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異世界で生きよう。  作者: 579
3.彼はこうして森を越える。
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43.彼は装備を得る。

 妖精達の元を訪れてからさらに時が経ち、俺は最終段階として実戦を積んでいた。


『ビクッ!』


 森の中を歩いていると獣耳が反応する。

 耳に神経を集中させるのだが、何も聞こえてこない。


 だが獣耳が反応したからには間違いなく何か来るはずだ。

 やがて段々と体を引きずるような音と共に、蛇のような魔物が現れた。


(セイランス、あの魔物は?)

(パラライズスネーク。体格が小柄だから見つかりにくくて、地を這って移動するから音も響きづらい。暗闇でも正確な移動が可能で気づかれないまま相手に噛みつき麻痺毒を流し込む。夜に会ったら厄介だね。この魔物のもう1つの特徴は麻痺毒を霧状に射出可能なこと。)


 肩に乗っているララに尋ねられたため、記憶していることを答える。

 そして、パラライズスネークを倒すための行動に移った。


「土精よ、四方の壁で道を塞げ」


 地面に手を付きながらそう唱えると、パラライズスネークの四方に土の壁が現れ動きを封じた。

 毒霧を吹かれないように遠距離から仕留めるのがいいだろう。


「火精よ、我が敵を焼き尽くせ」


 詠唱に呼応するように、土壁の中で火が燃えてパラライズスネークの悲鳴が上がる。

 用心して1分ほど待った後、土壁を崩すと中には灰と魔石、そして牙が落ちていた。


(ちゃんと魔物の特徴を理解できているようね。これならアルセムの大魔窟で対処法が分からずに不意打ちされることも少ないと思うわ。)


 魔物を倒し終わった後、肩の上に座っている小さな先生から満足そうにそう言われた。


(魔物の特徴を掴んだ後だと、こんなに安定して倒せるんだね。今のパラライズスネーク、もしもここに来るまでに会っていたらと思うとゾッとするよ。)


 余裕でここまで来られたと思っていたのは自分だけで、案外綱渡りをしていたのかもしれない。


●●●●●


 妖精の住処に戻った後、俺はララと今後の話をする。


(ララ、俺は後どれくらいでアルセムの大魔窟に挑めると思う?)

(確実に、というのなら一生かかっても無理ね。)

(それは確かに。)


 俺がどれだけ鍛えようが、数百年間人の行き来を途絶えさせている大魔窟の脅威がなくなるわけではない。

 まして中心部の様子はララとて分からないのだから、どこまでいっても憶測でしかないだろう。


(けれど、私にできる範囲という意味なら、もうそろそろ教えられることは無くなってきているわ。私が知っている魔物は全て幻影魔法であんたに伝えたし、人族が使う魔法も見せたもの。そしてあんた自身魔物の知識は身につけられているし、戦闘中に動きながら魔法を使えるようになったじゃない。)


 つまりここを旅立つ日も近いということだろうか。

 だが、彼女に挙げられた問題の2つはいいとしてまだ最後の1つが解決していなかった。


(となると、後の問題は装備をどうするかだね。)


 やはり、ここはスキルだけでアルセムの大魔窟に挑むしかないのだろうか。

 俺が頭を悩ませていると、ララはキョトンとした顔をして告げる。


(何言ってんの?装備なら既にあるわよ。私は3つ問題点を挙げた上であんたに協力するって言ったのよ。装備もその中に含まれているに決まっているじゃない。)

(いやでも・・・)


 妖精達の中に装備を作れる者はいないはずだ。

 首を傾げ続ける俺に、実物を見せるからと言って彼女は花畑の中を進んでいった。


 未だに状況をよく理解できていない俺がララの後を追って進むと、花畑の中でも特に花が密集しているところへと辿り着いた。

 この辺りは普段視界に入っていても来ない場所だ。


(ここをよく覗いてご覧なさい。)


 彼女に言われるままに花が密集している場所を覗くと、そこには何故か装備が埋もれていた。

 一体どうして花畑の中に装備があるのだろうか。

 俺が不思議に思っていると、彼女は説明を始める。


(これはね、簡単に言うと探検者達の遺品よ。よく考えてみたら分かるけど、アルセムの大魔窟を越えようとした彼らが全て無事だったわけじゃない。むしろ、越えられたのはほんの一握りなのよ。)

(つまり、この装備達は越えることができなかった探検者達のものってことだよね。でも、どうしてそれがここにあるの?)


 越えられなかったのだから、遺品というのはアルセムの大魔窟にあるはずだ。

 その先にあるここに存在するはずがない。


(正確には、これはアルセムの大魔窟を越えてきた探検者達の仲間の遺品よ。まさか遺体を運ぶことなんてできないし、代わりに装備を運んだらしいわ。そして、この花畑の中で眠らせてほしいと言って置いていったものなの。)

(えっと、だとするなら俺がもらうわけにはいかないよ。探検者達はお墓代わりに、この花畑に仲間の遺品を置いていったってことでしょ?)

