42.彼は妖精の力に触れる。
妖精達の住処に訪れてからしばらく時が経った。
俺は毎日妖精達の幻影魔法で魔物の知識を身につけ、他人の魔法を見てイメージを鍛えている。
最近ではいくつかの戦闘魔法を、激しく動きながらもイメージ通りに発動できるようになった。
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昼食後しばらくゆっくりする時間があったため、俺は花畑で寝転んでいた。
快晴の下一面の花畑が広がりそこには妖精達がふわふわと飛んでいる。
何とも幻想的な光景で、思わず夢の世界へと誘われそうになる。
穏やかに流れる風を感じていると、ふとあることに気が付いた。
これだけ綺麗な花畑が広がっているのだから妖精達は皆強いのではないだろうか。
ここには魔物がいるのだから普通花畑なんて踏み荒らされているだろう。
それにここに来てからというもの、魔物が襲ってきたことなど一度もない。
妖精樹とその周りは終始穏やかだ。
花畑で飛んでいる妖精たちを凝視してみる。
そうやって考えた後で見てみると確かに力強さが・・・やっぱりない。
そこから視線を遠くに移してみると、花畑から離れている妖精たちがポツン、ポツンといることに気が付いた。
もしかして妖精社会にも仲間外れという概念があるのだろうか。
かわいい見た目をしてまさか陰湿などと、子供の夢を壊す展開は遠慮してもらいたいところだ。
よく見ると彼らの内の1人は、俺に最初に話しかけてくれたかわいい系妖精のミゲルだった。
俺は身体を起こして彼へと近付いていく。
(ミゲル、もしかして仲間外れなの?)
(へ?)
近付いてくる俺に気づいていなかったのか、ミゲルは驚いたようにこちらを見た。
(いや、皆花畑にいるのにミゲルはこんなところにいるからさ。もしかして、仲間はずれにされているんじゃないかと思って・・・。)
(あはは。そうじゃないよ。今は僕が第2防衛ラインの担当なんだ。)
(第2防衛ライン?)
(そ。君も知っての通りこの周辺には魔物がいるからね。動物ももちろんそうだけど、僕達の住処、特に生命線である妖精樹に近付かせないように防衛ラインがあるんだよ。)
通りで花畑が穏やかなわけだ。
そう言えば、俺に幻影を見せてくれる妖精達は毎日違っていた。
(第2ってことは、第1もあるの?)
(あるよ。第1防衛ラインはここからさらに離れているね。そこでは近くを通りそうな動物や魔物に対して幻影魔法をかけて、ここ一帯がただの森の風景に見えるようにしているんだよ。)
どうやら俺は第一防衛ラインを担当していたララに幻影魔法をかけられたらしい。
(俺の場合はララの案内があったからよかったけど、第1防衛ラインの幻影魔法を突破してここに近付いてくる生物がいたら、第2防衛ラインの出番ってことだね。)
(そういうこと。ここでは、それ以上近付けなくなるような幻影を見せるんだよ。こんな感じだね。)
『ヴィルヴァ、グル゛レィア ド レリ゛ネ』
「うわっ!?」
風景が突然変化して、花畑や妖精樹の方向が奈落のように深くて暗い闇に覆われた。
入ったら光を全て奪われて二度と戻ってこられない気がする。
(ミゲル、分かったからもう解いて!これ精神的に辛いから!)
(幻影だし大丈夫だよ。せっかくだから自分で解いてみるといいね。その闇が幻影であることを認識して、頭の中で否定するんだ。)
そんなことを言われても困るのだが、どうやら本当に自分で解除しなければならないらしい。
この闇は幻、この闇は幻。
この先には妖精樹と綺麗な花畑が広がっていて、そこでは妖精達が飛び回っている幻想的な光景が広がっている。
この闇は幻だ。
俺が強く脳に働きかけていると、奈落のような暗闇が揺らぎ出しついには元の光景に戻った。
(ね、解除できたでしょ。幻影魔法ってすごく強力なんだけど、人族みたいに頭が発達していると脆い所があるみたい。単純な動物や魔物相手には効果抜群だけどね。)
だから獣耳の反応により周囲を警戒して疑っていた俺の目には、ララの幻影魔法による景色に揺らぎを見ることができたわけだ。
だが、その後ははっきりと疑っていたのに幻影魔法が解けなかった以上、彼女はかなりの実力者なのかもしれない。
(でもさ、この第2防衛ラインも突破されたら?妖精族って幻影魔法しか使えないから攻撃手段はないよね。)
(うーん。その認識は半分正解で半分外れかな。確かに幻影魔法しか使えないけど、幻影魔法に殺傷力がまるでないわけじゃない。)
どういうことだろうかと首を傾げていると、彼は話を続ける。
(ここを突破されたら最終防衛として共鳴魔法を使うんだよ。亜人の奥義ってところかな。亜人の場合は魔力の質が皆均一だから、第2防衛ラインを突破されたら、僕達の力を合わせて強力な幻影魔法を使うんだ。)
(もしかして、幻影が相手の肉体にも影響を及ぼすみたいな?)
(お、よくわかるね。正解だよ。)
熱くないものでも熱いと思って触ったら、火傷をするといった話を聞いたことがある。
(共鳴魔法を使えば、強力な魔物でもだいたい死んじゃうね。だって頭に直接影響を及ぼしているから、身体がどんなに頑丈でも力がどんなに強くても関係がないもの。)
彼は無邪気な笑顔でそう言う。
もしかして、幻影魔法は俺のスキルの天敵ではないだろうか。
花畑の方を見ると、相変わらず幻想的な光景で妖精達が飛んでいる。
だが彼らはその気になれば俺を容易く殺すことができるのだ。
そう考えると少し背筋が寒くなってきた。
(亜人って特定の食べ物を食べていないと生きられないし、その周囲から離れられないから、か弱いイメージだったけど強いんだね。)
(まぁ、逆に言えばそこを守って生きていかなきゃいけないからね。力が全くなかったらとっくに滅んじゃっているよ。)
もっともな意見だ。
俺は妖精族から、見た目に惑わされない大切さを学んだ気がした。
美しい花には棘があります。




