57.彼は振り返る。(5)
ダルク様の元で鍛錬を始めてから1年半が経ち、俺は13歳になった。
力の方はまだ上昇しているものの、身長はほとんど伸びずに170cm程度でしかない。
女性ならばともかく幻人の男性の中ではかなり低身長に分類されるのだが、成長のための栄養が全て脳へと回されているのだろうか。
この1年半は一つのものを極めることよりも、幅広く様々なものを身につけることに重点を置いてきた。
人族だけでも7属性の魔法が使えて、さらに亜人達が各々固有魔法を使え、当然武器を用いた戦闘まで存在しているのだから、大きな力をいくつか身につけたところでこれらには到底対応が出来ないというのが理由の一つだ。
また各鍛錬の進行状況に関して言えば、相応のレベルには達していた。
知識に関しては一般常識を一通り頭に入れ、共通語を話すことや文字の読み書きも最低限は可能である。
近接戦の技術に関してはもっぱら実践で鍛えているものの、どこかの流派を身につけたわけではない。
そういったことは短期間では不可能だし、実戦的な近接戦闘技術を鍛えたのは自然な成り行きだろう。
そして、魔法に関しては各属性を広く鍛えていた。
そもそも俺の武器は全属性を扱えることからくる豊富な手段であって、強大な魔力から放つ一撃ではないのだ。
魔力と言えば、魔力の少なさは魔石である程度補えるようになった。
あれから空間収納の技術をさらに高め、今では実戦中でも気軽に使用できる状態にまで達している。
鍛錬中に倒した魔物の魔石に、高速回復を活かしてひたすら魔力を貯め続けて今では魔石のストックが数百にのぼっていた。
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「ふぅ。」
今日の鍛錬を終えた後、俺はテントの中で横になりながら一息ついた。
ここに来てから1年と半年、自分で言うのも何だが強くなったと思うのだ。
最初の頃は模擬戦を行う度に重傷を負ってグレイシアさんの元へと運ばれていたが、今では自分で回復できるくらいに抑えられているのだから。
ところで自分で回復しなければならない怪我を負うというのは、果たして本当に強くなっているのだろうか。
───ザッ
足音を消そうとしているが、そのような疑問を抱いた俺の耳には僅かに残った地面を踏む音が聞こえてくる。
迷わず足音が聞こえた先を威圧した。
───ザッザッザッ
それを受けて足音は去っていく。
今のものはおそらくダルク様だ。
襲撃は何も寝ている時ばかりに行われず、こうして起きている時にも行われるのだ。
しかも起きている分とんでもない攻撃が飛んでくるから洒落にならない。
最近はもう慣れたのだが、ある意味修行以上につらかったのがこの日常で突然起こる襲撃だ。
話をしている最中に突然攻撃されたり、他の人達から狙われたり、ひどい時などグレイシアさんが突然告白をしてきて顔を真っ赤にしていたらそのまま拘束されたりもした。
無論グレイシアさんの告白は嘘で、この時ばかりはダルク様に厳重な抗議をした。
どうやら色仕掛けは暗殺の定番らしく、笑って相手にされなかった。
暗殺の定番と言えば、ある日突然様々な粉や液体を渡されたこともある。
それらが何か尋ねると、全て毒だから匂いを覚えるようにと言われた。
なるほど毒殺への対処かと思い、一応匂いを覚えてから数日後に、食事に毒が入っていた。
そして俺は当然それを食べて、グレイシアさんに治療されることになる。
いくら嗅覚が優れていたとしても、毒を渡されてから数日後にいきなり対処できるはずがないのだ。
こちらに関しても厳重な抗議をしたのだが、やはり相手にされなかった。
強者を殺す一番有効な手段は毒らしい。
暗殺される予定など全くないのだが、仕掛けて来るのだから適応する以外に道はない。
一体俺はどこに向かっているのだろうか。
向かっている先は分からないのだが、皆が時間を作って俺を鍛えてくれていることだけは確かだ。
俺がそんな彼らにできることといえば、それに応えて少しでも多くを鍛えていくことなのだろう。
この日々がいつ終わりを迎えるのかは分からないが、それまで精一杯力を付けたい。
彼の明日はどこにあるのでしょう。




