40.彼は妖精の住処に向かう。
こうして妖精の住処へと向かうことになったのだが、冷静になってみると疑問が湧いてくる。
(ララ、妖精の住処ってどこに・・・)
俺がそう尋ねようとした瞬間に前を飛んでいたはずのララが姿を消した。
俺が戸惑っていると、ただ森が続いているだけの風景から彼女が再び姿を現す。
(ちょっとセイランス、何やっているのよ。早く来て。)
ララは当たり前のようにそう言ってまた姿を消す。
覚悟を決めて先に進むと、突如として遠くに花畑が広がり、色取り取りの実が成った巨大な木が見えるのが分かった。
まるで違う場所へと瞬間移動したような光景なのだが、一体何がどうなっているのだろうか。
(ララ・・・景色が変わった。)
(あぁ、忘れていたわ。あんたに幻影魔法がかかったままだったのね。)
俺の驚きに対して、彼女は何事かを思い出すとそう言った。
どうやら、俺は魔法にかけられて謎の現象に遭遇していたらしい。
(幻影魔法?)
(そ。あんたに幻影魔法をかけたんだけど、どういうわけか疑問を持たれちゃって景色が揺らいだみたい。で、あんたに怪しまれて石を投げつけられたわけね。完全に解けたわけじゃないのを忘れていたわ。)
つまり、遠くに見える花畑も巨大な木も最初からそこに存在していたが、幻影魔法をかけられていたためにただ森が広がっているようにしか見えなかったということだろうか。
ララの後を追って奥へと進んでいくと、やがて妖精が性別問わずに何十人といるのが見えた。
好奇心、警戒心、敵対心・・・彼らから向けられる視線には様々なものが含まれているのが分かる。
(人族?どうしてここに・・・。)
(まさか俺達を捕まえに来たのか?)
(そんな・・・。ここに人族はもうやってこないはずでしょう?アルセムの大魔窟が数百年前に道を完全に塞いだんじゃないの?)
俺の姿を見て、彼らは口々に言葉を発する。
妖精達のざわめきが続く中、ララは手を叩いて注目を集めた。
(皆、今日からしばらくここで暮らすセイランスよ。悪いやつじゃないのは私が保障するから安心して。セイランス、皆に何か一言どうぞ。)
(ひ、ひとこと?)
先程から驚きと新発見続きだった俺は、いきなりララから話を振られて一瞬思考が停止してしまう。
そして何を思ったのか、次の瞬間にはよく分からないことを口走っていた。
(料理にする?お風呂にする?それとも私?)
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困惑しながらも、彼らが選んだのは2番目のお風呂だった。
何せ1番目は妖精樹の実を食べるのだから、俺が用意できるはずもない。
そして3番目に至っては、むしろその私を受け入れてもらうために自己紹介をしていたのだ。
彼らは色々な意味で訳が分からなかったことだろう。
さて、肝心のお風呂はといえば、土魔法で岩の中心に大きな穴を開け、水魔法でお湯をはった後香りの良い薬草を投入して作成した。
(あー。何これ、すごく気持ちいいわ。体が適度に暖まるっていうか。)
おじさんのような声を出すララからも分かる通り、どうやらお風呂自体は大成功だったらしい。
彼女の声を聞きながら先程の自分の思考を思い返す。
そう、妖精達の一部から警戒心を向けられているのを理解して、思考停止しているなりに何か友好を深められることをしようと思ったのだ。
そして俺は元日本人、友好を深める手段としてお風呂が真っ先に思い浮かび咄嗟に口をつくのは自然なことだろう。
つまり、お風呂と深い結びつきのある料理と私を同時に薦めていたとしてもそれは仕方がないことだったのだ。
三段論法で自分を納得させていると、妖精の一人がこちらへと話しかけてきた。
(いやぁ、君にはすっかり毒気を抜かれちゃったね。最初は警戒していたんだけど、あまりにも訳が分からなさ過ぎて唖然としている内に警戒心がどこかにいっちゃったよ。)
やはり多くの男性を惹きつけてやまない魅力的な言葉は、その効果は違えど異世界でも大活躍するようだ。
俺は警戒心がどこかへいってしまったという彼に、気になっていたことを質問する。
(ところで、どうしてそうも警戒していたの?)
(いやね、僕はアルセムの大魔窟が塞がった後だから直接人族に会うのは君が初めてなんだけど、彼らの中には僕達を利用しようとする人もいるらしいんだよ。ほら、僕達って妖精樹が生命線じゃない。)
なるほど、そういうこともあるようだ。
確かに妖精樹の実がなければ生きていけないのだから、最高の脅し文句になることだろう。
いつの世も怖いのは人なのです。