(確かにそうね。だけど私はこのまま花畑に埋もれているよりも、あんたが使った方が装備の持ち主達も嬉しいと思う。だってそうでしょ?あんたと一緒にいれば、アルセムの大魔窟にリベンジできるんだから。探検者ってそういう馬鹿ばっかりなのよ・・・。)


 未知の領域を発見し訪れることに生きがいを感じる馬鹿達・・・か。

 ある意味において、森を越えて向こう側に行こうとしている俺も彼らと同じ馬鹿なのだろう。


(つまり、馬鹿同士仲良く出来るんじゃないかってことだよね。)

(えぇ、その通りよ。)


 いや、そこは否定するか、せめて少し躊躇してもらえないだろうか。

 俺は装備の前で手を合わせると、静かに告げた。


「俺は前世で、ただ流されるままに生きて日々を過ごし、そしてあっけなく死にました。だからセイランスとしての今生では、色んな物を見て触れて経験したいと思っています。どうかあなた達の力を貸してください。代わりに俺はあなた達を色んな所に連れていきます。」


 俺はそれだけ言うと、花畑の中に手を入れて綺麗な色をした革鎧を取り出した。

 色は緑で鱗のようなものが付いているが、まるでプラスティックのように軽い鎧だ。


(何を言っていたのか分からないけど、もう一度旅が出来るなら彼らも歓迎すると思うわ。それすごく軽いでしょ。そこのナイフで思い切り刺してみて。)


 俺は言われるままに、黒い鞘に入っているナイフを拾った。

 鞘を取ると銀色の刃が現れるのだが、少なくとも数百年間そのままだったはずなのに全く錆びていない。


 俺は不思議に思いながらもナイフを逆手に持ち、革鎧に向けて思い切り突き刺す。


『ポスッ』


 すると、気の抜けた音がしてナイフが止まった。


 俺は今思い切りナイフを振り下ろしたというのに、突き刺された所は傷1つ付いていない。

 いや、ただ硬いだけの鎧ならもっと鋭い音がするはずだから、この鎧は衝撃をも吸収しているらしい。


 腰に手を当て身体を反らせて自慢する彼女を尻目に、他の装備にも目を向けると黒いマントがあった。


(それはあんたが大魔窟で休む時にきっと役立つものよ。今度はナイフで軽く突いてみなさい。)

「へ?」


 言う通りにしてみた後間抜けな声を出す俺の手には、そこにあるはずのマントがなかった。

 いや、手に持っている感触はあるからそこに存在しているのは確かなのだが全く見えないのだ。

 一体何がどうなっているのだろうか。


(すごいでしょ。そのマントは傷つきそうになると、色が変化して周りの風景と同化するのよ。)


 これはいわゆる保護色というやつだろうか。

 それもとてつもなく性能の高いものだ。


(これを常に使っていれば魔物に一切気付かれないってこと?)

(そんな都合良くはないわね。傷つけようとする加減によって風景と同化する時間が変わるけど持続時間には限度があるし、同化していた時間に応じてしばらく使用できなくなるみたい。)


 そううまくはいかないみたいだが、確かにこれに包まって寝ていれば魔物に見つからなくて済む。

 これと魔道具を組み合わせたなら睡眠時の安全性は格段に向上するだろう。


 マントの興奮覚めやらぬままに、俺は最後に残っている茶色い靴を手に取った。

 軽く四方から眺めるが特に変わった点は見当たらない。


(これは普通の靴?)

(いえ、違うわ。履いた後あそこにある岩に登ってみて。)


 ララが指さした岩は高さ1m程だ。


 靴を履いた後岩の前まで行き、側面に片足をかけた。

 そのままもう片足を持ち上げて勢いのまま登りきろうとすると


(はい、そこで止まって!)


 止まれと言われてもこんな中途半端なところで止まったら普通に地面に足が・・・つかない?

 何故か、俺は両足を岩の側面に乗せた状態で静止出来ている。


(これがその靴の力よ。)


 ニヤリと笑うララを見ながら、この靴の性能について考える。

 確かヤモリのような動物は垂直な壁でも登ることができたはずだ。

 もしかしたらこの靴もそれと同じような性質を持っているのだろうか。


(どれも不思議な力を持った装備ばかりだね。)

(人族はそうやって魔物の素材を加工して優秀な装備として使うそうよ。)


 森の向こう側では、魔物から得られるものが生活に大きな影響を与えているのだろう。

 魔物は危険な存在だが、かといっていなくなったらそれはそれで文明が大きく後退しそうだ。


 俺が全ての装備を身に着けて佇むと、ララは満足そうに頷いた。


(うん。悪くないわね。) 


 これで3つ目の問題も解決した。

 後は実際にアルセムの大魔窟に挑戦するばかりだろう。

 笑顔のララを見ながら、俺はここを発つ日が近いことを予期していた。


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