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異世界で生きよう。  作者: 579
3.彼はこうして森を越える。
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54.彼は学ぶ。(3)

 グレイシアさんに話を聞いたところ、アルバント国もヴォルテン家もまだ存在しているらしい。

 ヴォルテン家は通称「アルバントの番犬」と呼ばれているそうで、セイルさんが言っていた通り国の防衛に関わっているとのことだった。


●●●●●


 今日はグレイシアさんから治癒魔法と、ダルク様から三属性の魔法を学ぶ予定だ。


 いつもの様に彼女から言語を学んだ後に引き続き治癒魔法について学んだのだが、その内容は俺の予想とは異なるものだった。

 彼女は治癒魔法について語る際、こう切り出したのだ。


(治癒魔法は体を癒す魔法ですが、不調には様々なものがあります。まず大きく分類するのならば怪我か病気かですね。怪我は外力が加わった結果起こりますが、切り傷、骨折、火傷等様々な種類が存在します。さらにその中でも分類していけば、例えば骨折には皮膚損傷の有無がありますね。病気に関してはもっと複雑ですしそれこそ原因が分からないものも多いです。)


 魔法が支配する世界で本格的な医療の話が登場したため、俺は開始早々に頭が痛くなった。

 おそらくグレイシアさんが体内の様子を観察出来ることと関係しているのだろうが、半ば思考放棄をしながらも何とか要点を摘み出す。


(治療を行う上で怪我や病気について知るのが大事ということでしょうか。)

(えぇ、その通りです。確かに、治癒魔法はある程度の怪我ならば聖精の手助けだけで治すこともできます。ですが、やはり知識がある上で使うのとそうでないのとでは、魔法の効果が全く違うんです。)


 グレイシアさんによると、一般的な治癒魔術師は精霊の補正任せに治癒魔法を使う傾向が強いらしい。


 病気や怪我について深く理解しようと思うと相応の努力が必要になるし、ただ単純に使うだけでもある程度の効果を得られるからだ。

 医療知識をほとんど持たない俺でも、ガイさんの治療をすることが出来たのがいい例なのだろう。


(私が教える以上、セイランスくんにはそういった治癒魔術師ではなく、高度な怪我も治せるようになって欲しいんです。)


 治療に関しては強いこだわりがあるようで、グレイシアさんはそう断言をした。


(ふふ、とは言っても順番に教えていきますから安心してくださいね。まずは治療の大まかな流れを説明します。最初は原因箇所の特定です。怪我の場合は見て得られる情報も多いのですが本人に直接尋ねたり、病気の場合は手で触ったりしながら確認するのも有効でしょう。)


 いわゆる問診や触診を行って、情報収集をするということなのだろうか。

 確かに怪我をしている場所がどこか分からなければ、効果的な治療など出来るはずがない。


(次に原因そのものの特定ですが、これは病気だと難しい場合が多いですね。ただ、全くないわけではないので後々教えていきます。)


 こちらは情報収集から得たものを自分が持つ知識や患者の症状と統合して、診断を下すということなのだろう。

 明らかに前世の医療科学の分野だと思うのだが、透視スキルを持つ彼女ならば原因の特定が可能なものも多いに違いない。


(そして最後に治療です。前2つを省略して発動した場合、魔力の消費が大きかったり思い通りの効果が出なかったりするので注意してください。後は、各怪我や病気によっては治療魔法以外の治療法もあるのでそちらも学んでいきましょう。)


 そう告げて、グレイシアさんは笑顔を浮かべた。


 話を聞く限り彼女が行っているのは、透視による医療科学と聖属性による医療魔法を融合させた独自の医療だ。

 彼女が一流の治癒魔術師としてダルク様から信頼を置かれている理由がよく分かった気がした。

 それと同時に、果たしてそれを本当に身につけられるのだろうかという心配も生まれてくる。


 俺が不安そうな顔をしていることに気付いたのか、彼女は頭を撫でながら告げた。


(ふふ。大変かもしれませんが頑張って下さい。人の命を救うというのは容易いことではありませんが、そうして得られるものの大きさはセイランスくんがよく分かっているでしょう?)


 確かにグレイシアさんがこれだけの知識や技術を持っていてくれたから、俺は今こうしてここに生きていられるのだ。

 それに期待に沿うというのも、俺を救ってくれた彼女への恩返しになるだろう。


 いずれにせよ、今グレイシアさんに返すべき言葉は一つだった。


(あ、できれば耳をもうちょっと重点的に撫でて下さい。)


●●●●●


(ふむ、やけに嬉しそうな顔をしているな。)

(はい、幸せでした。)


 グレイシアさんの巧みな撫で方にノックダウンした俺を見て、テントの中へと入ってきたダルク様はそう告げる。

 このまま余韻に浸りたいところだが、目の前にダルク様が居る以上は気合を入れ直すべきだろう。


(ふむ、馬鹿みたいな表情が消えて何よりだ。この前は概論的なことだったが、今日は光、火、風属性についてそれぞれ話をしよう。まずは光からだ。光属性というと殺傷力がない、恐れるに足りないものだという者がいる。セイランス、お前はどう思う?)

