50.彼は交流する。(2)
テントへと転移する際に同行できないかキリカさんにこっそりと交渉してみたり、それがグレイシアさんにバレて怒られたりしている間に、時間はすっかりと昼になっていた。
残念なことに魔法に対する溢れんばかりの探究心を受け入れてもらうことはできなかったようだ。
昼食のために外へと出た俺の視界には、少し不思議な光景が広がっていた。
机の上には食事が置いてあり、その側にダルク様、グレイシアさん、キリカさん、そして初めて見る男性が2人居るところまでは問題ないのだ。
だが、彼らは何故そう遠くないところに魔物が存在しているにも関わらず、全く警戒をしていないのだろうか。
しばらく呆然としていたのだが、いつの間にか俺へと視線が集まっていることに気が付いたため、まずは自己紹介を済ませることにした。
(えっと、改めて自己紹介をさせて頂きます。森の向こう側、トキオの集落から来ましたセイランスです。この度はダルク様、グレイシアさんに助けて頂きました。よろしくお願いします。)
(話は聞いているよ。僕の名前はジェド・バートンって言うんだ。よろしくね。)
(よろしく頼む。レックス・ギャレットだ。)
頭を下げた俺に対して、初対面の男性達がそれぞれ返事をしてくれた。
ジェドさんはまだ若いのだろうか、身長はあまり高くなくあどけない顔の美少年といった印象だ。
一方でレックスさんは身長が2m近くありそうな巨体で、服に覆われていない箇所からは屈強な肉体が見て取れた。
俺は挨拶が済んだタイミングを見計らって、今しがた疑問に感じたことをそのまま告げてみる。
(そこに魔物が居るんですが、対処しなくても大丈夫なんでしょうか。)
(あぁ、大丈夫だよ。ダルクさんの光魔法で僕達のことなんて見えていないからね。)
そう言われて確認してみれば、確かに魔物がこちらを見ても俺たちの存在に気付いている様子は無かった。
事情は理解できたのだが、魔王様が光属性を持っているというのはそれで良いのだろうか。
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10年越しの調味料をふんだんに使用した料理だったため、皆が凝視する中満面の笑みで食事を済ませた俺は、彼らとの交流を図るべく食後の歓談に興じていた。
(あははは。ダルク様を投げ飛ばしたって、面白すぎるや。セイランスくんは大物かもしれないねぇ。)
(あの時は俺もつい興奮してしまってな。確かに今思えば無茶な要求をしたかもしれん。)
(表面上怪我が治っているように見えても、数日経過を見るまでは安心できません。ダルク様、本当に気をつけて下さい。)
眉根を寄せてダルク様に苦言を呈するグレイシアさんを、心の中で盛大に応援したいと思うのだ。
短い時間しか接していないのだが、彼らは魔王とその側近達とは思えない程に友好的だ。
だが、やはりまだ前世のイメージが付き纏っているのか、それに対してどこか疑問を持っている自分がいることにも気が付いていた。
彼らが持つ力と俺の立場を考えると、少しその気になれば幾らでも理不尽な要求をすることが出来るはずなのだ。
俺はどうしてもそのことが気になり、遂には隣に座っているレックスさんへと質問をしていた。
(あの、皆さんは俺を捕まえて研究所に送ろうだとか、見世物にしようだとか、アイドルとして食い物にしようだとか、そういったことは考えないんでしょうか。俺は珍しい種族だから、利用しようと思えば幾らでも出来ますよね?)
(最後については何を言っているのかよく分からないが、そうだな。確かにお前を利用することは出来るし、実際にそうしようとする者たちもいるだろう。だが俺たちに関して言えば、どう表現したものだろうか。お前をそうして利用したところで、別段得るものがないと答えれば分かりやすいか。)
レックスさんは質問に対して、少し考える素振りを見せてからそう返事をしてくれた。
彼の話によると皆既に十分な地位や権力、あるいは財産を持っているため、俺を利用して得られる利益には興味が無いそうだ。
つまり彼らは圧倒的とも言える余裕があるからこそ、立場を気にしない対応を取ることが出来ているのだろう。
逆に言えば、出会ったのが彼らで無ければ俺は奴隷のような人生を送っていたかもしれないということだ。
(ダルク様、グレイシアさん、本当にありがとうございました。)
(ふむ、感謝しているのならばせいぜい俺を楽しませることだな。心配せずとも昨日の約束も忘れてはおらんぞ。お前は7属性を扱えるのだから、その時はここにいる者たち総出で鍛えてやろう。同様にこれもはっきりと言っておくが、条件を満たせなかったならばお前を鍛えるために時間を割くことは決してない。)
ダルク様のその言葉を聞いて、心臓の動悸が激しくなった。
間違いない、俺は今とてつもなく大きな人生の岐路に立っているのだ。
無論俺の目的は世界を見て回ることだから、必ずしも今以上に強くなることが必要ではないし、今後強くなる機会は他にもあるかもしれない。
だがそれでも、ここで掴み取れなければ人生が窮屈なものになってしまう気がした。




