56.彼は学ぶ。(5)
普段居ることが少ない3人が揃っている今日は、ダルク様やグレイシアさんとの鍛錬を中断して彼らから魔法を教わる予定だ。
午前中にキリカさんから空間魔法を教わって一休みした後に、俺はジェドさんから土魔法と水魔法について教わっていた。
彼は希少属性持ちではないものの、2属性を扱えるのだからやはり貴重な人材なのだろう。
ジェドさんもまた彼女同様に、最初に質問をしてきた。
(セイランスくん。君は普段から水属性と土属性を使っているんだよね。それじゃあ、この二つの魔法の特徴は分かるかな?)
(えっと、どちらも複数の状態を扱えるということでしょうか。)
(うん、正解だ。水属性は氷から空気になるまで、土属性は岩から砂になるまで扱えるね。この二つの属性は、状況に応じてそれらを上手く使い分けることが重要になる。例えば水属性だけど、一番戦いに向いている状態は氷だよ。)
ジェドさんはそう告げると、いくつかの魔法を実演する。
「『アクアニードル』『アクアブロック』『アクアフリーズ』」
最初の詠唱で鋭く尖った氷が現れて地面に深く突き刺さり、次の詠唱でこぶし大の氷が複数現れて地面に衝突した。
だが、最後に唱えた魔法だけは今までのものと様子が異なるようだ。
氷魔法を使ったはずなのに、詠唱と共に岩に衝突したのは水だった。
そこからしばらくすると、岩の表面が凍り始めやがて全体を氷が覆う。
つまり、魔法を放った後に水から氷へと状態を変化させたのだ。
(これは精霊にイメージを伝えておくことで、時間差による状態変化を起こしたんだよ。土属性も水属性と同様のことができるけど、もともとそこにあるものを操作するから魔力消費が少ないのが特徴かな。)
「アースクリエイト」
ジェドさんが地面へと手を当てて詠唱した次の瞬間には、先程まで平だった地面に無数の岩棘が出現した。
そうかと思えば一瞬にして岩棘が崩れ去り、蟻地獄のような流砂が現れてあらゆるものを飲み込み始める。
今度は途端に数十mはあろうかという巨大な岩柱ができる。
その後も彼は地面を自由自在に変化させて操ってみせた。
水属性と土属性は、言わばオールラウンダーなのだろう。
(いいかい?水属性と土属性は高い自由度を持つ魔法だ。使い手の意思次第で攻撃にも防御にも妨害にもなる。けれど、それはつまり同等の魔力であっても、使い手によって実力が全く異なるということでもあるんだよ。君はこれからその運用について学んでいかなければならない。)
(分かりました。あの、もしかしなくても実戦があるんですよね?)
(勿論だよ。あぁ、心配しなくても大丈夫さ。僕はダルクさんのように、痛みが必要とまでは言わないからね。ただ、怪我を一切負わないような温い鍛え方をするつもりもないかな?)
そう言って向けられたジェドさんの笑顔からは、安心する要素が感じられないのは気のせいだろうか。
やはりグレイシアさんこそが唯一の良心なのかもしれない。
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(重力魔法については世界的にもよく分かっていないな。重精に重さのイメージを伝えることで物体を重くしたり軽くしたりできることは確かだが、重精の手助け任せで現象を起こしているのが現状だ。対象は固形物に限られていて生物には使用できない。)
重力魔法についてそう語っているのはレックスさんだ。
(対人戦で有効利用できそうですね。)
(そうだな。人は戦う時に装備を着けているからそれを重くすることで動きを封じられるし武器は使えなくなる。逆に自分に関しては装備を軽くしたり、逆に武器を重くして威力を増したりもできる。)
本来自分を強くするはずの装備が逆に邪魔になるのだ。
かといって装備がなければ無防備になるし、対人戦においては大きな力を発揮することだろう。
「ハイグラビティ」
レックスさんがそう唱えると着けている革鎧が重くなった。
身体を動かしてみるとまるで重垂をつけているかのような制限を受ける。
(金属鎧ならば今のもので地面に倒れるくらいなんだが、軽い装備だとそこまで強力に働かないのが欠点といえる。後は周辺にある物体が強力な投擲武器になる。重力魔法を使えるならば投擲技術を磨いておくといいかもしれん。)
「グラビティコントロール」
レックスさんが落ちている石を一つ拾って投擲すると、石は高速で飛んでいき木の幹にめり込んだ。
(当たりどころによっては石1つ投げただけで人が死にそうですね。)
(そうだな。重力魔法自体はただ物体の重さを変えるだけだから、戦闘に用いる場合は物と組み合わせることが重要だ。魔法を使う時は精霊を介して現象を操作できるようにしろ。)
(一度やってみます。)
そう告げてから、地面に落ちている拳大の石を拾った。
投擲技術はないのだが、おそらく木が密集しているところを狙えばどこかに当たるだろう。
俺はレックスさんがやってみせた光景を脳裏に描く。
「グラビティコントロール」
重精を介してコントロールできるようにイメージをした後に、全力で石を投げた。
手を離れた瞬間に鉛のようなイメージを重精に伝えると石は一瞬で飛んでいき
───パァン!!!
木の一つに直撃した結果はじけ飛ぶような音がして大きくえぐられた。
俺は気まずそうにレックスさんを見ながら告げた。
(えっと、石が保たなかったみたいです。)
(・・・そうか。多用するならばコントロールを身につけないと悲惨なことになりそうだな。俺も戦う時は遠距離からの弓や投擲が主だから、それについては教えてやろう。)
(ありがとうございます。)
どうやら、重力魔法と幻人の膂力が加わるととんでもない威力になるようだ。
念の為に普段は自然を大切にする心優しい少年であることを付け加えておきたい。
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こうして、魔王と5人の部下達に鍛えられながら俺の日々は過ぎていく。
魔物に負けないように、誰かを助けられるように、思い描くように生きていけるように。
国王の前で欠伸ができるように。




