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異世界で生きよう。  作者: 579
3.彼はこうして森を越える。
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39.彼は知る(2)。

(名探偵ララさん、どうして俺の故郷に魔物がほとんど現れないって分かったの?)

(何よ、めいたんていララって・・・。何言っているか訳分かんないけど、ここから遠い場所ならちょうど魔木の効果範囲で匂いの薄い所にいたんじゃないかと思ったのよ。)


 今度は俺が何を言っているのか訳が分からない。

 魔木の効果範囲や匂いという言葉に首を傾げていると、彼女は俺に質問をしてきた。


(あんた、ここに来るまでに何か匂いに変化を感じなかった?獣人なんだから鼻は鋭いわよね。)


 そういえば、この世界に生まれた時から慣れ親しんでいた匂いが濃くなっている気がする。

 最初からそうだったから気にも留めていなかったが、何かあるのだろうか。


(言われてみると、故郷で慣れ親しんでいた匂いが濃くなっているね。)

(やっぱり、それは魔木の匂いよ。魔木っていうのは自分の繁殖のために動物を引き寄せる匂いを放つのよ。で、動物に自分の実を食べてもらって糞に混じった種が成長して繁殖していくのね。)


 魔木という物騒な名前はさておき、動物を利用するというのは別段珍しい繁殖方法ではない。


(動物は魔木が発する匂いを嗅ぐと引き寄せられていくんだけど、魔木の近くならともかく遠く離れると匂いは薄いわ。けど、匂いが薄くてもかぎ続ければいずれは影響が出てくる。)

(つまり、匂いが薄い所でも年を重ねていくと動物はいずれ魔木に引き寄せられていくってこと?)

(そういうこと。魔物になるのは年月を経た動物だから、遠いところまで魔木の匂いが及ぶ場合はそこに魔物がいなくなるのよ。若い動物ばかり残るからね。つまり、魔木の匂いの範囲内では離れるほど魔物がいない代わりに、近付くほど魔物が密集していくわけ。)


 だからここ最近の間に魔物に遭遇し始めたのか。

 匂いが濃くなってきたということは魔木とやらが近いのだろう。


(魔木って物騒な名前だけど、魔物を狭い範囲に集めてくれているんだからそんなに悪い植物じゃなさそうだね。)

(ん、そういう考え方もあるかもね。でも魔木の周辺は魔物が密集しているから近付けなくなるし、もしも魔木が何らかの事情でなくなっちゃった場合そこにいた魔物達が一斉に散らばるから恐ろしいことになると思うわよ。)


 確かに言われてみるとそうだ。


 ようは、押入れの中に部屋の中のゴミを全て閉まっているような状態なのだろう。

 部屋の中は綺麗になるが家からゴミが無くなるわけではないし、押入れが開けば溜まったゴミが一斉に雪崩れ込む。


 俺が納得しているとララはさらに話を続けた。


(それに、アルセムの大魔窟みたいにとんでもない規模で魔木が成長、繁殖してしまうと密集した魔物たちが道を完全に塞いでしまって実質的にそこから進めなくなるわ。)


 アルセムの大魔窟、セイルさんから聞いた言葉だ。

 セイクッドさんは近付くなと言っていたらしいが、一体どのような所なのだろう。


(ララ、アルセムの大魔窟って何?)

(ここからもうしばらく進んだ所にある魔木の密集地帯よ。この森は広大だから元々人族が深くまでやって来ること自体が難しいし、魔木の成長や繁殖を止められなかったんでしょうね。それでどんどん魔木は広範囲に渡って繁殖していって、ついには膨大な数の魔物達が道を塞いじゃったってわけ。その密集地帯が5大魔窟の一つ、アルセムの大魔窟と言われているわ。)


 彼女のその話を聞いて、俺の中で長年の謎が一気に溶けていく。


 何故俺達は孤立していたのか、何故魔物が滅多にやってこないのか、何故探検者が訪れなくなったのか、何故セイクッドさんは集落に残ることになったのか。


(つまり、アルセムの大魔窟が全ての原因・・・。俺達の集落に魔物がやってこなかったのも、こちら側とあちら側が隔てられているのも、探検者が訪れなくなったのも・・・)

(その通りよ。昔はまだ抜け道があったから探検者達が稀にこちら側にやってくることがあったけれど、それも数百年前に完全に塞がってからは途絶えたわ。)


 やはりそうか、だがそうなると新たな問題が発生することになる。

 全ての元凶であるアルセムの大魔窟を越えなければ、森の向こう側へと辿り着くことが出来ないのだ。


 俺はララに尋ねる。


(アルセムの大魔窟を超えるにはどうすればいい?)

