24.彼は少女に出会う。
昼食を食べ終えた俺達は午後、長の家の前にいた。
「いらっしゃい、よく来たわね。」
ドアをノックすると、以前と同じように中年女性がドアを開けてくれた。
集落長の奥さんでキャロルさんだ。
彼女は案内をしながらも、俺に話しかけてくる。
「セイランスくん、大活躍だったんですってね。その年ですごいわ。」
「いえ。少し無茶をし過ぎました。」
「あらまぁ、謙遜だなんてしなくていいのよ。」
彼女はそう言うが、無論謙遜ではなく純粋に喜ぶ気力が残っていないだけだ。
もしかしたら、謙遜というのは叱られることで生まれるものなのかもしれない。
キャロルさんと軽い雑談を交わしながら部屋の前へと辿り着くと、彼女はドアをノックする。
「あなた、2人をお連れしました。」
「あぁ、入ってもらってくれ。」
ドアを開けて中に入る彼女の後に続き俺が中に入ると・・・何かに抱きつかれた。
おそらく女性に抱きつかれたらしい俺は、身体の至る所から感じる柔らかい感触と鼻孔をくすぐる甘い匂いに頭の中が真っ白になった。
何をどうすればいいのだろうか。
とりあえず息を思い切り吸う?それとも腰に手を回す?いや、そうじゃないだろう。
ここはお尻を触るべきだ。
「セシル、落ち着きなさい。」
思考停止した挙句お尻が好きという新事実が発覚した俺に女性の声が聞こえると、柔らかな感触は離れその姿が視界に写った。
身体は中学生くらい、獣人共通の茶色い髪はショートヘアというやつだろうか。
頭の上の耳は触ると気持ちよさそうだ。
少し焼けた肌に二重の目、小柄な鼻があり、唇からは白い歯が覗いている。
あの時は容姿をしっかりと確認する余裕もなかったが、どうやら泣いていた少女らしい。
「突然ごめんね。私セシルって言うの。パパと私を助けてくれてありがとう!」
「うちの娘がごめんなさいね。お礼を言うんだってうるさかったんです。私からもお礼を言わせて下さい。娘と旦那の命を救って頂き本当にありがとうございました。」
「いえ。ガイさんのお加減はいかがでしょうか。」
「家で安静にしています。しばらく休む必要はあるけれど、命に別状はないそうです。」
初めての治療でひそかに心配していたのだが、それならばよかった。
どうやら、この人はガイさんの奥さんらしい。
未だに鳴り止まない心臓の鼓動を落ち着けていると、どこからか咳払いが聞こえてくる。
「盛り上がっているところをすまんが、話を始めてもいいかね?」
そういえばここは集落長の部屋だった。
キャロルさんの方を見るとそちらからも生暖かい視線を向けられる。
人の部屋で青い春を繰り広げていた俺が悪いのだが、どうか早く本題に入ってもらえないだろうか。
「はい、失礼しました。」
「うむ。まずは儂からも言わせてほしい。魔物の討伐ご苦労だった。他の集落からも感謝の言葉を伝えてほしいと言われている。お前が魔物を倒していなければ被害者は出続けただろう。」
「数ヶ月前に偶然気づいたスキルのおかげです。それに魔法はマルガリンさんから教えて頂いているので、魔物を倒せたのは半分彼女のおかげだと思います。」
「ふむ、彼女にも後で礼を言っておこう。」
せっかくなので、普段お世話になっているマルガリンさんにも功績を分けておこう。
実際、動物を模す魔法を彼女が教えてくれたおかげで効率的に魔法を使うことが出来たのだ。
そして幸いにも、魔物を倒したことについて深く追求するつもりはないらしい。
おそらくだが、魔物の本当の強さというものを正確に理解しきれていないのだろう。
魔物は滅多にやってこないから俺達のほとんどは一度も魔物を見たことがないまま生涯を終える。
どれだけ伝聞で強さを聞いたり実際に被害が出ていたりしても、自分が経験していないものを適確に把握するというのは難しいものだ。
「あなた、あれをお渡しするんじゃなかった?」
「おぉ、そうだったな。」
長はそう言うと、机の中から白い塊と8本の巨大な爪を取り出した。
魔物が消えた後に残っていたものだ。
「昨日は一時的に預かったがこれは魔物を倒したお前の物だ。持って行くといい。」
「ありがとうございます。ですが、その白い塊は何でしょうか。」
「あぁ、確か魔石といってその者の魔力を蓄えられるものらしい。蓄えた魔力を使用するとその分だけ魔石は小さくなりいずれ消滅するそうだ。」
自分で充電する使い捨ての電池みたいなものだろうか。
「ところで、魔物を倒したら灰になったのですがあれは一体・・・。」
「すまんがそれはわからん。そもそも魔物自体がそう出るものじゃないし、調べようもない。ただ、今まで現れたことのある魔物も倒されると灰になったそうだ。」
これは全く謎だ。
動物には決して見られない現象だから、魔物特有のものなのだろう。
「儂の話はこれで終わりだ。後はお前たちで好きに盛り上がるといい。」
最後に俺と視線が会った時に、空気を読んだと言わんばかりにウインクをするのは止めてもらえないだろうか。
ちなみに抱きつかれた時マリアは後ろでニヤニヤしていました。




