にそれぞれ掌底を叩き込む。


 全員が地面に倒れているのを確認した後、俺は風の塊で顎を打ち抜き一人ずつ気を失わせていくのだった。


●●●●●


 全てが片付いた後にダルク様がいるテントの方向を見ると、燃え盛る火と舞い上がる煙が確認出来た。

 急いで彼の元へと駆けつけてみれば、そこには嫌な臭いと共に焼け焦げて元の姿が全く分からないような死体が何十と転がっている。


「小賢しいから全員殺してしまったな。」


 ダルク様は俺の存在に気がつくと、そのように語った。

 この場に彼しかいないところを見ると、俺たちがそれぞれ別れたところを見計らって攻撃を仕掛けてきたようだ。


「ふむ、お前のところにも敵が来たようだな。初めての本当の対人戦はどうだった?」

「ダルク様のおかげで、途中までいつもの襲撃だと勘違いしていました。それよりも彼らは一体何だったのでしょうか。」

「さてな。だが、前にも言っただろう。俺は敵が多い。」


 ダルク様はそう言って、ニヤリと笑った。


 彼にとっては日夜を問わない襲撃も毒殺も、大げさでも何でもなくただの日常でしかなかったのだ。

 当たり前のように、俺に暗殺の対処法を叩き込んでいた理由が少し分かった気がした。


 やがて、俺たちのもとにジェドさんが駆けつけてくる。


「こっちにも随分と来ていたんだねぇ。まぁ、ダルクさんの心配は全くしていませんでしたけど。」

「どうやら全員の元に敵が来たらしいな。今回の相手は随分と張り切っていたようだ。」

「そのようですね。偶然グレイシアさんと居合わせていたんですが、久しぶりに彼女が戦っている姿を見ました。相変わらず凄かったですねぇ。」


 魔王の部下ならば、治癒魔術師であろうとも戦闘が行えるものらしい。

 グレイシアさんの戦い方には大変興味があるのだが、残念ながらそれを尋ねているような余裕はないようだった。


「それで、こやつらのことは何か分かったのか?」

「いえ、身元が分かるようなものは何も持っていませんでした。」

「ふむ、いつも通りだな。このような場所までわざわざご苦労なことだ。だが、ここにもだいぶ長く居る。ここまで大規模な襲撃を受けたとなると、ディランドに帰った方がいいだろう。」


 ダルク様がそう判断するのはもっともだが、そうなると俺はどうなるのだろうか。

 こちらの考えていることが分かったのか、彼は俺の方を向くと告げた。


「セイランス、鍛錬はここまでだ。キリカにデルムの近くまで転移させよう。」

「ダルク様、一度ディランドに行ってみたいのですが同行することはできないでしょうか。」


 ここを離れるならば別れの時が来たということだ。


 だが、ディランドに行くならば話は別だろう。

 そう思っていたのだが、ダルク様は即座にそれを否定した。


「駄目だ。ディランドにはお前の足で訪ねてこい。お前には様々なことを教えたが、戦闘に関することを除けば知識上のことでしかない。これからはその身で多くのことを学べ。」

「・・・分かりました。」


 ダルク様の言い分はもっともだった。

 世界を見て回ることが俺の目的ならば、彼の言う通り自分の足で行けば良いだろう。


●●●●●


 一度テントに戻り素早く準備を済ませると、外にはダルク様とグレイシアさん、キリカさん、ジェドさんがいた。

 レックスさんはディランドにいるようだ。


 俺は彼らを見ながらこれまでの礼を告げた。


「皆さん、今までありがとうございました。」

「構わん。お前が珍しかったから鍛えてみた、ただそれだけのことだ。無粋な者達によってそれも終わりを告げるが、これもまた一つのきっかけだろう。」


 そう返事をするダルク様に、俺は前々から準備していた物を渡した。


「俺の魔力を込めた魔石が入っています。どうぞ使って下さい。散々お世話になっておきながら、この程度のことしかできずに申し訳ありません。」

「先程も言ったが所詮は俺の暇つぶしだ。それにお前の魔力が込められた魔石ならば使い道も多い。遠慮無くもらおう。」

「ダルク様、俺はデルムに行った後に冒険者になるつもりです。もしも力が必要になりましたらご連絡下さい。微力ながら馳せ参じます。」


 俺の言葉に対して、ダルク様はおかしそうな表情をした後に告げる。


「低ランク冒険者の力など魔王が借りられるものか。せいぜいランクを上げておくことだ。それとセイランス、こちらからも渡すものがある。」


 ダルク様はそう言うと1枚の紙を取り出した。


「これは何でしょうか。」

「お前の身元を保障する証明書のようなものだ。お前はこちら側の者ではないのだから、いずれ役に立つ時もあるだろう。」


 そこには俺の身元を保障する旨が書かれた文章と、彼らの名前及び刻印のようなものがそれぞれあった。


ディランド国第一魔王 ダルク・アルフォード

      特務中将 ジェド・バートン

      特務中将 レックス・ギャレット

      国家空間魔導士 キリカ・オルコット

      国家治癒魔導士 グレイシア・リーベルト


 詳しくは分からないのだが、とてつもない名前が並んでいる気がするのだ。


「何だか立派な肩書きが名前の前についているのですが、本当に持っていて大丈夫なんでしょうか。」

「気にすることはない。」

「本当ですか?それに第一魔王って・・・。」

「くどいぞ。五人魔王がいることなどお前も知っているだろう。」


 俺の再三の質問を、ダルク様はバッサリと切って捨てた。


 まだ疑問が拭えなかった俺だったが、キリカさんの空間魔法により大きな歪みが生まれたのを見て諦める。

 いつまでも彼らをこのまま待たせるわけにはいかないだろう。


「改めてありがとうございました。」


 もう一度だけ告げた礼に、彼らはそれぞれ返事をしてくれた。


「当初の宣言通り、国王の前であくびができる程度にはお前を鍛えたつもりだ。だが、決して奢ることのないようにな。いかに強くとも人類全てが敵ではかなうはずもない。」

「セイランスくん、治癒魔法はあなたがその気になれば金のなる木です。ですが、傲慢な治癒魔術師にはならないでほしいと思っています。私が教えた技術で多くの命を救ってください。」

「セイランスくん、君って自分が思う以上に色々と利用価値がある存在だから気をつけてね。」

「皆ごちゃごちゃ言っているけど、まぁ思うようにやりな。自分の目的のために自分が手に入れた力を好きに使えばいい。あぁ、それとここにいないレックスが言いそうなことはそうだなぁ。ダルク様の名を汚さないように、じゃねぇか?あいつは魔王さんのことが大好きだからな。」


 彼らの言葉を受けて、俺は最後に告げる。


「分かりました。ダルク大魔王閣下の名を汚さないように気をつけます。」

「訳の分からん名称で俺を呼ぶな。」


 ダルク様が呟いた小言を聞きながら俺はゲートを潜った。

 さぁ、ようやくスタート地点だ。

58話にしてスタート地点らしいです。

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