(・・・無理ね。アルセムの大魔窟が塞がってからは誰も向こうから訪ねて来ない。これが全てを物語っているわ。)


 知識が豊富な彼女に尋ねると、あっさりと否定されてしまった。

 確かに、物資が豊富で技術力も上のはずの向こう側からこちら側にやって来られないのだから、彼女の言うことはもっともだ。


 だが、俺には魔力と引き換えにお姉さんから手に入れたスキルがある。


(確かにそうかもしれないけど、俺にはスキルがあるからどうにかなるはずだよ。)

(もしかして、さっきマッドハウンド達に噛まれても火達磨になっても無事だった能力?確かにあれはすごかったわね。木陰から見ていてびっくりしたわ。けど・・・やっぱりそれだけじゃ足りないわね。)


 そう思っていたのだが、それを含めても彼女から再度否定をされる。


(私もアルセムの大魔窟を越えたわけじゃないわ。だけど、アルセムの大魔窟を超えてきた探検者達には会ったことがある。だからこそ分かるのよ。仮にあんたのスキルがどんなに優れていても超えられない理由が。まずは1つ、装備よ。)


 そう言って彼女は皮でできた俺の服を眺めると、首を振りながら溜息を吐く。

 わざわざ手のジェスチャーまで加えているのだから、よほど酷いらしい。


(言うまでもなく話にならないわね。2つ目に魔法の未熟さよ。マッドハウンド達との戦いを見ていたけど、あんた戦闘中に激しく動きながら魔法を使えないでしょう。)


 確かに、俺は激しく動きながら魔法を使うと、消費量が大きすぎて発動しなかったりイメージとは違う挙動をしたりする。

 どうやら名探偵ともなると、一目戦いを見ただけでそこまで見抜けるようだ。


(そして最後に、魔物に対する知識の無さね。これから魔物が道を塞いでいる場所に行こうっていうのにそれじゃまず無理だわ。)


 こうして彼女の指摘を受けてみると、どれも正論だから言い返せない。

 というよりも、魔物の密集地帯を通り抜けなければならないのに、魔物の知識もなく、装備も付けず、魔法も未熟というのはもはや舐めていないだろうか。


 腕を組んで考える俺に、彼女は諭すように告げた。


(ここまで元気に来られたのだから帰れるんだろうし、故郷で幸せに暮らすといいわ。)

(分かった、それじゃあとりあえずしばらく修行することにするよ。)

(諦めたんじゃなくてそっち!?)


 彼女からそう突っ込まれるのだが、無理だから諦めろと言われて諦めるくらいならば、最初からセシルを泣かせてまでこんな所に来ていない。


(俺は世界を見て回る、これが全てだよ。)

(はぁ・・・。ここ数百年間、命懸けでアルセムの大魔窟を超えてこちら側にやって来る馬鹿を見ずにほっとしていたら、また馬鹿が現れたのね。いいわ、馬鹿には散々慣れているもの。私が付き合ってあげる。妖精の住処にいらっしゃい、セイランス。)


 その声に応じて彼女を見ると、額に手をあてながらも首を縦に振っていた。


(えっと、協力してくれるの?ララ。)

(私が協力しなかったら自力でやるっていうんでしょ。その結果アルセムの大魔窟に挑んで死ぬなんていう寝覚めの悪いことされるくらいなら、私が手伝ってあげるわよ。)


 そう言って、彼女はまっすぐにこちらを見つめてくる。

 俺はその瞳に応えるように返事をした。


(ララ・・・ありがとう。ところで、今いくつなの?)


『ゲフッ』


 小さな脚による飛び膝蹴りが俺の頬を打った。

 こんな時どういう風に返事を返せばいいのか分からなかったのだ。


名探偵ララ「私に間違いなんてないわ。」

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