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異世界で生きよう。  作者: 579
3.彼はこうして森を越える。
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45.彼は大魔窟を越える。(1)

 妖精の住処を旅立ってから10日目、天気は晴れだ。


 集落に居た頃とは比べ物にならないが魔物の数はまだまばらで、身の危険を感じることは少ない。

 見かける頻度は動物8割魔物2割と言ったところだろうか。

 基本的には今まで通り走って移動しているため、魔物と出会っても脚が遅ければ戦う必要はなかった。


 夜はセイルさんからもらったランタン型の魔道具を使用しており、これだけで魔物は寄ってこないから安全だ。

 ララから聞いた話によると、この魔道具はハーピー族の音魔法が込められたものらしい。

 何でも魔道具というのは記憶石と呼ばれるものと魔石がキーのようだ。


 手に入れた装備だが今の所ナイフが一番役に立っている。

 何せ、今までまともな武器を使ってこなかったのだから。

 それにいくら魔物を切っても刃こぼれせず、弱い魔物なら容易く身体の中に侵入する。

 一体何で作られたものなのだろうか。


 こんな状態がずっと続いてくれれば簡単に森の向こう側に辿り着けるのに。


●●●●●


 妖精の住処を旅立ってから20日目。天気は晴れだ。


 こうも雲ひとつない空を見ていると木陰でのんびりと昼寝をしたくなるのだが、そういうわけにもいかない。

 最近は魔物と動物を6対4の割合で見かけるようになった。

 脚の早い魔物が増えてきたため戦う機会も多い。


 俺の嫌いな魔物はアシッドラピッドだ。

 足が早い上に強酸を吐いてくる。


 全く、身体に当たってもスキルで防げるのだが万が一体内に入ったらどうするのだ。

 先程も遭遇し身体中に酸をかけられてベトベトだ。


 夜は相変わらずランタン型の魔道具を使用している。

 ただ、最近は魔物の移動する音がより近くで聞こえるようになったと思う。

 そろそろこれだけでは夜の睡眠を確保できなくなるのだろうか。


 生まれた頃から嗅いでいる匂いが妖精の住処に居た頃よりも強まった気がする。


●●●●●


 妖精の住処を旅立ってから30日目、天気は曇りだ。


 まるでどんよりとした空のように、俺の気持ちも重たくなってきている。

 何故って、動物をあまり見かけなくなってきた上に出会う魔物の多くから走って逃げられなくなったからだ。


 仕方がないから、走りながら幻影魔法を唱えて魔物の目を誤魔化しているうちに逃げるようにしている。

 立ち止まっていてはきりがない。


 夜はランタン型の魔道具では安全を確保できなくなったため、マントに身を包んで寝ている。

 たまに魔道具を無視してやってくる魔物も、俺に気付かずに通り過ぎていくようだ。

 最近は、ナイフと並んで大活躍といえるだろう。


 そろそろ動物の肉を空間収納に大量保管するようにした方がいいのかもしれない。

 何せこの調子だといずれ動物がいなくなりそうだ。


 生まれた頃から嗅いでいる匂いが一層強くなった。

 最近は鼻の効きが悪くなっている気がする。


●●●●●


 妖精の住処を旅立ってから40日目、天気は雨だ。


 視界が優れないというのに、魔物は俺を襲うのをやめてくれない。

 最近では、数百m移動すれば魔物に出会しているのではないだろうか。

 動物はもうほとんどいない。


 集団行動をしている魔物が多くなってきたため、幻影魔法で対処しきれずに立ち止まって倒さざるを得ない機会も増えてきた。


 俺が今戦っている魔物はブラックウルフ。

 個体がそれぞれ体高1mを越える上に異常なくらい素早く、魔法を使っても当てられないのだ。

 全く、勘弁してほしい。


 森にある広大な魔木が密集していることによって発生する魔物の過密地帯をアルセムの大魔窟と呼ぶから、正確にどこからがアルセムの大魔窟というわけではないのだが、そろそろそう呼んで差し支えないのかもしれない。

 魔木の匂いのせいかそれとも雨のせいか、鼻はほとんど効かなくなった。


●●●●●


 妖精の住処を旅立ってから50日目、天気は晴れだ。


 太陽の光によって地面に散らばる魔物の痕跡が照らされる。

 俺が倒した後に回収し忘れたのではなく、元からそこに存在しているのだ。

 そしてこれはそれだけ魔物の数が増えたことを意味する。


 最近は昼食も走りながら摂ることが多くなった。

 魔物の数が多すぎて立ち止まって食事をする余裕さえないのだ。

 そればかりか、特殊な魔物や強力な魔物が増えてきたせいで距離を稼ぐことそのものが辛くなってきている。


 例えば先程絡まれていた魔物の名前はスティックスパイダー。

 糸で獲物を拘束する習性を持つが、糸は粘弾性に優れているため力技では外せないから火魔法を使う必要がある。

 だが、火魔法を使って糸を振り払ってもまた新しい糸がすぐに絡みついてくるため、いくら魔力の回復が早いといっても限界がある。


 俺に取れる手段は、いつぞやの様に火魔法で身を包み糸に囚われないようにした上で短期決戦を仕掛けることだ。

 

 食事を立ち止まって食べられないくらいだから、夜も睡眠時間が減ってきた。

 魔物の数が多すぎてランタン型の魔道具はもはや焼け石に水だし、マントに身を包んでいても襲われる機会が出てきた。

 最後に頼りになるのはやはり獣耳のようだ。


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