49.彼は交流する。(1)
こちら側に到着してから一夜が明け、俺は自分の置かれている状況を少し確認できた。
現在居る場所は、アルセムの大魔窟における中間層に位置しているようだ。
魔木の中を通り抜けることは実質的に不可能であるため、こちら側ではアルセムの大魔窟と言えば魔木が見えるところまでを指すのが一般的らしい。
また、現在地から一番近い街はデルムと呼ばれている。
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(始まりの街、ですか。)
グレイシアさんの診察を受けながら、俺は雑談混じりの情報収集を行っていた。
(えぇ、デルムは冒険者達からそう言われているんですよ。アルセム森にある大魔窟、アルセムの大魔窟があるために一定数いる強者と、アルセムの大魔窟のおかげで魔物が限られているという環境のため、強者から学んだり最初に狩りをしたりする場所として適しているんです。)
(そうなんですね。けど、冒険者ですか?俺が住んでいた場所では、探検者と言われていたんですが。)
(あぁ、冒険者達の中に探検者がいるんですよ。冒険者の中で特に未知の領域の探索や訪問を専門にした人達を探検者というんです。セイランスくんは彼らのアイドルでしょうね。)
どうやら只の頭脳派獣人が一転して、こちら側ではアイドルとしてやっていけるようだ。
楽曲提供をしてくれるプロデューサーはどこにいるのだろうか。
いや、サインについても考えておく必要があるだろう。
俺がアイドルになった時に備えて色々と考えている間に、グレイシアさんは診察を終えたようだった。
(はい、終わりましたよ。骨に異常はないですし身体の中で出血している箇所もありません。)
(ありがとうございます。ところでグレイシアさん、目に関するスキルを持っています?)
俺は礼を述べた後に、診察中に抱いていた疑問を口にした。
グレイシアさんは俺をパンツ一枚にして、あちらこちらを触ったり見たりしていただけなのだ。
言葉にすると何だか怪しい気がするのだが、いずれにせよ内部の出血など分かるはずがない。
(えぇ、その通りですよ。私は透視というスキルを持っています。服を着ていると少し難しいのですが、素肌ならば身体の内部の状態まで確認できるんです。)
(何とも治療に適した能力ですね。)
(えぇ、そのおかげでいつの間にか治癒魔法の使い手として名前が広まりまして・・・。ダルク様から直々にスカウトを受けて部下をやらせて頂いています。魔王様は魔物討伐を始めとして戦闘に関わることが多いですから、自分の命を預けることになる部下はご自分で選ばれているんです。他の4人の方々もだいたいそうしておられますよ。)
瀕死の重症を負っていた俺を完治させる程の腕前なのだから、ダルク様の人を見る目は相当に高かったということなのだろう。
更に魔王はダルク様を含めて全部で5人いるようなのだが、本人が提案したとはいえ容赦なく病人に攻撃する者は他にいないことを願いたい。
まだ見ぬ魔王たちに心の中で祈りを捧げていると、突如としてテントの中に新たな気配が生まれる。
本当に何もない場所から気配が生まれたため、慌ててそちらの方を見るとそこにいたのは女性だった。
美人と一口に言っても様々な種類があると思うのだが、彼女の場合はショートボブの赤い髪に少し釣り上がった目が活動的な印象を抱かせる。
黒いタイツに包まれたスラリと長い足が2本あることから、幽霊の類ではないようだ。
彼女の横には大量の荷物があり、幽霊ではないとすると考えられる可能性はそう多くなかった。
(もしかして、空間魔法の類ですか?)
(おう、その通りだぞ幻人殿。私はキリカ・オルコット、魔王さんの部下の一人だ。よろしくな。)
(キリカ!あなたは何故いつも私のテントにマーキングをしているんですか!?)
祈りを捧げた結果、他の魔王を召喚したわけではないようで何よりである。
俺は実現しようと思っても出来なかったのだが、やはり空間魔法は瞬間移動が可能らしい。
どうやらマーキングというのがキーとなっているようだったため、少し尋ねてみた。
(マーキングですか?)
(おう、目視できる範囲を越えて瞬間移動をする場合には、跳んでいきたい場所に半永続的なマーキングを施しておく必要があるんだよ。それをグレイシアのテントにやっているんだが、どうもこいつは不満らしい。)
(当たり前です!あなたはこの前も私が着替えをしている最中に転移してきたではありませんか!?)
それは確かにグレイシアさんが怒るのも納得できるのと同時に羨ましい話だ。
今度ぜひ、瞬間移動の体験という名目で同伴させてはもらえないだろうか。
無論幼気な少年にはやましい気持ちなど一切存在せず、魔法をより身に付けるために体験を伴った方が良いという理に適った理由であることをここに明記しておきたいのだ。
その後も話を聞いてみたのだが半永続的なマーキングには魔力管理が必要で、遠距離ともなると一回辺りの消費魔力量も膨大なものになるそうだ。
残念だが、俺が彼女のような遠距離移動を実現するのは諦めた方がいいだろう。




