53.彼は学ぶ。(2)
魔法の属性だが、人族が使えるものは基本的に、光、火、風、水、土、空、聖の7つだ。
これに加えて妖人の場合は雷属性、魔人の場合は重属性を使える者がいる。
このうち、空、聖、雷、重は必ずシングルになるそうだ。
シングルということはつまりそれだけ他の属性とは魔力の質が異なっているということであり、それ故に圧倒的に適応者が少ない。
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(ダルク様、よろしくお願いします。)
外は太陽が照り、虫や動物たちの鳴き声による大合唱が披露されているはずなのだが、まるで隔離された空間の如く静かな雰囲気が漂うテントの中で、俺はダルク様と相対していた。
無論ダルク様に鍛えて欲しいと申し出た俺としては願いが叶ったことになるのだが、果たして願いが叶うとはもう少し幸せな気持ちになれるものではなかっただろうか。
あるいは幸せに気付いていないだけという可能性も考慮しながら、彼の話を聞いていた。
(あぁ、今日は魔法の概論的なことについて話をするか。セイランス、魔法はどこで習った?)
(住んでいた集落で魔法を教わっていたのと、最近は妖精達に幻影魔法で魔法を見せてもらいながら習得していました。)
(ふむ、なるほどな。結論から言うが今お前が使っているものは旧式魔法だ。トリガーを唱え、その後にイメージを補助するための詠唱を行っているだろう。それに対して今一般的に普及しているのは新式魔法だ。戦闘中に俺が使っていたものがそうだな。)
確かに俺とは違う詠唱を行っていたのだが、あれは魔人特有の魔法でも何でもなかったようだ。
改めて考えてみればアルセムの大魔窟が完全に塞がってから数百年経つのだから、その間に魔法が進歩していてもおかしくはない。
前世でいえば江戸時代と平成時代くらい隔たりがあるのだ。
(昔はお前のように魔法を使っていたが、ある者がこう提唱したのだ。必ずトリガーを唱えなければならないのなら、魔法の現象にトリガーを入れた名称を付けてしまえばいい、と。そうして生まれたのが新式魔法だ。)
(確かにそれならトリガーとイメージの補助を兼ね備えた短くて効率的な詠唱になりますね。)
(あぁ、それに現象に名前を付けることによって魔法の規格化が進んだとも言える。ただ、もちろん旧式魔法が使われなくなったわけではない。規格化されていないものや大きな補助が必要な時には役に立つし、旧式魔法でイメージがしっかりとできている者にこそ新式魔法は上手く扱える。)
言葉として発音した場合、風精はエアロ、火精はフレイム、土精はアース、水精はアクア、光精はライト、聖精はキュア、空精はスペースと呼ぶ。
つまりこれらに言葉を付け足して現象を定義することで、魔法として成立させたのだろう。
新式魔法は旧式魔法の上位互換ではなくお互いに一長一短だが、利便性では新式魔法の方が優れているからそちらが主流になっているらしい。
今まで当たり前のように使っていた魔法が旧式として扱われているという事実に少なからず衝撃を受けていたのだが、それが常識であるダルク様は既に次の話題へと移ろうとしていた。
(ところでセイランス、魔法の持続時間について考えたことはあるか?)
(いえ、あまりないですね。現象毎に感覚的に行っています。)
(まぁ、そうだろうな。我々は魔法の現象をイメージする際に形や規模以外に、持続時間に関しても無意識のうちに触れている。何が言いたいのかというと、魔法は色々と指定できる要素があるということだ。)
(そういえば、キリカさんは半永続的に空精でマーキングしているんでしたね。)
ダルク様の話を聞いて、キリカさんが言っていたことを思い出した。
(そうだ。魔法を使う際の現象は俺達のイメージに準拠するのだから、それ次第で融通が効くのだ。キリカの例で言えば、その場限りではなく持続的に魔力を捧げるというイメージを加えることで、半永続的という時間指定を実現している。他にも、精霊を介してその現象を操作する、というイメージを加えることでコントロールが実現できる。この場合のポイントは精霊を介して、というところだな。人に現象は操れないのだから、自分で動かすというイメージにしてしまうと実現不可能だ。)
魔法はイメージを伝えた後に精霊が現象を起こすのだから、発動後にタイミングを調整したり目標を変更したりはできないと思っていたのだが、それもイメージ次第ということらしい。
妖精樹で魔法を学び随分と詳しくなったつもりでいたのだが、やはりまだまだ未熟のようだ。
だが別の解釈をするのであれば、俺の魔法にもまだまだ発展の余地があるということなのだろう。
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───ビクッ
時刻は深夜、日中の疲れによって熟睡していた俺は、突然獣耳が反応したことにより目を覚ました。
普段であればすぐにその場を離れたのかもしれないが、魔王やその配下達が近くにいるという安心感が判断を一瞬遅らせた。
無防備な腹部に蹴られたような衝撃と痛みを感じた俺は、思わず呻き声を上げる。
(話にならん。)
ようやく思考が追いついて周囲を探ると、そこにいたのは安心感を抱かせていたはずのダルク様だった。
(ダルク様、一体何をしているんでしょうか。信頼していたのに、正直落ち込みそうです。)
(信頼と油断は違うぞ、セイランス。寝ていて襲われた時の訓練に決まっているだろう。お前、危険を察知できる能力がありながらなんてざまだ。)
(そんなことを言われましても、まさかここで襲われるとは思いませんでした。)
幼気な少年の信頼を裏切ったダルク様が呆れるように放つ言葉にそう反論したのだが、彼は冷静に返すだけだった。
(俺の価値観を押し付けたいわけではないが、まさか思わなかったという言い訳はやめておけ。世の中どのようなことでも起こり得る。第一、俺の話を聞いていなかったのか?そこら辺にいる国王の話を欠伸しながら聞けるようにしてやると言ったのだ。これくらいは軽く対処できんと夢のまた夢だぞ。)
確かに言っていたかもしれないが、そのような夢を自主的に抱いたことはない気がするのだ。
無論それを面と向かって言えるはずもないため、俺はこの瞬間から国王の前で欠伸をするという無駄に壮大な夢を持つことになるのだった。
(今後も似たようなことがあると思え。例えどんなに安全だと思う場所でも、耳が反応したならば迷うな。お前には暗殺の対処法も叩き込んでやる。幸い俺は暗殺される側の経験が豊富だ。)
(それは、魔王だからでしょうか。)
(そうだ。俺を邪魔に思う者は存外に多い。そういった話を抜きにしても、万全の状態から始まる戦いばかりではないのだからな。)
そう告げると、ダルク様は去っていった。
ダルク「最初は軽めにしておくか。」




