25.彼は流される。
長の家を出た後俺たちは、アビルさん達の家へと向かっていた。
夕飯に誘われたためだが、ガイさんの具合もしっかりと確認しておきたいところだ。
道中、アビルさんと母が会話をしながら前を歩いていたため、俺は隣を歩く少女へと話かける。
「知っている?大事なのは時間じゃない、質なんだよ。」
「よく分からないけど、セイランスくんが言うんだからきっとそうなんだね!」
・・・彼女は笑顔でそう返事をしてくれるのだが、少し言い訳をさせてもらってもいいだろうか。
そう、よく考えてみてほしいのだ。
思い返せば俺はこちら側に生まれてからというもの、少女と会話をした記憶が一切ない。
つまり、俺は少女と会話をするのに6年間のブランクがあるということだ。
ブランクが6年間もあったならば、人は以前出来た事であっても多くを忘れるものではないだろうか。
何だか母に怒られた時とは違う意味で涙が出てきそうだが、現在隣を歩く少女に楽しい話題を提供するのは果てしなくハードルが高いということだけ理解してほしい。
無論、だからといって脳内で言い訳をしているだけではなく、既にしっかりと次の話題は確保してある。
鉄板とも言えるこの話題で、ぜひ楽しい会話を繰り広げたいものだ。
「あの、ご趣味は何でしょうか。」
「うーんと、花を見るのが好きかな!」
「・・・大変良いご趣味だと思います。」
それで、どうやって趣味から話題を広げれば良かったのだろうか。
●●●●●
彼女達の家に到着したのは、集落長の家を発ってから20分程後のことだった。
「ここが私達の家よ。」
ドアを開けると俺達の家と同様の間取りが目に入る。
だが机に椅子が4つ用意されていたり台所にある食器の量が多かったりと、随所に住んでいる者の数の違いが感じられた。
「ガイさんの部屋はどちらでしょうか。」
「こちらです。セシルはこれからお手伝いしてほしいから、待っていてくれる?」
「うん!」
俺の残念な話題提供にも笑顔で答え続けてくれた彼女は、変わらぬ笑顔でそう返事をする。
「ガイくん、セイランスくんとマリアさんがお見舞いにきて下さったわ。」
「お、わざわざすまんな。」
アビルさんに案内されて部屋へと入っていくと、視界にガイさんが入ってきた。
彼はベッドの上で仰向けになって寝ているが顔色は良さそうだ。
早々にアビルさんが退出するのを見届けた後、ガイさんの隣に置いてある椅子に座ってから声をかけた。
「こんにちは。お体の方はどうですか。」
「あぁ。動くのはまだ無理だが寝ていて退屈なくらいには元気だ。」
「それなら良かったです。」
この調子なら、傷跡は残るかもしれないがいずれ元気になるだろう。
「さて。昨日は本当にありがとう。」
「いえ、少々無茶をしすぎました。どうせなら、ガイさんの傷も綺麗に直せると良かったのですが。」
「何、気にするな。こうしてベッドで寝込んでいるおかげで、アビルのやつがいつもより優しいんだ。今朝も朝食を食べさせてくれてな。いやぁ、そんなこと久しぶりだったもんだから年甲斐もなく真っ赤になっちまったよ。」
彼はものの見事に惚気話を展開する。
夫婦仲が良いのは結構だが、髭を生やした男性が顔を赤くして照れる光景というのはどこに需要があるのだろうか。
●●●●●
『コンコンコン』
どれくらい喋っていただろうか。
途中アビルさんやセシルが部屋に入たり出たりしながらも、ノック音に気付けば窓の外では日が落ち暗くなり始めている。
「夕飯の準備ができましたよ。」
もうそんな時間らしい。
俺たちがガイさんに別れを告げて部屋の外へと出ると、既に机の上には食事が並べられていた。
「あ、セイランスくん。こっちこっち。」
彼女が無邪気に自分の隣の席をポンポンと叩いているため、そちらへと座る。
母とアビルさんもちょうど正面に座った所のようだ。
やはり4人で食事をすると普段の何倍も賑やかになり、夕食の時は楽しく過ぎた。
きっと今頃、隣の部屋ではガイさんが寂しそうにしているのではないだろうか。
申し訳ないが後でアビルさんに食事を食べさせてもらう時にでもイチャイチャしてほしい。
「お二人共、よろしければ今日は我が家に泊まって行きませんか?もうすぐ外も暗くなることですし・・・。」
食後の歓談を楽しんでいると、アビルさんからそのような提案がある。
「ね、セイランスくん。そうしてよ。」
「ですが・・・。」
「セシルもこう言っていることですし、ぜひ。」
母は顎に手を当てて悩んでいたが、しばらくすると首を縦にふる。
「そうですね・・・。それじゃあ、今日は一晩お世話になります。セイくんもそれでいい?」
「うん。いいよ。」
「やった!今日は一緒に寝ようね。」
「え?」
気軽に承諾したのも束の間、一緒に寝ようと言ってくるセシルに困惑する。
いやお互い子供同士なのだから年齢的には何も問題はないのだが、俺の精神衛生のためにもここは是が非でも遠慮させてもらおう。
「うーん。それはさすがにまずいんじゃないかなぁ。ね、母さん。」
「あら、別にいいんじゃないかしら。」
まずは母に止めてもらおうと思ったのだが何故か許可が出る。
こちらの母が駄目ならあちらの母だ。
「アビルさん?」
「私もいいと思いますよ。」
彼女も反対しないのだが、普通こういう時は真っ先に反対して若者達を諌めるものではないのだろうか。
戸惑う俺に追撃とばかりに言葉が飛んでくる。
「セイランスくん、私と一緒に寝るのやなの?」
いや、そういう問題じゃないんです。
「セイくん、女の子を悲しませちゃだめよ?唯でさえもつまらない会話をしていたじゃない。」
いや、そういう問題でもないんです。
それと息子の傷をこれ以上抉るのは止めてもらってもいいでしょうか。
「あぁ、私とマリアさんは2人と別の部屋で寝るから広さは心配いりません。」
いや、それはもっと問題です。
「セイランスくん、そんなに私が嫌いなの?」
「・・・そんなことないよ。一緒に寝よう。」
そういえば前世の父親が言っていた気がする。
いいか、男がどんなに力に優れていようとも女性に勝てるとは思うな。
何故かって?口で勝てないからに決まっているだろう、と。
●●●●●
「えっとセシルさん、布団が1つしかないよ?」
「うん。一緒に寝よう!」
部屋に入ると、彼女は布団に座り隣をポンポンと叩いている。
明日はきっと寝不足だろう。
彼は一体何が不満だというのです。