(そうですね。人が情報を得る時、最も利用するのは目だと聞きます。光魔法は情報操作を行うことができると考えるとかなり強力な魔法じゃないでしょうか。)


 今さらりと悪口を言われた気がするのだが、あまりにも自然に流すものだからもはや本当に言われたのかすら曖昧なまま気が付けば話が先へと進んでいた。


 視覚から得られる情報が多いというのは聞いたことがある話だし、何より先の戦いで一度失明させられているのだから光魔法を侮ることは出来ない。

 俺の返事に対して、ダルク様は面白いものを見るような目をしながら言葉を続けた。


(ふむ、お前はものを知らないかと思うとそうやって鋭いことも言うのだな。お前の言う通り視界をコントロールできるというのは強力だ。特に戦闘では周りの状況を正確に把握することが重要なのだから、相手に致命的な隙を作れる。お前は俺の魔法を恐れているようだが、あそこまでせずとも例えば・・・)


「ライトチェンジ」


 ダルク様がそう唱えると共に視界に入る物の色が変化し、緑色だったタオルが黄色に、青色だった鎧がピンク色に見えた。


(ダルク様、全ての物が先程までとは違う色に見えます。)

(あぁ、お前の目に入ってくる光に赤色を足したんだ。セイランス、この様に光魔法では様々な妨害が可能だ。そして単純な攻撃ではない上速度も早いから、防御したり躱したりはできないだろう。ではどうやって対処する?)

(そうですね。単純に考えるなら、打ち消すのはどうでしょうか。)


 質問に対して思いついたことをそのまま告げたのだが、どうやら正解らしくダルク様は頷いた。


(そうだ。同じ属性の精霊に魔力を捧げてその現象を打ち消す。これを反魔法と呼ぶな。お前は全ての属性を扱えるし、自然と全ての魔法に趣旨が深くなるだろうからかなり有利といえる。)


 魔法を使えるのは人族か亜人なのだから、ダルク様が現在しているのは対人における話に違いない。

 今までは魔物と戦うことばかりだったが、確かにこれからは人と戦う機会が増えていくかもしれないのだ。


(次は火属性だが、その性質上最も殺傷力に優れた魔法を使える。火はそれだけで相手を傷付けられるからな。だが逆に言えば、防御的な手段をあまり持たない属性だ。さて、火魔法を使うには注意点が一つある。たまに馬鹿がやらかすのだが、なにか分かるか?)


 ダルク様はそう尋ねるのだが、馬鹿とは無縁な獣人界の孔明としての実力を見せる時が来たようだ。


(密閉された空間で使わないことですよね。)

(ふむ、正解だ。そのような空間だと火魔法が使えなくなり、それと同時に命を落とすこともある。そうでなくとも閉ざされた空間で火魔法を使うと、周りへの被害が大きくなるからあまりお勧めはせんがな。)


 その台詞はテントで幼気な少年に火魔法を放った過去の自分に言って欲しいのだが、ダルク様は素知らぬ顔で話を続けるらしい。


(最後は風か。この属性は、火と違い他を活かすことに長けた魔法を使える。攻撃でいえば、剣の威力を補助できるし、弓の命中精度を上げることもできる。防御ならば威力を殺したり軌道を反らしたりだ。)


 こうして改めて話を聞くと、各属性によって見事に特徴が異なるものだ。


 光属性は妨害特化。光という性質上躱すのが難しく防ぐ手段も乏しいが、殺傷力はない。

 火属性は攻撃特化。ただそれだけで殺傷能力を持つが、防御には向かない。

 風属性は補助特化。他と組み合わせることで威力を発揮し、用途も広い。


●●●●●


 座学によって魔法を学んだ後は実技練習をするらしく、言われたままに木が少ない開けた場所へと移動した。


(それでは戦うぞ。)

(いや、何でそうなるんですか!?)


 ダルク様は俺と距離を取って向かい合うと、何気ない調子でそう告げた。


 ここに向かう前に魔法の練習をすると言っていたのに、何故戦うことになるのだろうか。

 まるで意味が分からない様子の俺に対して、彼は呆れたような顔をした。


(ただ魔法を放つだけでは役に立たん。大事なのはその魔法をどういう状況で使うかだし、自分はその魔法に対してどう対処すればいいのかということだ。それと俺との実戦でスキルを使うのは禁止する。)

(駄目なんですか!?)

(当たり前だ。戦いの恐怖を知れ、痛みを知れ。スキルを使って安全圏から戦うことに慣れていると、いざという時に何もできんぞ。)


 ダルク様はそれだけを告げると、俺の返事を待たずに火矢を大量に出現させた。


 視界は今轟々と燃え盛る数え切れぬ程の炎で埋め尽くされており、それらを防ぎ切ることなど出来るはずもない。

 抵抗しても苦しみ、抵抗しなくても苦しむ、そのような絶望的な未来を悟る中、俺はそっと覚悟を決めるのだった。


さようならセイランス。

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