27.彼は確認する。
雲一つない晴天のもと、俺は手を前にかざして詠唱をする。
「闇精よ、漆黒より出でて浸食せよ」
瞬間、穏やかな風が草の匂いを運び鳥が気持ちよく鳴いているのが分かった。
これが闇魔法の効果だと言い張りたいところなのだが、残念ながらただの失敗だ。
たまに新しい属性の魔法を見つけようと、こうして試しているのだが、どうやら光属性と聖属性はあるのに闇属性は存在しないらしい。
俺はそそくさと前にかざしていた手を上に挙げ一度背伸びをして恥ずかしい呪文を無かったことにすると、家に戻ろうとしてふと視線を向けられていることに気付く。
そちらの方を向くと、そこにはセシルがいた。
「あの、セシル。一応聞いておくけどいつからいたの?」
「うーん、『邪精よ、我が右腕に宿りし戒めを解き放て』って叫んでいた辺りからだよ。セイランスくんの右腕って封印されていたんだね!」
なるほど、中盤辺りからずっと見ていたらしい。
無邪気に心を抉る彼女がここにいるのは、俺が獣耳の性能を確かめるために呼んだからだ。
あれからガイさん一家とは付き合いが続いており、特に彼女とは数日に1回のペースで会っているのではないだろうか。
俺達は10歳で独立してしまうし、一次成長の時は体の発達が著しいから1歳違うだけで体格が大きく異なり、子供同士で遊ぶ機会というのが限られている。
俺もセシルと会うまでは他の子供と共に過ごしたことがなかったから、一緒にいることを楽しんでいた。
「今日は森に行くんだよね。」
「うん。ちょっとセシルに付き合ってほしいことがあるんだ。」
「私にできることならまかせて!」
そう言って、彼女は胸をポンと叩く。
最近になり俺は1人で森に行く許可を母から得た。
セシルに関しても魔物を倒した俺と一緒ならばとガイさんが許可をくれている。
俺は家へと戻ると、母に一言告げる。
「セシルが来たから森に行ってくるね。」
「気をつけて行ってきなさい。それと私は『邪精よ、愚か者どもに悪魔の鉄槌を下せ』っていう詠唱が好きかしら。」
なるほど、無邪気じゃない場合も相応に心を抉るものらしい。
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「セイランスくん、森で一体何をするの?」
「あぁ。ちょっと実験をしたいんだ。」
森に着いた俺はセシルからの疑問に答えた。
「実験?」
「うん。頭の上の耳が、危険に反応するっていうのは知っているよね。」
「うん。パパに初めて森に連れてってもらった時に聞いたよ。」
どうやら獣耳のことは子供が森に最初に入った時に教える習慣のようだ。
ただ皆が母のような教えた方をするわけではないことを祈ろう。
百見は一験にしかずとは言うもののそれにしたってあれはひどいと思うのだ。
「俺が今日試したいのは、耳が寝ている間にも反応するかってことなんだ。」
「セイランスくん、変わったことが気になるんだね。」
「そうかもしれない。それで、もうちょっと奥に入ったところで俺は眠るから、セシルは寝ているところを木の上から見張っていて欲しい。」
獣耳はおそらく反射だろうから寝ていても反応するとは思っているのだが、さすがに万が一のことを考えると一人で実験するのは怖い。
彼女は俺の話を聞くと、首を傾げる。
「私も一緒に寝ちゃだめ?」
「うーん。危ないから木の上にいてほしいかな。」
「わかった、我慢する。」
あれからガイさんの家に泊まる機会は何度もあるが、今のところ寝る時はいつもセシルと一緒だ。
ガイさんまで一緒に寝ることについて文句を言わないのだが父親がそれでいいのだろうか。
アビルさんとイチャイチャしていないで、娘と寝たいなら俺を倒していけとくらい言って欲しいものだ。
「じゃあ、あそこの木の上で見張っていてくれる?」
森の中をしばらく進んだ後、セシルにお願いすると彼女は木を登って行き太い枝の上に座った。
この時のために一昨日から寝ていないし、正直今も瞼が重い。
早い段階で眠りに落ちるとしよう。
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『ビクッ』
俺は目を覚ますと同時に、スキルを使用した。
辺りを見回してもまだ見えないが、匂いや音で動物が近付いてきたのが分かる。
どうやら、実験は成功のようだ。
「キィィィィッ!!」
鳥のような鳴き声と共に動物が姿を現したのは、ファウリッチだ。
大きな緑の羽に、2本の力強い足、首は長く伸びているがその周径は太く、嘴は鋭く尖っている。
空を飛ぶことはできないがその分移動速度が早く高い跳躍力を持っている。
さて、どうやって仕留めたものだろうか。
セシルが見ていることだし、心配をかけないように遠距離から仕留めることにしよう。
俺はポケットから8本の爪を取り出した。
「風精よ、我が敵に八爪を突き立てろ」
魔物の爪を投擲しながらそう唱えると8本の爪は高速で敵に飛んでいき、至るところに突き刺さった。
確かに速い移動速度を持つファウリッチだが、獣人の筋力に風魔法の補助がかかった投擲では到底躱せない。
突き刺さった場所から血が吹き出すとやがて痙攣して動かなくなった。
「セイランスくん、さすがだね。」
動物が倒れたのを見届けると、セシルが木の上から降りてくる。
「魔物の爪を利用した遠距離攻撃だよ。実験に協力してくれてありがとう。」
風自体に殺傷能力はないため、少ない魔力で戦闘に用いる場合はこうして武器を投げる時の補助にするといい。
俺はファウリッチを抱えるとセシルと共に帰路に就いた。
これで睡眠中の安全は確保ができるだろうから、後はどうやって睡眠中に襲われる機会を減らすかだ。
ガイ「嫁とイチャイチャして何が悪い。」




