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異世界で生きよう。  作者: 579
2.彼はこうして異世界で育つ。
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32.彼は母親と話をする(3)。

 レキの集落を訪れてからまたしばらく時が流れ、俺は9歳になった。

 後は10歳になり二次成長が終わるのを待つだけだ。


 セイルさんからもらった魔道具だが、ランタンの本来火が着く部分に魔石を入れることで起動するようだ。

 これで魔石には2つの使い方があることがわかっている。


 1つは魔道具を使う時の燃料のようなものとして、もう1つは魔法を使う際の魔力としてだ。

 マルガリンさんに聞いたところ自分が使える属性の精霊に呼びかければ魔力を魔石に蓄えられるらしいと言われ、試したらその通りになった。


 ただし魔石は融通が聞かないところも多いようだ。

 魔力を貯めていくと透明から濃い紫色へと変化していくのだが、魔力を貯めきるまでは使用することができず、魔石に貯めた魔力で魔法を発動する場合は魔石に貯まった魔力しか使えない。

 足りない分の魔力を魔石で補うというようなことはできないようだ。


●●●●●


「これは確か飲むと鎮痛作用のある薬草か。」


 独り言を呟いている俺は、現在森で薬草収集をしている。


 治癒魔法があるとはいえ、一通りの薬草は念のために用意しておきたい。

 薬草は鎮痛作用があるもの、止血作用があるもの、解熱作用があるものなど多岐に渡る。

 当然それらを保管するには、大きな入れ物が必要になる。


「空精よ」


 俺はそう唱えてかばんの中に薬草をしまった。

 いわゆる空間収納の類だ。

 こうしてトリガーだけで発動できるようになるには試行錯誤があった。


 最初の方はそれこそ魔法が全く発動しなかったのだ。

 その時のイメージは、異空間を作り出して掌の物をそこにしまうというものだ。

 だが、そこで諦めずに俺はイメージを変えた。


 まず、異空間を作り出すのではなくその空間がすでに存在していることを前提とした。

 よくよく考えると俺は異空間で2回神様にあっており、その上魂や精霊という目には見えないシステムが存在していることも知っている。

 ということは物を仕舞えるような空間を作り出さなくてもすでに存在しているのではないかと考えたのだ。


 次に、かばんの中から出し入れするように魔法を使うことにした。

 目に見える状態で空間から物を出し入れするというのは余計なイメージが必要になる。

 その点かばんの中に手を入れるようにすれば精霊の補完を抑えられるのではないだろうか。


 この2つを取り入れて魔法を使ってみた結果が、先程使用した空間収納になる。

 使用目的を考えるとトリガーだけでの発動の方が好ましく、攻撃魔法とは違いどこでも発動できるので暇な時に練習をして今に至っている。


●●●●●


「あら、おかえりなさい。セイくん、ちょっと話をしてもいいかしら。」

「うん、かまわないよ。」


 家に帰ると母は椅子に座っており、俺にそう声をかけてきた。


「セイくん、もうじき10歳になるじゃない。前にも聞いたけどどうするのかなって思って。もうそろそろ決めているでしょう?」

「うん、決めているよ。」


 とうとうこの時が来たようだ。

 どうやって母に話そうかと思っていたのだがあちらから話を切り出してくれたらしい。

 俺は一度大きく深呼吸すると、彼女に告げた。


「母さん、俺は森を越えようと思っている。」


 母の顔をチラリと見るが、いつもとの違いはよく分からない。


「そう・・・。どうして?」

「森の向こう側には色んな人達がいるって、小さい頃に母さんに話してもらったことがあったでしょ。あの時からずっと興味があったんだ。」

「それがどういうことかは分かっているのよね?」

「うん。でも森を超える勝算はあるし、俺は死ににいくわけじゃないよ。」


 彼女は俺の方をしばらく見つめた後、溜息を一つ吐いてから言葉を繰り出した。


「・・・私としてはそうしてほしくないというのが本音ね。だけどそれと同時に、セイくんの意志を無理に曲げてまで考えを押し付けようとも思っていないわ。あなたの人生はあなたのものだもの。だから最後にもう一度だけ確認するわ。それがあなたの選んだ道なのね?」

「うん。俺の中にこれ以外の選択肢はない。」


 母の目をまっすぐに見つめてそう答える。

 これはそれこそ、この世界に生まれた直後から決めていたことなのだから。


「・・・分かったわ。あなたの思うようにしなさい。」

「自分で言っておいてなんだけど、母さんはそれでいいの?」

「いいのよ。それに、あの人の息子なんだと思えば納得もできるもの。」

「え?」


 何でそこで、滑って転んで頭を打って死んだ父が出てくるのだろうか。


「この機会だし少しあなたのお父さんの話をしましょうか。彼の名前はセイレン・ヴォルテン。」

「・・・母さん、その名前レキの集落で聞いたことがあるんだけど。」

「そうだと思うわ。だってレキから来たって言っていたもの。」


 なるほど、だからあの時レキの名前を聞いた彼女は、少し様子が違ったのか。

 

「そもそも、父さんと母さんってどういう出会いだったの?」

「昔、森の中でセイレンに助けられたのよ。かなりの数の大型動物に囲まれちゃって、危ないところだったの。そこに彼が現れて大きな武器で動物達を苦もなく一掃したわ。」


 大きな武器というのはセイクッドさんが使っていたものだろうか。

 俺達の力にちゃんとした武器の力が加わったなら、大型動物が何十体いようが相手にならないだろう。


「あの時の彼すごく格好良くて、熱くなったのよ。それで、そういう雰囲気になってその・・・。」

「う、うん。言わなくても分かるよ。」


 母が少し顔を赤くしているが、さすがに親のそういうシーンについて詳しく聞きたいとは思わない。

 そもそも、ガイさんからのアビルさん自慢で常日頃からお腹一杯なのだ。


「昔セイくんが魔物から守ってくれたことがあったでしょう。あの時思ったわ。あぁ、親子なのね・・・って。」

「そういえば、俺と父さんって似ているの?」

「そうね、面影はあるわよ。」


 今思うとセイルさんは俺がセイレンの息子だと気付いていたのかもしれない。

 それならばセイレンについて尋ねられたことも、初めて会う俺に魔道具をくれたことにも納得がいく。

 だが何故俺にそのことを告げなかったのだろうか。


 いや、セイルさんの話を聞いてなんとなく想像がつく。

 彼は自分の代でヴォルテンを終わらせると言っていた。

 きっと、俺に余計な重荷を背負わせたくなかったのだろう。


 心の中でセイルさんに感謝をしながら、俺は自然と浮かんできた疑問を口にしていた。


「父さんは森の向こう側に辿りつけたのかな。」

「そうね、見たことがない道具を一杯持っていたし辿り着けたかもしれないわね。」


 見たことがない道具というのはセイクッドさんが使っていたものだろうか。

 それを森超えに使ったのならば、向こう側に行ける可能性は確かにありそうだ。


「セイランス、あなたの今後の方針は分かったけど、セシルちゃんにはちゃんと説明をしなさいね。あの子があなたを慕っているのは知っているでしょう?」

「うん、そのつもりだよ。」


 セシルはこの世界に生まれてから初めて仲良くなった子だし、俺としても黙って出て行くのは避けたい。

 分かってくれるといいのだが・・・。


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