33.彼は説明する。
翌日、ガイさんの家へと向かった俺は、一度深呼吸をしてからドアをノックする。
緊張している俺とは裏腹に、中からはいつもと変わらぬ調子のガイさんの声が聞こえてきた。
「開いているぞ!入ってくれ。」
彼の返事に従って中に入ると、ガイさんとアビルさんが寛いでいる。
セシルは部屋の中だろうか。
「こんにちは、セシルは部屋ですか?」
「えぇ、そうよ。あの子に用があるのね。今日も遊びにいくのだったら気をつけていってらっしゃい。」
「いえ、3人に話をしておきたいことがあります。少しお時間を頂けるでしょうか。」
「分かったわ。今セシルを呼んでくるわね。」
もしかしたら緊張が顔に現れていたのかもしれない。
俺がそう告げるとアビルさんは説明を求めることなくセシルを部屋に呼びに行き、ガイさんは机に置いていた足を床に下ろしていた。
それから間もなくして、セシルがやって来る。
「セイランスくん、どうしたの?」
「うん、ちょっと話があるんだ。とりあえず椅子に座って欲しい。」
笑顔で話しかけてくるセシルにまずは席を薦める。
俺は全員が席に着くのを待ってから、もう一度深呼吸をして話を始めた。
「実は、10歳になって独立した後のことについて説明しにきました。皆さんとは親しくさせて頂きましたから。」
「おぉ、そういやお前ももうそういう年だったな。やっぱりこの集落に住むのか?なんだったら俺達の家の近くにするといい。」
「いえ、そうじゃないんです。」
冗談のようにそう言うガイさんの言葉を否定すると、今度はセシルが口を開く。
「セイランスくん、他の集落に行っちゃうの?もしそうなら10歳になったら私もセイランスくんと同じ所にいくね。」
「お、セシルお前セイランスを追っかけるのか?」
「うん。実はね、私独立したらセイランスくんと一緒に住もうって思っていたの。」
「あら、セシルったら大胆ね。」
気づけばとても言い出し辛い展開になっているが、大事な場面というのは結局ストレートにいくしかない。
「聞いてください。母さんにはもう話をしたのですが、俺は森の向こう側に行こうと思っています。」
俺のその言葉に、最初に反応したのはガイさんだった。
彼は驚いた表情をした後すぐに厳しい表情に変わる。
「おい、森の向こう側ってお前、森を超えるのに何年かかるかも分からないんだぞ。それに森の奥に行けば魔物がうじゃうじゃいるっていう話だ。森の向こう側から戻ってきた奴なんて聞いたこともない。死にたいのか?」
「死にに行くつもりはないですよ。」
そう返事をするのだが、それでも彼の表情は固いままだ。
「そうは言ってもな・・・。あの化け物を無傷で倒したお前が強いのは分かっちゃいるが、だからといって森を超えられる保障は全くないだろ。」
「この前セイルさんのところで魔道具をもらいました。勢いだけで森を越えようとするわけじゃありませんし、小さい頃から少しずつ準備もしてきました。」
「はぁ・・・レキの集落でそんなことをしていたのか。それに小さい頃からっていうなら、意志は堅いらしい。」
彼はしばらく考えて、そして静かに告げた。
「分かった、男が覚悟持って決めたんなら俺はもうごちゃごちゃ言わねぇ。アビルも反対しねぇ、そうだろ?」
「えぇ、セイランスくんの意志を尊重するわ。ただ、危なくなったらすぐに引き返してほしいけれど。」
「・・・だがな、こいつは違うぞ。」
そう言ってセシルの方を見ると、彼女は下を向いていた。
「セシル?」
「やだ!!!行かないでセイランスくん。ずっと一緒にいようよ。」
先程から一言も言葉を発していなかったセシルに呼びかけると、返ってきたのは拒絶の言葉だった。
その言葉に心が揺れつつ、それでも彼女に返事をする。
「セシル、これはずっと前から決めていたことなんだ。俺もセシルと一緒にいるようになってからすごく楽しい。それにアビルさんは優しいし、ガイさんもちょっとだらしないけど面白いし3人のことはすごく好きだよ。」
特に彼女は前世での17年間を含めて初めて仲良くなった女の子だ。
もしも森の向こう側が簡単に行ける場所なら一緒に来て欲しいと言っていたかもしれない。
このままこの集落で過ごすのだって幸せなことなのかもしれない。
「だったらなんで!!!」
「それでも俺はこの世界を見て回りたい。諦められないんだよ。」
あの言葉が俺に訴えてくる。
君が転生することはもうない、この人生を後悔しないように生きなさい。
「そっか・・・。セイランスくんは私よりもそっちが大事なんだね。よくわかったよ。ばいばい。」
「セシル、そういうことじゃ・・」
「分かったからもう出てって!!!!」
そういうと、セシルは自分の部屋に戻ってしまった。
追いかけようとする俺の肩に、ガイさんは手を置いて止める。
「セイランス、セシルには俺から話をしてみるから今日はもう帰るといい。別にお前が間違っているわけじゃない。ここでセシルに応えてお前が残ったとしても、それはそれできっとお前に悔いが残るだろう。ただ、そうだな・・・。世の中大団円で終わらないこともあるって話だ。」
大団円で終わらないこともある・・・か。
もっとうまい言い方があったのだろうか。
この世界で初めて仲良くなったセシルとできることなら笑顔で別れたいというのは俺の欲張りすぎなのだろうか。
俺は色んなことを考えながら来た道を戻っていった。




